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第1話 - あ

2023年06月03日

#恋愛

結城真矢

ハルナ

ちょっとナツオ、朝から一体どこにいってるの？

ナツオ

なんだよ、今いいところなのに！

ナツオ

どこに居たって別にいいだろ。いい大人なんだから放っといてくれよ。

ハルナ

ちょっと、「いいところってまたパチンコへ行ってるの？」

ナツオ

そうだよ、俺が稼いだ金なんだから、何に使おうが俺の自由だろ。

ハルナ

何言ってるの？家族の生活費よ。何回言えば分かってくれるのよ。

ハルナ

独身とは訳がちがうのよ。

ナツオ

そんなの関係ねぇ！生活費なんて、お前のパート代があるんだから、

ナツオ

それで十分だろ。やりくり出来てないお前が悪いんだよ。

ハルナ

私のせいみたいに言わないで。

ハルナ

私のパート代から子供たちの習い事代、光熱費、通信費、保険料も払ってるのよ。

ハルナ

それで生活費に回せるお金なんて、１～２万円程度。

ハルナ

全然足りないから朝から晩まで必死で働いてるのよ。

ハルナ

必死でやりくりしても、全然貯金も出来ないわ。

ハルナ

あなたが全部、ギャンブルに使っちゃうから…。

ナツオ

ただのギャンブルじゃねぇよ。俺の生きがいなの！

ナツオ

毎日毎日、つまんねぇ仕事とうるさいお前の小言で疲れてんのよ。

ハルナ

私だって、好きでうるさく言う訳じゃないわ。

ハルナ

それに、毎日仕事に行ってるって威張っているけど。

ハルナ

私も毎日働いているわ。しかも、土日もコンビニでバイトしてる。

ナツオ

だから何だよ。そんなの当たり前じゃないか。

ナツオ

自分の食い扶持は自分で稼げよ、それが男女平等ってもんだろ。

ハルナ

え？男女平等なの？こんな生活が？

ナツオ

家のローンは俺が払ってやってるんだぞ。

ナツオ

俺がいなけりゃ、お前らは食っていけないんだろ？

ナツオ

だったら、パチンコぐらいでギャーギャー言うんじゃねぇよ。クソが。

ハルナ

酷いわ。妻の私に向かってクソなんて汚い言葉を…。

ナツオ

お前なんて年取っちゃって、何の取り柄も魅力もないババアなんだよ。

ナツオ

結婚してやってるだけ、有難く思えよな～。

ハルナ

ナツオ、あなたって人は本当に…。

ナツオ

俺のありがたみが分かったら、もうLINEしてくるなよ。

ハルナ

まだ話はあります！

ナツオ

なんだよ、また。

ハルナ

あなた、クレジットカードの停止のお手紙が来ているわよ

ハルナ

カードが止められるってどういう事？

ハルナ

またキャッシングしたの？

ナツオ

ああ、そうだよ。

ナツオ

お前の稼ぎが全然足りないからさ～。パチンコに回せる金が足りなかったの！

ハルナ

言ってる事がメチャクチャだわ。

ハルナ

クレジットカードが止められるなんて、信じられない。

ナツオ

大した事ないだろ。今月の給料で返せるし。

ハルナ

その前に家のローンもあるでしょ。もう残高が無いんじゃないの？

ナツオ

今月の分はお前が払え。

ナツオ

独身の頃にたんまりため込んだ貯金があるんだろ～？

ナツオ

隠したってムダだぜ。俺はちゃんとそこまで知っている！

ハルナ

貯金はもう無いわよ。

ナツオ

あ？

ハルナ

あなたが生活費をくれないから、私の貯金から切り崩していたのよ。

ナツオ

はぁ？ばっかじゃねぇの！

ナツオ

