主
主
主
捨て地
今日は厄日か?
何でこんな事に なっちまったんだ
雀
胸元から 不安で消え入りそうな 小さな鳴き声が漏れる
俺は その震える肩を固く抱いた
きっとコイツが涙を流せたなら 今頃お面の下は大洪水だろう
俺だって泣きてぇよ
真っ赤な眼光は素早く 喜々としてこちら向けられている
金属の擦れあったような けたたましい轟音と暴風が 身を裂くのも時間の問題だろう
俺はゆっくりと目を閉じた
座礁船が横たわるこのエリアが 最近の俺の仕事場だ 仕事場といっても 誰から報酬を貰うわけでも 頼まれているわけでもない
星の子は なにゆえに生まれ なにゆえに死ぬのか
過去の遺産である座礁船に 何か手がかりはないかと 自己満足の調査に明け暮れていた
そんな時に ふと精霊の記憶が 船の中を横切るのが見えた
これはよく見る光景で、 強い意志を持った精霊は 記憶だけがそのままその地に取り残されることがある
俺たち星の子は生まれた時は何も それそこ 笑うことも 泣くことも 怒ることも 知らないのだが
その記憶に触れることによって 心を表現する方法を知っていく
そしてその強く地上に残された 精霊の記憶を空へ還す
それが本来の星の子に 与えられた使命なのだが 感情を知りすぎてしまった星の子は考えるようになる
何故我々は 死なねばならないのだろう
俺もその口の一人で この世界とは 星の子とは 精霊とは
捨て地は戦場としての爪痕が濃く 薄暗く入り組み 危険な闇の生物も多く 調査は難航していた
それが気になり 各地で調査をしていた
雀
通り過ぎた精霊の記憶が来た方から叫び声が聴こえる
細めて目を凝らすと 捨て地の汚水で足を取られ 身動きが取れなくなっている 黒子が見えた
ケープを広げ 鳴き声の主の元へ降り立つ
バシャバシャと暴れる その黒子のケープからみるみると 光の色が消えていく
捨て地
俺は慌てて自分の光を炎に変えるとキャンドルを灯した
暴れていた相手も同じように 己の光を炎に変えキャンドルを灯す
互いの炎を近づけ 光を混ぜ合わせる事によって 星の子は互いを個体として 認識することができる
この広い世界での 自己防衛機能だと そう思っている
互いの光が混ざり 相手の姿が徐々に現れる
右の髪に髪飾りをつけ 茶色のケープを羽織った やはり雀だった
声に乗せ自分の光を分けると みるみると雀のケープは 光を取り戻した
捨て地
ジャギンッ!!
耳をつんざくような爆音と共に 突如に眼前が赤く染まる
やばい!!
なんで、ここは暗黒竜の巡廻ルートじゃないはずだろ!? 誰かが見つかって ルートがズレたのか!?
浮かんでは消える疑問を振り払い 今しがた出会った雀に 視線を飛ばす
手を!!
しかし星の子は 互いに赦し合い認め合った者でないと手すら繋ぐことが出来ない
一人でなら余裕で逃げれる 逃げたらこいつはどうなる?
赤い眼光に照らされた 雀の顔には 恐怖が貼り付いていた
捨て地
喉が鳴る
自分が囮になるしかない
考える暇はない この雀より自分の方が 羽根の枚数も多い 短く息をついて ケープを広げた
しかし長く汚水に 浸かってしまったケープは 光を失い重く身体にまとわりつく
血の気が引くのがわかる
魔法はもう間に合わない
ーーー ならば ーーー
暗黒竜を背に向け 雀を抱き寄せ身を屈めた
願わくばどうか あの竜に見えてるのが俺だけであれ
雀
胸元から 不安で消え入りそうな 小さな鳴き声が漏れる
俺は その震える肩を固く抱いた
きっとコイツが涙を流せたなら 今頃お面の下は大洪水だろう
俺だって泣きてぇよ
真っ赤な眼光は素早く 喜々としてこちら向けられている
金属の擦れあったような けたたましい轟音と暴風が 身を裂くのも時間の問題だろう
俺はゆっくりと目を閉じた
次の瞬間
耳に届いたのはあのやかましい 暗黒竜の鳴き声ではなく 重く地面を揺らす地響きだった
捨て地
目を開けると 何も見えなかった
開けているのかどうかもわからない 暗闇だった
暗闇だが 依然として暗黒竜の気配は感じる
その場から動こうと立ち上がる
捨て地
進もうとした先には壁があり 見事に顔面をぶつける
捨て地
即座に上を見上げると ぽっかりと捨て地緑の空が 丸く切り取られている
捨て地
土管で仕切られた空を 猛スピードで飛び抜く 星の子が見えた
そして 真っ赤な眼をした暗黒竜が続く
まずい!
土管に手をかけ 縁に飛び乗るのと同時に
暗黒竜が 空を飛ぶ星の子に激突し 羽根が砕け粉々になった
捨て地
完全に光を失った星の子が 枯れた棒切れのように 地面に落ちた
雀
捨て地
俺は雀を促す
雀はおずおずと ケープに力を入れると 羽ばたいて見せた
捨て地
雀
捨て地
ペコリと頭を下げた雀の頭を撫で 回復したケープで羽ばたく
急げ 汚水に落ちてないと良いが
捨て地
随分長く探したが 落ちた星の子が見つからない
座礁船が遠くに見える パイプが入り組んでいて 足場も悪い
あの飛び方 それなりにこの世界に 生まれ落ちてから長いはずだ
捨て地
もう諦めようかとした時だった
峡谷
微かに 誰かの声が聴こえた
急いで声の方へと向かうと 汚水の波打ち際に 一人の星の子が倒れ込んでいた
捨て地
大声をかけるが反応がない 気を失っている
パリンッッ!
