繋がる命。

君から放たれた衝撃の一言。

わ･か･れ･よ･う

そのたった5文字が俺の心を侵食していく。

「別れたくない」

「いきなりそんな事言うなんて酷い」

って、それを言うだけなのに。

言葉が詰まる。

はっきりと声を出したつもりなのにヒョロヒョロとした頼りのない声。

そうだ。 この家は桃くんの物だった。

(ｶﾞﾁｬﾝ

俺は昔から声に出して発言するのが苦手だった。

だから、まともに声を出して泣くことすらも·····できない。

でも、この時だけは·····

俺の何が足りなかったのか。

あの優しい桃くん。

確かに、最近は俺と居てくれる時間が少なかったことに気づいてはいた。

でも、泣き叫ぶことは出来ず

ただただ小声で涙を流すだけだった。

彼に別れを告げられ今日でぴったり1年。

あの後、どうして振られたのか、

ずっと考えていた。

理由は1つ。

“俺が気持ち悪かった”から。

ていうか、振られた日から毎日数えてるとか、その時点でメンヘラかも。

(ﾌﾟﾙﾙﾙﾙｯ📱

“田中 愛”という人は俺の仕事の上司。

バリバリのキャリアウーマンで、

だけど、俺の事をとっても可愛がってくれる。

(ﾋﾟｺﾝｯ📱

ﾌﾟｰﾌﾟｰﾌﾟｰ📱

騒がしいけれど、とっても微笑ましい、楽しそうな家族。

1人、自宅で化粧水を顔にぬる。

今頃、田中先輩はご家族と夕飯かなぁｰ

さっきの通知！ 完ｯ全に忘れていた。

そんな事を考えながらスマホを開く。

開いてみると·····

はじめまして。

明日の正午、○○カフェで2人で会いませんか?

返事待っております。

そう思いながら、画面をスクロールしていくと·····

春咲 より ______

そこには、1年前別れた恋人の苗字があった。

人違い！？

いや、春咲·····なんて珍しい名字は中々いないと思うし·····ｯ

咄嗟に彼に会えると思った。

翌日 - 正午過ぎ

時間通りに来たものの、そこにはそれらしき人はいない。

というか、カップルしかいないし。

もう来なさそうだし·····

水色の無造作なサラサラした髪の毛。 声から男だと分かったけど·····女の子みたい。

大学生くらいかな·····? この子が春咲·····。

なんだろう·····

初めて会った気がしない。

初対面だというのに淡々と喋れるのがスゴすぎる。

苗字が同じだからどこか関係はあると思っていたけど·····

そう言って、桜色のカバーがされたタブレットを渡す青さん。

ｱｰｱｰｯ·····！

これ､?撮れてんのかｯ?

う~ん、多分大丈夫だなｯ！

えｰｯ、こんにちは！赤 久しぶり·····だねﾆｺｯ

まず！初めに

俺がこｰやって赤に直接お話が出来てないのは俺が意気地無しだからｯ·····

ほんと、ごめん。

この時点で俺は全部わかった。

桃くんが俺を振った理由。

こうやって、ビデオレターを撮っていた理由。

緑がかった赤線が入った浴衣のような服。

手を首に回した時に見えた手首に着いた管。

桃くんは·····

病気だったんだ·····

ごめんね、赤。

理由を聞かれたとき用に考えておいた。 考えといて良かったわぁｰｯ

嘘。

赤より好きな人なんていない。

嘘。

そんな事思ってないよ。

あぁ。

ごめんよ、赤。

そんなに泣きそうな顔しないでよ。

俺も泣きたくなっちゃうじゃん。

ダメだ。

早く1人にならなきゃ·····。

今にも涙が溢れだしそうだ。

赤の悲しそうな、切なそうな震えている声が俺の心に痛い程響いてくる。

あぁ。

嫌だ。 出ていかないで。1人にしないで。

俺と一緒に居て·····ｯ！

この状況に耐えきれなくなり 自分の部屋へ向かう。

赤の小さな声が聞こえる。

それに答えたい気持ちを押し殺し·····冷たい目で部屋を出ていく。

ｶﾞﾁｬﾝｯ

1人で泣いていると さっきの部屋からすすり泣く声。

とても小さな声。

でも、俺が赤の泣いている声を聞くのは初めてだった。

赤とずっと一緒にいたい。

なんで俺なんだ。

なんか悪い事したんかよ·····ｯ！

赤を幸せにするって·····

ずっとずぅ~っとｯ！ 赤を笑わせるって··········

人の暖かい体に触れたのはいつぶりだろう。

俺のことを抱きしめてくれたのは桃くんしかいなかったから·····

やさしくて暖かい·····。

【繋がる命。】

･━━━ ℯ𝓃𝒹 ━━━･