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第1話 - あ

2023年05月24日

#スカッと

田中俊樹

イチロウ

おいミズキ

ミズキ

先輩、こんばんは

ミズキ

どうされましたか？

イチロウ

どうされましたか、じゃねえだろ

イチロウ

今日の恰好なんだよあれ

ミズキ

え？恰好って…

ミズキ

いつものスーツですが

イチロウ

スーツだけじゃねえか！

イチロウ

なんでもっと艶っぽい口紅とか、大人っぽいイヤリングとかしないわけ？

ミズキ

そう言われましても…

ミズキ

仕事にあまり関係ないと思うのですが

イチロウ

あー分かってないわー！

イチロウ

これだから学生時代から陰キャの女は腹が立つんだよなー！

ミズキ

すみません…

イチロウ

あのな、女の役割ってのはなんだ？

ミズキ

すみません、分かりません…

イチロウ

馬鹿が！

イチロウ

男を鼓舞することだろ！？

イチロウ

女社員のちょっと色っぽいオフィスカジュアルな姿を見てさあ！

イチロウ

男たちは興奮して、やる気が上がるわけだろ！？

イチロウ

それで営業とか取引も上手くいって、会社の業績にもつながるわけじゃん！

イチロウ

それくらい分かんねえかなあ！？

ミズキ

それは、全く仕事に関係がないと思うのですが…

イチロウ

お前はほんと使えねー奴だな！

イチロウ

それくらい気を回せよ！

ミズキ

すみませんでした…

ミズキ

でも私、そういったオシャレとは無縁なもので

ミズキ

よく分からないので、他の方にお任せします…

イチロウ

ま、そうだろうなｗ

イチロウ

最初からお前みたいなやつに期待なんかしてねーよバーカ！

イチロウ

勘違いして色気づいてんじゃねーぞ！

ミズキ

すみません…

～数か月後～

ミズキ

先輩、今どこにいらっしゃいますか？

ミズキ

会議がもうそろそろ始まります

ミズキ

皆先輩の事探してますよ

イチロウ

うるせえな

イチロウ

今いいところなんだよ

イチロウ

会議つってもどうせこの前のプロジェクトの話だろ？

イチロウ

お前らだけでやってろよ

ミズキ

でも、そういうわけには

イチロウ

うるせーって言ってんだろ！？

イチロウ

今目当ての女の子と良い感じなんだよ

イチロウ

お前が通知鳴らしまくって、この子がキレて帰ったら

イチロウ

お前責任とれんだろうな？

ミズキ

でも、課長も怒ってますよ

ミズキ

イチロウどこ行った！ってずっと怒ってます

イチロウ

は？課長？

イチロウ

なんで課長が？

ミズキ

この前の会議で、今回から課長も参加するって話が出たじゃないですか

イチロウ

はあ？マジかよ

イチロウ

お前適当に誤魔化しとけ

イチロウ

風邪引いて早退したとかなんとか言っとけ

ミズキ

そんな、私は嘘はつけません

イチロウ

頭かてえなー！いい子ちゃんぶってんじゃねえよ！

イチロウ

まあいいわ、後で適当に誤魔化すわ

イチロウ

お前はほんと使えねーな！

ミズキ

すみません

～数日後～

イチロウ

おいミズキ！！！

イチロウ

お前ふざけんなよ！！

ミズキ

どうされたんですか？

イチロウ

お前この前の会議の時

イチロウ

俺が欠席した時の俺とお前のやり取り、課長にチクっただろ！！

ミズキ

あれは、そもそも課長が私に、先輩に連絡してどこにいるか聞けと言われたので

ミズキ

その場で先輩に連絡したんです

ミズキ

あの場にいた誰もが、あのやり取りを見てましたよ

イチロウ

マジかよ、最悪だよお前のせいで

ミズキ

私のせいではないと思うんですが…

イチロウ

お前が最初から気を利かせて適当に誤魔化してりゃこんなことになってねーだろーが！

