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カケルが次にたどり着いたのは、朽ちかけた遊園地の片隅。
ひときわ大きな観覧車が、夜の空にきしみを立てていた。
シロ
シロが言うと、観覧車のゴンドラの扉が自動で開いた。
乗り込むと、すぐに周囲が暗くなった。
ライトも、音楽も、誰の声もしないーーまるで世界に置き去りにされたような沈黙。
でも、突然。
ピエロ
無音を破ったのは、ピエロの声だった。
ゴンドラの向かいに、いつの間にかいたのだ。
顔に貼りついたスマイル。
赤と青の涙のペイント。
ピエロ
カケル
カケルの頭に、ある情景がよぎった。
春の日の放課後。
教室に一人残って、泣いていた女の子に傘を差し出した、あの日。
名前も知らない、けれど確かに誰かを救えたと思った、唯一の記憶。
カケル
でももう遅かった。
ピエロの手がすっと伸びると、その記憶は光の玉になり、吸い込まれて消えた。
観覧車が止まる。
ゴンドラの扉が開く。
シロ
と、シロ。
カケルは何も言えなかった。
胸がぽっかり空いていた。
何かを失ったはずなのに、何を失ったか思い出せない。
地面には、また1枚のパンドラカードが落ちていた。
"あなたの「救い」を喪失しました"
その文字を見つめるカケルの目に、初めて迷いが差し込んだ。