みーんみんみんみーん
じりじりと紫外線が照りつく路地を歩く
セミの鳴き声に耳を傾けながら後ろに手を組んで
この炎天夏の中パーカーを着ているため首筋に汗がたれる
砂利道の路地を歩く
ここが何処かも知らないし分からない
ジーパンのポケットに入っているスマホは彼等からの着信音でずっと鳴り続けている
あついなぁ…w
なんて独り言を呟きながら何処に向かっているかも分からない足を止めずに歩く
とにかく遠くへ行ってしまいたかった
誰の目にも止まらないところに逃げてしまいたかった
ふと足を止めて目の前を見ると海水が広がっていた
水平線に太陽が沈み始めている
もう日が暮れ始めちゃってる
そんな事を思いスマホのホーム画面を開く
今も彼等からの着信音やメールの通知で埋まっている
時計を見ると20:36を指していた
靴と靴下を脱ぎ捨て
そこらに適当に投げ置く
さらさらほ砂浜を歩いて海水の中に足を入れる
ひんやりとしていて今までの暑さが溶けていくようだった
日が沈みきってパーカーはもう良いかなと思い脱ぎ捨てる
パシャパシャと海で遊ぶ
少し濡れてしまったジーパンの裾を捲りあげてサラサラな砂浜に仰向けになって横になる
夜空を見上げる
手を組んで頭の後ろに固定して楽な体勢をとる
睡魔が俺の中をぐるぐる回っているので抗うことなく瞼を閉じようとした時にふいに誰かの声が聞こえる
な…!
誰かが俺を呼んでいる
誰だろうと思い体を起こして後ろを向こうとした時にふわりと誰かに抱きしめられる
ななっ…!
さとみくん…?
なな…!ななっ…
彼の体は汗でしっとりと服まで湿っていた
さとみく、苦しいよぉ…
心配した…っ
……そっか
彼は俺の体をもう離さないと言わんばかりにキツく抱きしめてくる
あのねさとみくん
彼の腕を解きながら彼に語り掛ける
な、な…?
彼の顔はお世辞にも綺麗とは言い難い顔だった
ぶふっ…
さとみくん今酷い顔してるねw
酷い顔をした頬を撫でる
あのね
おれね
疲れたから逃げたの
誰にも見つからないとこに行こうって
桃色の彼は自分自身の頬を撫でる俺の手を取り手の甲に口付けをする
さとみく、…?
ななが逃げたいなら俺も一緒に逃げるよ
そう言って片膝をつき俺の手を取ったまま優しく微笑んだ
ななが消えてしまいたいなら俺も一緒に消えるよ
先程までの酷い顔ではなく今は俺だけの彼の顔だ
でも、みんなは…
俺は皆よりななを取るよ
配信者としてもメンバーとしても失格だねと彼ははにかむ
そう言ったら俺も失格だよ
なら、俺達おそろいだね
ふふっ、そうだね
さて、行こうかなな
行こっか
彼は俺の手を取り海の中へと沈んでいく
足
ふくらはぎ
太もも
腰
横腹
胸
首
そこまで来た時彼は立ち止まった
さとみくん?
ななは本当にこれでいいの?
こちらに振り向き語りかける
俺はこれでいいんだよ
そっか
逆にさとみくんはいいの?
俺はなながいいならそれでいいよ
なんて臭いセリフを吐くもんだから頬がほんのり熱くなる
ななほっぺ赤くなってる
うるさいよ
ははっ、ごめんってそう怒んなよ
彼はまた俺の手を握りしめて歩む
じょぼんっと足が地に着かなくなると俺たち二人は抱きしめ合う
俺は苦しくて息を吸おうと海面に向かおうとするのを彼が口付けをして塞いでくれた
「愛してる」
そう言っているような気がして俺は最後の力をふりしぼり彼に口パクでこう伝える
「あ い し て る」