イチロウ

おかげで俺課長にめちゃくちゃ怒られただろ！

イチロウ

なんであんな奴に俺様が怒られなきゃいけないんだよ

ミズキ

そんな、課長は良い人だと思います

イチロウ

なんだお前、アイツに惚れてんのか？

ミズキ

そんな話ではありません

ミズキ

人間的に、とても尊敬できる人だという話です

イチロウ

お前あんなゴリラみてーなヤツがタイプなんだなｗ

イチロウ

意外とマッチョ好きか？ｗ

ミズキ

そういう話ではありません！

イチロウ

あっそ、まあどうでもいいわお前の好みなんてｗ

イチロウ

この前も、部署の中で誰が一番可愛いかランキングを男で話し合ったんだけど

イチロウ

お前ダントツで最下位だったわｗ

ミズキ

そうですか…

イチロウ

お前まずメガネダサすぎなｗ

イチロウ

度がきつ過ぎて見てるこっちがしんどくなるんだよｗ

イチロウ

服装もだせーし、猫背で見た目も最悪

イチロウ

化粧もしてないだろお前ｗ

ミズキ

まあ、あまりしていませんが…

イチロウ

だろうなｗ

イチロウ

どうせ私服もだっせーんだろ？想像つくわｗ

ミズキ

そんなにですか…

イチロウ

男全員言ってたぞ、お前とだけは絶対に嫌だってなｗ

イチロウ

付き合うどころかワンナイトもごめんだって皆言ってたわｗ

イチロウ

ま、仕事ができるイイ女ってのは見た目も気にするもんだ

イチロウ

男を鼓舞して盛り上げるっていう本来の役割を理解してる、イイ女はな！ｗ

イチロウ

お前も1回くらいは俺らを盛り上げてくれよｗ

イチロウ

まあ女捨ててるお前には無理かｗ

ミズキ

努力します…

～数日後～

ミズキ

先輩、お話があります

イチロウ

あ？なんだよ

ミズキ

部署内に、私が課長の事を好きだという噂を流したのは先輩ですよね？

イチロウ

そうだよｗ

イチロウ

ありがたいと思えよ！

イチロウ

お前みたいなのは、どうせ一生言えないんだろうから

イチロウ

俺が代わりに言ってやったんだよｗ

ミズキ

やめてください、迷惑です

ミズキ

事実無根の噂を流されて困ってるんです

イチロウ

知らねえよ

イチロウ

自分でどうにかすれば？

ミズキ

そんな、先輩が流した噂ですよね？

ミズキ

先輩が、あれはウソだったって皆に伝えてください

イチロウ

は？なんでお前に偉そうに指図されなきゃいけないわけ？

イチロウ

俺はお前が困ってようと一切なんのダメージもないし

イチロウ

ウソだったって言ってほしいなら、それ相応の頼み方ってものがあるよな？

イチロウ

人にものを頼む態度くらい、ダッサいお前でも知ってるだろ？

ミズキ

先輩が原因なのにですか？

イチロウ

じゃあ噂そのままでいいんだな？

ミズキ

それは…

イチロウ

じゃあ早く頼めよ

ミズキ

すみません、先輩が流した「私が課長を好いているという噂ですが」

ミズキ

あれは冗談だった、という形で皆に伝えていただけないでしょうか？

ミズキ

どうかよろしくお願いします

イチロウ

えーどうしよっかなーｗ

ミズキ

そんな、話が違います！

イチロウ

分かったってｗ

ミズキ

本当に、お願いします…

～数か月後～

イチロウ

なあ、お前んとこにヘッドハンティングの話がきたってマジ？

ミズキ

どこからそれを？

イチロウ

いいから言えよ、本当なのかよ？

ミズキ

はい、本当です

ミズキ

私の仕事ぶりが本社の方の目に留まったみたいで

ミズキ

本社の上層部の方が直々にいらっしゃって、私を引き抜きたいと仰ってくれました

イチロウ

あのな、お前なんかがいけると思ってるのか？

ミズキ

え？どういうことですか？

イチロウ

お前みたいに見た目ダサくて、明らかに仕事できませーんって感じの奴が

