23:37
田中樹
〇〇
〇〇
田中樹
〇〇
今日も樹と会うために身支度をする夜
もうこんな事にも慣れてしまった。
"いつものホテル集合で"って
ホテル以外の場所で樹と会ったのってもう何年前のことだっけ。
樹と過ごす時間のほとんどはあのホテル。
結局樹が好きなのは私じゃなくて私の体なんだ
そんなこと思うのも今更だけど。
でも、それでも
これ以上依存しちゃだめだってわかってても樹から離れられない自分がいる。
だから今日もどうせ脱ぐ下着も彼の好きな黒で。
どうせ崩れる髪も綺麗にアイロンして艶々にして。
どうせ消える香りだって樹が好きな甘いバニラの香りで。
私、なんでこんなことしてるんだろ
虚しさにも慣れてしまっていたみたいだ。
田中樹
そう笑顔で手を振ってくる彼は相変わらずずるかった。
田中樹
〇〇
そんなつまらない会話を交わして私たちは静かにホテルへ向かった。
行為が終わった後、私たちはそのまま眠りについた。
気付けばもう朝で
先に目覚めた私は、床に放ったらかしたままの服を取って着替え始めた。
今朝はなんだか
寂しくて、切なくて。
その感情を紛らわしたくて
樹の服を着た。
考える前に体が勝手に動いていた。
そのとき
他の女の香水の匂いがした。
私より前に他の女ともしてたんだ。
そりゃそっか
遊んでるだけの関係だもんね
昔はこんなはずじゃなかったのにな。
気付けば、私は泣いていた。
なんで?なんで私泣いてるの?
前から分かってたじゃん
樹は他の女とも遊んでるって。
私は所詮その内の一人でしかないって。
そっか、私
樹のことが好きだったんだ
ずっと気付いていたのに、認めたくなかっただけだった。
どこか謎めいている彼に
知らず知らずのうちに惹かれていたんだ。
私が樹を褒めた時にくしゃって笑うとこも
不意にみせる儚げな表情も
"愛してるのは私だけ"って言ってくれるとこも
本当は嘘って分かっていたのに
全部、全部大好きだったんだ。
だからずっと離れられずに
どれだけ振り回されても
樹に依存していたんだ。
でももう終わり。
今日できっぱり樹との関係を絶つ。
これ以上会ったら、もっと樹のことを好きになっちゃうから
だからもう会っちゃ駄目なんだ
そう自分に言い聞かせた。
まだ気持ち良さそうに寝ている樹を横目に
"これからは私なんかじゃなくて他の女の子と仲良くして。"
と、紙に書いて机の上に置いた。
最後なのにこんなことを言ってしまう私は
つくづく嫌な女なんだと実感した。
きっともう樹と会うことは無い。
これで最後だから。
その名残惜しさからか
私は無意識のうちに樹の頬にキスを落としていた。
その瞬間、樹の目からも涙が溢れてきた。
なんで泣くの?
樹も少しは私のことを想ってくれていたのかな。
これがたとえ勘違いでもいい。
むしろその方が良いのかもしれない。
でもそう信じていたかった。
幸せになってね、樹
〇〇
愛は、今日も憂鬱だった。
コメント
16件
最高です……😭 続きも見てみたいくらい…(((
ゆめちゃんの物語好きすぎてすしなんだけど無理すし。
どうせ消える香り…?🤔