私が小学校6年生の頃
隣のクラスに 動物と喋れる奴がいるらしい
という噂が囁かれていた
“猫神くん”の名前も 噂の中で知った
なんでも、猫神くんは 今年になって転校してきたらしく
他のクラスにあまり興味のない 私が知るはずもなかった
そんなある日の帰り道
私は不思議な光景を目にした
10匹はいるであろう猫の群れと
その中央にしゃがみこんでいる 男の子
色白で 茶髪のクルクルした癖っ毛
切れ長な瞳には 優しい色が浮かんでいる
猫神 皐月
彼が呼び掛けると 猫達が彼にすり寄っていく
猫神 皐月
水無月 美玲
猫神 皐月
猫神 皐月
猫に対して普通に話しかける 彼を見て
私は好奇心に駆られ 彼の隣にしゃがみこんでいた
水無月 美玲
私の登場に、猫達が 彼の後ろに隠れる
猫神 皐月
水無月 美玲
水無月 美玲
猫神 皐月
猫神 皐月
猫神 皐月
彼の言葉に、猫達が 恐る恐る顔を覗かせる
水無月 美玲
猫神 皐月
猫神 皐月
猫神 皐月
水無月 美玲
水無月 美玲
それ、と彼の手にしている ニボシを指差すと
どうぞ、と手渡された
猫神 皐月
一匹の猫が歩み寄ってきて 私の手からニボシを食べた
水無月 美玲
猫神 皐月
優しく猫の頭を撫でながら 猫神くんは誉め言葉を口にする
猫神 皐月
水無月 美玲
彼の肩に登った猫に 優しく注意しながら
猫神くんは私に
猫神 皐月
猫神 皐月
水無月 美玲
こうして、私は毎日 その場所に足を運んだ
小学校を卒業し、 中学生になっても
毎日、毎日
私の日常は、勉強と部活と
猫と、猫神くんに彩られていった
一方猫神くんは、 学校を休みがちで
中間、期末テストの当日と 普段の授業数回に出席
普段学校に来ないくせに
テストの順位は 勝てたことがなかった
いつもの結果
学年1位:猫神皐月 490点
学年2位:水無月美玲 485点
どうしても縮まらない5点の差が 悔しくて、悔しくて
でも彼と一緒に猫達と触れ合うと そんなことすっかり忘れてしまう
だけど、そんな不思議で 心地良い日常も終わりを告げた
私は他県の私立高校へ
猫神くんは地域の公立高校へ
こればかりはどうしようもなくて
猫神くんは何故か 携帯を持っていなかった
いくら近くにいたとはいえ 付き合っていた訳でもなく
“猫”という存在で繋がっていた絆
いわゆる 友達以上恋人未満 ってやつなのかな?
だから住所なんて知らなかったし 連絡手段も無くて
私と猫神くんは 次第に疎遠になっていった
高校で生物の授業を受けると
猫神くんは解剖を嫌っていたな
と思い出し、
『吾輩は猫である』を 詳しく習えば
猫神くんは この作品が好きだったな
と思い出した
だけど、頭に浮かんでくるのは
中学生のままの猫神くん
声変わりが遅かった猫神くんは
卒業間近で声がだんだんと 低くなってきていたから
今はどんな声になったのか 想像もつかない
だけど、猫神くんと猫の存在が 私の人生を変えたのは事実だった
小学生の頃はモデルさんや アイドルになりたかったのに
高校生になってすぐに “獣医になりたい”と思った
かつて猫神くんが猫の一匹一匹に 対して、丁寧に接して
餌がなくて困っていた猫を助けて
その猫の命を助けていたように
私も、動物を救いたいと思った
私が育って、猫神くんと出会った あの地域には
わりと有名な 獣医学科のある大学がある
私はそこに通うことにした
久し振りの街並み
幼かった頃には 大きく見えていた世界が
少しだけ小さく見えて苦笑した
前は空き地があって たくさんの猫がいたはずの場所は
アパートが建てられていて 猫の姿なんて無かった
水無月 美玲
そうだ、猫達は どうしているだろう
実家に顔を出す時間まで まだ少し間があった
私は自然に、初めて猫神くんと 出会った場所に向かっていた
懐かしい道、懐かしい壁の落書き
その全てが見えていたはずなのに
私の頭の中は
猫神くんと猫でいっぱいだった
ふと、風が頬を撫でて
舞った桜の花びらが視界を染めた
私は咄嗟に目を閉じる
目を閉じた私の耳に
声が飛び込んできた
『...おいで』
低くて、深くて
柔らかくて、優しくて...
形容し難い穏やかな声
目を開けた
私の瞳に写ったのは
私に背を向けている
色白で茶髪の癖っ毛の男性
その男性の足下には 3匹の子猫と、1匹の猫
見覚えのある猫の模様に 私は思わず口を開いていた
水無月 美玲
水無月 美玲
猫の耳がピン、と立ち
男性が驚いたように振り返った
猫神 皐月
懐かしい呼び方
今私の周りに 私を苗字で呼ぶ人は数少ない
猫と男性を交互に見て 確信へと変わっていく
水無月 美玲
猫神くんは柔らかく微笑んで
『うん、久し振り』と言った
たくさんの事を聞いた
猫神くんの肩がお気に入りだった トラが子供を産んで
今では立派な母猫になっている事
新しく建物が建てられた影響か
猫の数が減ってきていて
猫神くんの知っている範囲でも 15匹くらいしかいない事
猫神くんも夢が決まって
獣医になるために 私と同じ大学に進むという事
そして、またあの頃のような
温かくて幸せで
少し不思議で心地良い日常を
過ごせるという事
話し終わると、猫神くんは ゆっくりと立ち上がった
前は同じくらいの背丈だった彼が
身長162cmの私を頭1つ分上から 優しく見つめた
猫神 皐月
水無月 美玲
やっぱり私には、この不思議で 心地良い雰囲気が合う
......落ち着く
またこうして不思議な 日常を過ごせる事が
たまらなく嬉しかった
きっと、この街がだんだんと 変わっていっても
猫神くんと猫達が作り出す 私を包み込む日々は
変わらないと思う
水無月 美玲
猫神 皐月
水無月 美玲
水無月 美玲
猫神 皐月
水無月 美玲
私と猫神くんの足に じゃれつく子猫を見て
私たちは自然にしゃがみこむ
水無月 美玲
水無月 美玲
猫神 皐月
水無月 美玲
猫神 皐月
私は本当に この街と、猫達と、猫神くんと
“猫神くんとの不思議な日常” がたまらなく大好きだ
コメント
2件
とっても癒されました!!! 幸せな気分になれました...! こういうお話好きです♡