イチロウ

急に本社に引き抜かれるわけないだろ？

イチロウ

おおかた、お茶くみ係がいなくなったとかそんなんだろ

イチロウ

お前が本社の仕事させてもらえるわけないじゃん

ミズキ

そんなことはないと思うのですが…

イチロウ

絶対なんかの間違いだって！

～数か月後～

イチロウ

お前、マジで本社にいくらしいな

ミズキ

はい、来週から向こうで勤務することになりました

ミズキ

今までお世話になりました

イチロウ

本社の奴も見る目ないよなー！

イチロウ

明らかにお前みたいなの全然使えないじゃん

イチロウ

なんで俺じゃないわけ？

ミズキ

私に言われましても…

イチロウ

お前、調子乗んなよ？

イチロウ

お前なんかすぐ仕事できないのがバレてこっちに戻ってくるか

イチロウ

最悪クビだぞ

ミズキ

そうならないよう、頑張ります…

～十数年後～

イチロウ

ミズキさん、こんばんは！

イチロウ

イチロウと言います。今日はありがとうございました！

ミズキ

こちらこそ、ありがとうございました

ミズキ

支社の方とお話しするのは久しぶりだったので、色々と懐かしかったです

イチロウ

え？ミズキさん支社にいたことあるんですか！？

イチロウ

いや～羨ましいなあその支社ｗ

イチロウ

きっとミズキさんがいたから、男は皆やる気満々だったでしょうねｗ

ミズキ

と、いうと？

イチロウ

いや、ミズキさんのお美しい顔！

イチロウ

知的な目に艶やかな唇！

イチロウ

そして何より、抜群のスタイル！ｗ

イチロウ

見てて最高です！

イチロウ

僕もミズキさんのような女性と付き合って結婚したいですｗ

イチロウ

今度飲みに行きませんか？

イチロウ

僕、ミズキさんのような大人の女性でも満足させてあげられる自信がありますよｗ

ミズキ

結構です、私既婚者なので

ミズキ

あと、イチロウさんお会いした時に「初めましてと仰いましたが」

ミズキ

初めましてじゃありませんよ

イチロウ

へ？

ミズキ

覚えていないんですね

ミズキ

後輩の、野暮ったくてダサくて仕事もできないミズキです

ミズキ

先輩、お久しぶりですね

イチロウ

え！？お前、あのミズキなのか！？

イチロウ

でも苗字が…

ミズキ

先ほども言いましたが、結婚しているので苗字が変わっているんです

イチロウ

そんな…名前が同じなだけかと…

イチロウ

それよりもお前、いつの間にそんなイイ女になったんだ！？

ミズキ

私があなたの言うイイ女かどうかは分かりませんが

ミズキ

本社で勤務することになった後、あちらで知り合った同僚の方々にとても良くしていただきまして

ミズキ

ファッションの事に関しても色々と教えていただきました

ミズキ

今の夫と出会ったのもその頃です

イチロウ

そうだったのか…

ミズキ

給料もあの頃よりかなり上がりました

ミズキ

そのおかげで、お化粧や服装など、身だしなみにお金をかける余裕もできたんです

イチロウ

お前、今いくらもらってるんだ…

ミズキ

詳細を言うつもりは勿論ありませんが

ミズキ

今のあなたより、500万以上は多いと思いますよ

イチロウ

ご、500万以上…

ミズキ

今日は十数年ぶりにあの支社に行くことになったのでとても懐かしい気持ちだったのですが

ミズキ

あなた、まだ主任にもなれず一般の平社員のままなんですね

ミズキ

あの時の課長はもう部長になってらしたのに

イチロウ

そ、それは…

ミズキ

聞くとあなた、あれ以降もずっと無断欠席や遅刻を繰り返していて

ミズキ

出世の道はもう完全に閉ざされているらしいですね

イチロウ

俺は悪くない！

イチロウ

俺にくだらねえ仕事を押し付ける他の奴らが悪いんだ！

イチロウ

