東京ミッドハート0

俺が居るのはとある路地裏、酒井のGPS反応が消失した地点である

乱れた息のまま酒井消失の手掛かりを探しに路地裏へと足を踏み入れる

スマホのGPS反応消失地点を示す位置を再確認し、ここからは慎重に行動を開始する

話し声だ

曲がり角の更に奥から微かにではあるが人の話し声がした、波時雨は更に慎重さを増し、その声の主に気付かれぬ様に近付く

はい……終わりました

『酩酊』は予定通り本の中、護衛の必要はありませんでした

振りかざされる黒い拳 それをすんでのところで避け 目の前の敵を睨み付ける

周りには細心の注意を払って居た、ましてやこんな禍々しい雰囲気を持つ人間の気配を俺が見逃すはずない

駆ける音が聞こえ、それが次第に小さくなる……それは先程の電話をしていた人物が逃げた事を表す

彼の足元からはこの暗い路地では見えにくい真っ黒な腕が2本伸びている そして目の前の男は腰を引きすぐさま腕を前へ突き出す

男が腕を突き出すと同時に黒い拳がこちらに向かって飛んでくる それを｢翔水｣で応戦する

｢飛水｣、俺の使う技の中で最も水を消費しない技だ、手に付いた水滴を飛ばし、異能力で加速させる 銃弾には劣るがコンクリート程度なら穴を開けられる

元より、こんな銃弾以下の威力の弾であの拳に打ち勝つ気は無い

その声により俺に向かっていた拳は彼の元へ戻っていく

放った｢飛水｣の内ほとんどが戻った拳に防がれてしまった……が、その間を3発の弾が抜け、彼の身体に直撃する

当たった腕を抑えながら男は黒い拳を引っ込め声を上げる

男がそう叫ぶと男の背後から通常の狼の2～3倍もの体格を持つ真っ黒なオオカミが出現し、路地裏を覆い尽くす

不味いな……水が無い…… 俺の異能力の欠点、それは水を"操る"だけであって"生成"する事が出来ない、と言う所だ

ここは路地裏……川も海も無い…… 何処かに水は……

オオカミが壁を蹴りこちらに向かってくる

空気中にある僅かな水分をかきあつめなんとか水の剣を創り 俺はオオカミではなく地面を切り裂く

すると波時雨が切り裂いた地面から水が吹き出る

波時雨の持つ水の剣は今度は吹き出す水を纏い、波時雨はそれをオオカミに向かって振りかざす

剣から大量の水と同時に無数の｢荒波｣が狼に襲い掛かり

｢水禍｣に触れ、男の｢影狼｣は一瞬で切り刻まれてしまった

｢水禍｣はそのまま直進し路地裏の壁に激突し、激しい衝突音を上げ止まる

波時雨は一息付き｢水剣｣をただの水に戻す

俺は手に本を持つ彼を捕まえようと駆け出すが、男は本にライターで火をつけ、その瞬間本の中へ吸い込まれる様に消えていった

俺はすぐさま異能力で水を操り消火するが、既にその本は読めるような状態では無かった

シルヴァー・クリス 異能力ランク A(推定) 異能力名『silver cathedral』 銀聖堂

リア=ルクス・ラヴ 異能力ランク B+(推定) 異能力名『LA・LA・LAND』 ラ・ラ・ランド

メイザー・S・ギルティ 異能力ランク A-(推定) 異能力名 『guilty fly』 咎蝶

扉がゆっくりと開く

ヴァルダス・グリード 異能力ランク S(暫定) 異能力名『Le Rouge et le Noir』 赤と黒

扉の奥にはイギリスら辺の貴族の御屋敷の様な光景が広がり、テーブルには豪華な料理がずらっと並んでいる

その席に座る明らかに怪しい奴ら 数名は立っているが…… 用意されてるなら座ればいいのに

ソイツとは随分な言い様だ 俺は直ぐにでも出たいってのに

我ながら子供っぽいがそれほどリタと言う少女の異能力が理不尽なのだ さっき試したが戦う意志を持ってる状態だと人に触れないらしい それはまぁ不思議な感覚だった、まるで透明な巨大クッションを殴ってる様な……