──────コツコツコツ
乾いた足音が真冬の夜道に響く
「 今夜はとても冷えるね。」
10年越しの恋人が呟く
私は「はあ。」と息を吐いて
乾ききった冬の空気を白く染め
精一杯絞り出した声で告げる
「 お別れ、しよっか。」
凍てつくような真冬の風が
誰一人いない無人の街へ駆け抜ける
目の前の彼は時が止まったかのように
俯き固まってしまっている
一分が一時間のようだった
どのくらい経っただろう
彼はおもむろに顔を上げると
複雑な表情で私に告げた
「 わかっていた。ありがとう。」
何をわかっていたのか
何に対しての感謝なのか
きっと私にしか理解できないのだろう
彼はそれだけ言い残すと
足早に去っていってしまった
───私は、“彼”をよくわかっていた。
「......────っ」
静寂に包まれる夜道に
彼の名前を呼ぶ私の声だけが
やけに切なく響いた。────
─────自宅マンションの屋上へ上がると
真冬の澄んだ空気と
高層ビルの聳え立つ
都会の夜景が一望できた。
「ごめんね。ありがとう。」
何に対しての謝罪なのか
何に対しての感謝なのか
わかってるのは自分だけでいい
今日のために全部捨てた
勤めていた会社を退職
住んでいたマンションを解約
そして君の思い出との決別。
私は、飛んだ。
君が亡くなった
この広く儚い世界は
私には大きすぎた
コメント
2件
よかったです😭 いいね100にしておきました! また読みに伺いますね✨😊