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放課後のグラウンド。サッカー部の練習は、大会を控えて熱を帯びていた。
チームメイト
黒鉄 蓮
黒鉄蓮は、コートを縦横無尽に駆け抜けながら、常に周囲の状況を把握している。
敵の配置、味方の動き、芝の状態。その驚異的な視野の広さが、彼の「エース」たる所以だった。
だが、最近。その視野の隅に、どうしても「計算外の要素」が入り込んでくる。
黒鉄 蓮
黒鉄はドリブルをしながら、チラリとグラウンド脇の防球ネットに視線を走らせた。
そこには、黄色い応援メガホンを両手に持った瀬名 陽葵の姿がある。
陽葵は、自分のクラスの仕事があるはずなのに、少しでも時間が空けばこうして練習を見に来る。
黒鉄と目が合うわけでも、声をかけるわけでもない。ただ、祈るような、それでいてキラキラとした瞳で、黒鉄の一挙一動を見守っているのだ。
黒鉄 蓮
黒鉄は心の中で毒づく。だが、不思議なことに、陽葵がそこにいると分かった瞬間、背筋がわずかに伸びるのを感じていた。
チームメイト
豪快にネットを揺らした黒鉄に、チームメイトが声をかける。
黒鉄は無表情でそれに応えたが、無意識に、視線は再びネットの向こう側を探していた。
そこには、自分のゴールに飛び上がって喜ぶ陽葵がいた。
メガホンを振り回し、声こそ聞こえないが、口の形ははっきりと「すごーい!」と言っている。
黒鉄 蓮
黒鉄の口元が、ほんの、わずかだけ緩んだ。
いつもは「恋愛なんて、時間の無駄だ」と切り捨てていたはずなのに。
あんなに真っ直ぐに、あんなに混じりけのない好意を向けられて、動揺しないほど彼は鉄仮面ではなかった。
副キャプテン
副キャプテンがニヤニヤしながら寄ってくる。
黒鉄 蓮
副キャプテン
副キャプテン
黒鉄はフンと鼻を鳴らして背を向けたが、胸の奥はざわついていた。
誰に対しても素直で、隠し事ができない陽葵。
自分のような愛想のない人間に、なぜあそこまで情熱を注げるのか。
練習が終わる頃、空は濃い藍色に染まっていた。
黒鉄が汗を拭きながら、最後に一度だけ防球ネットの方を向く。
そこにはもう、陽葵の姿はなかった。
黒鉄 蓮
そう思った瞬間、少しだけ胸の奥が冷えるような、妙な寂しさがよぎる。
だが、その直後。
瀬名 陽葵
部室の影から、パッと陽葵が飛び出してきた。手にはキンキンに冷えたスポーツドリンク。
その全力の笑顔を見た瞬間、黒鉄は悟った。
自分はもう、この「真っ直ぐな光」から、逃げられなくなっているのだと。
黒鉄 蓮
瀬名 陽葵
黒鉄 蓮
黒鉄はぶっきらぼうにボトルを奪い取ったが、その指先は、陽葵に触れないよう、それでいて少しだけ名残惜しそうに震えていた。