俺にはもっと相応しい仕事がある！

イチロウ

あんな間抜けな奴らがやるような仕事じゃなくて、もっとどデカイ仕事が！

ミズキ

そうですか

ミズキ

お変わりないんですね、数十年経っても

イチロウ

それよりよ、ミズキ

イチロウ

お前俺の女にならねえか？ｗ

ミズキ

はい？

ミズキ

何をおっしゃってるんですか？

イチロウ

今のお前なら、女として見てやってもいいぞｗ特別にｗ

イチロウ

どうせお前が結婚した旦那も大した男じゃねえだろ？ｗ

イチロウ

どうだ、俺の女にならねえか？

イチロウ

それでよ、俺の事を本社に口利きしてくれよ

イチロウ

俺ってやっぱ仕事できるじゃん？

イチロウ

でも周りが下らねえ仕事ばっかやらすから、本領発揮できないわけよ

イチロウ

後輩もちょっとイビっただけで俺の事避けるしよ

ミズキ

まだあの時と同じような事をやってるんですね…

イチロウ

この前も課長にチクりやがって、俺が怒られるはめになったしよ

イチロウ

そういやお前も課長にチクった事あったなｗ今はもうアイツ部長だけど

イチロウ

なんでアイツが部長になるかねー？俺の方がよっぽど優秀だろ？

イチロウ

どうだミズキ、悪くない話だろ？

イチロウ

昼は大好きな仕事してりゃいい、夜は俺が満足させてやるからｗ

イチロウ

な？どうだ？

ミズキ

昔から思っていたんですが、あなたのその自信はどこからくるんですか？

ミズキ

何の根拠も、実績も、スキルも、経験も、何もないのに

ミズキ

それが昔から不思議で仕方ありませんでした

ミズキ

でも、これである意味安心しました

イチロウ

何の話だよ？

ミズキ

実は私が今回久しぶりに支社にきたのは、ある問題を直接視察するためでした

ミズキ

私がこの支社から本社に引き抜かれたということで、視察を任されたんです

イチロウ

視察？なんのだ？

ミズキ

それは、この支社で蔓延っているパワハラ・セクハラ問題です

イチロウ

はあ？

ミズキ

私はこの問題を聞いた時、あなたの事を思い出しました

ミズキ

それで、あなたがこの問題の主な原因じゃないかと思ったんです

ミズキ

それを進言したところ、私が視察して調査することになったんです

ミズキ

社内で問題解決できるならそれに越したことはない、という方針でした

イチロウ

俺が原因！？

ミズキ

はい。自覚なかったんですね

ミズキ

新入社員や女性社員からかなりの数の報告がきています

ミズキ

また、あなたが私に送ったメッセージも、セクハラが大量に含まれています

ミズキ

これら全て本社に報告させていただきます

イチロウ

は！？おい、ちょっと待て！

ミズキ

結果は追って連絡します

ミズキ

もっとも、連絡は私以外の者からくると思いますが

ミズキ

それでは

イチロウ

おいおい待て！ふざけんな！！

イチロウ

お前ごときが俺を見下してんじゃねえぞ！

イチロウ

おい返事しろ！！

イチロウ

おい！！！

～後日談～

ミズキ

その後、結論から言うと彼は解雇された

ミズキ

パワハラ・セクハラ問題もあったが、彼はそれに加え会社のお金を横領していたのだ

ミズキ

逮捕、起訴され賠償金も請求させた彼の今後の人生は地獄そのものだろう

ミズキ

私は仕事も充実し夫との夫婦生活も良好

ミズキ

子宝にも恵まれ、今は育児休暇を取っている

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田中俊樹

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第1話 - あ

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