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放課後の教室は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。 机の上に残る消しゴムの粉と、少し冷えた空気。その中で、俺は一人、窓際の席に座っていた。 彼女は、もう帰ったはずだった。 それでも視線は、無意識に彼女の席へ向かう。 整えられた机。きちんと椅子に掛けられた鞄。 そこに、彼女がいた気配だけが残っている。 少しだけ彼女の喫茶店のココアの匂いが漂って。
sk
声に出すと、教室に溶けて消えた。 好きだと自覚したのは、きっと些細なことがきっかけだった。 ノートを忘れた俺に、何も言わず差し出されたルーズリーフ。 雨の日、傘を忘れた俺を見て、少し困った顔で笑ったこと。 彼女の淹れた、少し甘めのココア。
特別なことは何一つなかった。 それなのに、彼女の一つ一つが、俺の中で大きくなっていった。 彼女は誰にでも優しい。 だからこそ、俺だけが特別じゃないことを、よく知っている。
廊下ですれ違えば、軽く手を振ってくれる。 席が近ければ、たわいない話もする。 でもその距離は、いつも一定で__それ以上、近づけない。 放課後、友達と楽しそうに話す彼女を見るたび、胸が少しだけ痛んだ。 嫉妬する資格なんてないくせに、目を逸らすこともできなくて。
sk
誰にも聞こえないように、窓に向かって呟く。 この気持ちは、伝えないと決めていた。 告白して、彼女を困らせたくない。 今の関係が壊れるくらいなら、想うだけでいい。
そうやって、自分に言い聞かせてきた。
夕焼けが教室を染める頃、俺は鞄を持って立ち上がる。 最後にもう一度、彼女の席を見る。 明日も、きっと同じ距離。 同じように笑って、同じように話して、 そしてまた、好きだと伝えられないまま一日が終わる。
それでも__
彼女を好きでいるこの時間が、嫌いじゃなかった。 教室の電気を消して、扉を閉める。 静かになった廊下を歩きながら、胸の奥で小さく想う。 この片思いが、いつか終わる日が来ても。 こーちゃんを好きだったこの気持ちだけは、 きっと、ずっと忘れない。