フェリックスとワトリーが、
黄昏時の柔らかな光の中、再びそのピアノ教室の扉を開けた。
教室には暖かい音楽が流れ、
壁には楽譜が並んでいた。
フェリックス
こんにちは

フェリックスが言うと、ピアノの隣で生徒に
指導していた先生のマリアンヌが振り返った。
フェリックス
昨日は申し訳ございませんでした。

ワトリー
すみませんなのだ

マリアンヌ
まだ何か用ですの?

フェリックス
はい。ミミちゃんの失踪のことで気になる事がありまして

マリアンヌ
今はレッスン中ですので、
終わりましたらお話できます。

フェリックス
わかりました。
ここでお待ちしています。

やがてレッスンが終わり、
教室に生徒はいなくなった
マリアンヌ
ミミちゃんの件ですね。
なにかありましたか?

フェリックス
はい。実はミミちゃんのパソコンを調べましたが、これといって
気になるメールのやり取り、検索履歴はありませんでした

マリアンヌ
そうなんですね。それが何か?

マリアンヌは腕を組み、
警戒の色を隠せないでいた。
フェリックス
はい。スケジュールも確認しましたが、
誰かと会っている様子もなかったのです

マリアンヌ
そうですか

フェリックス
スケジュールには、ピアノ教室、あとは友達との予定が書いてありました。そしてピアノ教室には週1回のところを最近は週2回になっていたのです

マリアンヌ
この前もお話しましたが、
最近は歌のレッスンも受けてますから、週2回に変更したんです

フェリックス
そこで疑問が浮かびました。

フェリックス
ミミちゃんのパソコンからは、
貴方が言っていた、人間のエドワード・ランサムの
検索履歴は一切出てこなかった

ワトリー
ミミちゃんの中学では、
人間の世界を検索しないようにするため、
パソコンには制限がかけられているのだ

マリアンヌ
そ、それが何だというの?

フェリックス
では、人間のエドワードについてどのように情報を得たのか?

フェリックス
ミミちゃんにエドワードの事を
教えたのは貴方ですね。

マリアンヌ
ち、違う私は知らないわ

マリアンヌは急に視線を逸らし、
その声は明らかに動揺していた。
フェリックス
それでは、ミミちゃんがなぜ歌を上手に歌えればエドワードに会えると
信じていたのか、教えてください。

フェリックスの声は静かだが、
その中には鋭い探求の意志があった。
フェリックス
あなたがそう教えたのではないですか?

その言葉に、
マリアンヌの目は大きく揺れた。
しかしマリアンヌは言い返した
マリアンヌ
ちょっと失礼じゃないですか
何を根拠にそんなことを
おっしゃてるの?

フェリックス
昨日あなたのパソコン画面を
確認しました。ほんの数秒間
エドワードがパソコンのトップ
画面に映っていた。

ワトリー
ボクがちゃんと見たのだ

フェリックス
そしてミミちゃんのパソコンにも同じように、パソコンを開くと
ほんの数秒間、エドワードが映るようになっていたのです。

フェリックス
これは偶然でしょうか?

フェリックスの質問は、マリアンヌを
一層追い詰めていた。マリアンヌは動揺を
隠せずにいたが、震える声で話はじめた
マリアンヌ
確かに、ミミちゃんに人間のエドワード・ランサムのことを教えました。

マリアンヌ
でも失踪のことは何も知りません。黙っていたのは、人間の歌手の事がバレたら私が疑われるかもしれないと思ったからです

フェリックスは一歩も引かず、マリアンヌの目を直視したまま、
さらに問いを投げかけた。
フェリックス
なぜ歌が上手くなれば、
人間に会えると言ったのですか?

マリアンヌ
あれは、ミミちゃんとエドワードの話をするのが楽しくて
つい言ってしまったのです

マリアンヌ
本気でそんな事を言ったつもりは
...

フェリックスは彼女に一歩近づき、
静かに言葉をかけた。
フェリックス
あなたの言葉を本気にして、
ミミちゃんは人間の世界に
行ったのかもしれないんですよ。

マリアンヌ
そんな...

マリアンヌの言葉は途切れ、
彼女は言葉を詰まらせながら涙を浮かべた。
つづく