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あの日のことは覚えていない。
あの日
何があったのか。
当時小学生だったけちゃが
気がついた時には病院で
頭の中は真っ白
目の前は真っ暗だった。
母
母
母
母
説明されても
分からなかった。
思い出せなかった。
それから何度も
ぼんやり目覚めては
泥のように眠るのを繰り返した。
両親が代わる代わる
ベッドの側に
いてくれることもあったし
誰も居ないこともあった。
けれど
そっくりだと言われて
嬉しくなるくらい大好きだった
姉ちゃんだけは
一度も会いに来てくれなかった。
ねえけちゃ。
わたしね...
アイドルになるんだ!
弾けるような笑顔で言っていた
姉ちゃんとは
もう二度と会えない。
けちゃがそれを知ったのは
何回目かの目の治療を
終えた後だった。
あれから数年。
けちゃは緊張で鋼を打つ胸に
手を当てながら
男子トイレの鏡の前で
何度も深呼吸を繰り返してた。
鏡にうつった自分の顔は
記憶にある姉の顔によく似ている。
けちゃが成長する度に
どんどんあの頃の
姉の姿に近づいていた。
こうしてメイクをして
ウィッグで髪を長くすれば
とくにそうだ。
震える手で
淡いピンクのリップを
塗り直す。
鏡のなかで
青い顔をした自分が
ぎこちなく笑う。
ちがう。
こんな笑顔じゃない。
アイドルっていうのはもっと...。
ちぐさ
ちぐさ
かけられた声に振り返る。
心配そうにやってきたのは
けちゃの一つ年下で
幼なじみのちぐさだった。
次回作 ❤×40