星の子の羽根が一枚散った
落ちてから ずっとここに 倒れていたのだろう
ケープに浮かび上がる星の数が 少なくなってきている
捨て地
再三の呼びかけで 星の子はほんの少し目を開けると 薄く笑った
峡谷
捨て地
ここで死なれたら 俺の気が悪いだろ!!
俺は自分の光を炎にし キャンドルを灯した
峡谷
星の子は一度は その炎に触れようとするが 光を失い過ぎたせいで 起き上がることが出来ず 自分のキャンドルを出すことも 出来ずにいた
捨て地
ふと 相手の星の子の胸元に弱く光る コアが目に入った
俺たち星の子は このコアが身体の中心と言っても 過言じゃない
コアから光を取り出し キャンドルに炎を灯したり キャンドル自体を錬成したりする
捨て地
上手くいくか自信はない 思いつきだ しかし迷っている暇もない
弱く瞬きをしたのを 同意として 俺は倒れていた星の子を 抱え起こした
身体が汚水に汚れないように 少しだけ岸辺へ上がる
キャンドルの炎の交換は いわば 星の子にとって間接的な挨拶方法だ
重要なのは光の混ざり合い
ならば直接光を交換すれば良い
自分のコアと 相手のコアをすり合わせる
峡谷
捨て地
電撃が走るかのような衝撃が 身体を駆け巡る
そりゃそうだ
間接的な方法を 取らねばならないくらい重要な場所 つまりは一番刺激に敏感な 急所ということでもある
峡谷
もちろんコアも 無防備にヤワではない
強く、ゴリゴリと 自分のコアで相手のコアを 傷つけるように擦り付ける
擦り付ける度に 身体に体験したことのない 電流が走る
コアを守るための防御機構なのか とろりとした光の粘液が滲み出す
それが潤滑剤かのように ぬるぬると滑りを良くし 腹部を汚す
痛いに似た 怖いに似た でも、やめられない
きもちいい
応急手当てのつもりで 思いついたこの方法だったが
こんなにも刺激的だとは 思わなかった
峡谷
捨て地
うまく光が混ざり出したのか ぼんやりと相手の姿が露わになる
ツンツンとした 峡谷の究極ヘアだった
賢者からの贈り物の白いケープは すっかり汚水に汚れ かっちりとしたはずの預言者の袴は シワだらけだ
粘度がある光の体液が前を汚し 体験したことのない 快楽に耐えようと 身体が小刻みに痙攣をしている
峡谷
黒子の時よりもはっきりと 相手の声が耳に届く
荒い息遣いと 熱っぽい身体 湿った声が脳裏に響く
捨て地
俺との距離を取ろうと 懸命に俺を押し返す腕を押さえる
峡谷
相手の身体がビクリと反応すると 一緒に涙の粒が零れた
コイツは雀と違って泣けるんだな と、思い 自分と同じく 感情を知りすぎてしまっている この星の子が愛しく思えた
快楽の電流が走るように コアをすり合わせる
粘液が泡立ち ぐちゅぐちゅと水音を響かせる
いつの間にか俺は 己の欲望のままに動いていた
峡谷
自分も何かが身体の中で 暴れて回っていた
確実に大きく、熱く、乱暴に 自分の中を乱していく
それが 何かが来るのか 何かが行くのかは わからない
捨て地
相手の中へ押し入るように 自分を刻むように
峡谷
今日一番強い力で押されるが 離せるはずがない
ボロボロと 夕陽の様な瞳から 雨が降る
捨て地
限界の先は俺もわからない
ただ止めようとは思わなかった
この快楽の先を コイツと見てみたい
そう思った
押し付けて、滑らせて 擦って、ぶつけて
迫り上がる 何かを挑発するように 気持ちよくなるように 相手が 甘美な声を上げるように
峡谷
捨て地
一際大きな声を上げると ガクガクと身体を痙攣させ 峡谷ヘアの星の子の意識が飛んだ
俺は甘い夢にでも落ちた様な 気分でいた
荒い呼吸を整え状況を確認する
峡谷ヘアの星の子の ケープの光は回復している その点については 心配はいらなさそうだ
しかし
捨て地
苦肉の策ではあったが アレだけの事をしてしまったので やはりというか
自分の下半身は 完全にヤル気に満ち溢れていた
先程の情事を思い出す
捨て地
童貞? てか、イったことあったのか?
捨て地
倒れた峡谷ヘアを 抱えると空へ飛び立つ
なにはともあれ 光の交換は出来 調子にのりフレンドにまで なってしまったらしい
捨て地
黒いケープを翻し 捨て地ヘアはその場を後にした
コメント
6件
最高でした!とても面白かったです!!!
読んで下さいまして ありがとうございます いいね押して頂き ありがとうございます 書きたいものを 好きなように書いていますが 閲覧回数が出ないアプリなので やっぱり反応があると 読まれてるんだなと 嬉しく思いますね 次も書こうという 励みにもなります 次回も頑張ります