狗巻棘
!、おかか!
生ぬるい液体が 瞳からこぼれて頬を伝う。
それに驚いたのか、
狗巻くんが"ごめん"と言って 手を離そうとする。
私は咄嗟にその手を 自分の両手で覆った。
違うと言うように 必死に首を横に振る。
私も彼も、 好きな人に愛を伝えたい。
それだけなのに、
その言葉は一度放たれれば 呪いとなって散る。
無機質なスマホの音声でも おにぎりの言葉でも、
伝えられないこの気持ちを。
漆間恋姫
( どうしたらいいの… )
悲しみと戸惑いで 涙が止まらない。
声を詰まらせて ただ泣いていると、
ふと狗巻くんの手が 私の頭に触れた。
なだめるように ポンポンと髪を撫で、
そのまま頬に滑らせ 親指で優しく涙を拭う。
漆間恋姫
っ、
そして名残惜しそうに 手を離すと、
素早くスマホをタップし、 画面を見せてくれた。
ぼやけた視界が 少しづつクリアになって、
文字が浮かぶ。
"恋姫のことが好き"。
"言葉に出来なくても 口に出せなくても、
俺たちのやり方で 伝え合おう"。
その言葉に私は精一杯の 笑顔で何度も頷いた。
漆間恋姫
『私も狗巻くんの事がだいすき』
そして私達は 確かめ合うように
額と額を合わせて くすりと笑った。
これは喋れない私達の 歪で不格好な恋の話。
愛 と い う 名 の 呪 詛 を 吐 く
fin
め ろ ん の コ ン テ ス ト
二次創作部門 / 希望