今井花香は、天才的な水泳選手だったが、膝を怪我したことから水泳をやめ、小さな島で山村留学生としてくらしている。
東京からコーチが迎えにきて以来、様子のおかしくなった花香学生、ある夜いなくなった。
「僕」は、プールで花香を見つけ、東京へ帰るのかと問いかけた。
花香がスタート台から降りてかがみこみ、指先を水につけた。
手首まで浸したところで、まるで熱湯に触れてしまったように慌てて手を引き抜く。
今井花香
僕
今井花香
僕
のろのろと顔をあげる。
今にも泣き出しそうに顔が歪んでいた。
また水に手をつけ、今度はもう少し長くそうしていた。
水をかき回す手が歪んで見える。
立ち上がり、スタート台にたつと、裸足の爪先が台の先端をつかむようにきゅっと曲がった。
背中の筋肉が盛り上がり、今にも飛び込みそうに見える― だが、そこまでだった。
ため息をついてスタート台から降りると、右膝をかばうように手を添える。
体が萎み、肩が震えだした。
彼女の心の底に渦巻くものを、僕は必死で感じ取ろうとした。
膝は治っているはずだ。
何を考えたかは分からないけど、半年ブランクのあと、たった一回泳いだだけで投げだしてしまうのは、あまりにも情けなくないだろうか。
ふだんの強気な態度を考えれば、どうにも彼女らしくない。
花香はそのまましばらくじっとしていたが、突然背筋を伸ばし、助走をつけていきなりプールに飛び込んだ。
僕は、慌てて身を乗り出した。
服が邪魔になっているはずなのに、悠然とクロールで突き進みはじめる。
僕は水泳に関してはほとんど素人だけど、そのフォームが無駄なく綺麗なものであることぐらいは分かった。
僕
プールサイドに回り込み、彼女と並んで走った。
五十メートル游ぎきった花香がスタート台に手をかける。
体を持ち上げようとして、手が滑り、背中から水に落ちた。
笑ってしまった
今井花香
花香が僕を睨みつける。
濡れた髪が額に張り付き、息が荒くなっている。
僕
今井花香
今井花香
今井花香
僕
僕
今井花香
今井花香
今井花香
今井花香
僕
なんとなく分かった。
一流の選手は、みんなこんな感じなのだろう。
今井花香
今井花香
今井花香
今井花香
今井花香
僕
僕
今井花香
今井花香
今井花香
今井花香
僕
今井花香
今井花香
今井花香
今井花香
今井花香
花香が燃え上がるような目つきで僕を睨んだ。
続く
コメント
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はなしつくるのうまいですね
なんか好き。 水泳選手ってかっこええよなぁ 俺好きだわ★