貯金ってのはさぁ、こういう家族のピンチの時の為に使うものだろうがよ。

ナツオ

なのに、生活費に使っちゃっただとぉ？

ナツオ

前から程度の低い女だと思っていたけど、ここまでアホだったとはな！

ナツオ

お前、計算も出来ないのかよ。小学校も卒業してないんじゃねぇの？

ハルナ

ひどい！生活費を全然渡さないで給料を全部使っちゃったのはアナタでしょう。

ハルナ

そういうのを、自分に甘いっていうのよ。

ナツオ

ふざけんじゃねぇよ。いいか。ローンが返せなくなったのはお前のせいだ！

ナツオ

お前がなーんにも考えないで貯金を使っちまうからこうなったんだよ。

ナツオ

今から、何としてでも稼いで来い！ローンはお前が返せ！

ハルナ

無理よ、そんなの。

ナツオ

やる前に無理とか言うな！根性でローンを返せ。

ナツオ

金を稼いでくるまで俺に顔を見せるなよ。分かったか。

ハルナ

もう、知らない！

ハルナ

あなたに何を言ってもムダね。

ナツオ

お前もな。金を稼げない嫁なんて、ただのクズだよ。

ナツオ

俺に捨てられる前に、金を持ってこいよな～。

ナツオ

あ、俺しばらく家に帰らないから。満喫に泊まるわ。

ナツオ

じゃぁなー！

ハルナ

ほんと、○んで欲しい…。

～１週間後～

ナツオ

おい、ハルナ。

ナツオ

ローンの件はどうなった？

ハルナ

何？今更ローンの心配？

ナツオ

そろそろ金の工面が出来た頃かと思って。

ハルナ

今月のローンなら払ったわよ。借金してね。

ナツオ

フーン。借金って当然お前の名義だよな。

ハルナ

そうよ、だから何？

ハルナ

まさかアナタが立て替えてくれるわけ？

ナツオ

そんな訳ないだろ。お前の借金はお前のものだ。

ナツオ

で、俺の金は俺の物（笑）

ハルナ

何かの漫画のキャラクターみたいなことを言うわね。

ハルナ

全然可愛くないけど。

ナツオ

そうか？ところでさ、そろそろアキナとフユマの塾代の振り込みがあるだろう？

ハルナ

そうよ。よく覚えてるわね。あなたにしてはめずらしい。

ナツオ

その塾代をさ、ちょっと貸してくんない？

ハルナ

え…？

ナツオ

明日から新台が入るんだよ！だからどうしても行きたいんだ！

ナツオ

塾代、倍にして返すからさ、頼むよ。

ハルナ

ふざけないで。

ハルナ

アキナは今年大学受験だし、フユマだってせっかく志望校に入学して、

ハルナ

２人とも必死で勉強しているのに、そのお金をパチンコに使おうだなんて。

ハルナ

アナタ、もういい加減にパチンコはやめてって何度もお願いしているでしょう。

ナツオ

なんだよ、俺がせっかく下手に出てやったのに、調子に乗りやがって。

ナツオ

たかが数万円だろ？気前よく出せよ、嫁ならさぁ。

ハルナ

たかが数万円って言わないで！私が何日も必死で働いて稼いだお金よ。

ナツオ

ったく、懐の狭い女だな！こんなんなら、キャバクラの女のほうがよっぽどいいわ。

ハルナ

アナタ…パチンコ屋だけならまだしも、キャバクラにも行ってるの？

ハルナ

そんなお金があるなら、家にお金を入れてよ。

ハルナ

もう何カ月も生活費すら貰ってないのよ？

ナツオ

フン。可愛くも無いお前らの為に金を使うなんて、死んでも嫌だね。

ハルナ

それ、本気で言ってるの？子供たちの事も？

ナツオ

お前らはただの金食い虫だよ。

ナツオ

大体なぁ、アキナは女なんだから、どうせ結婚したら仕事を辞めちまうんだろ。

ナツオ

大学なんか行かせる必要は無いんだよ！

ハルナ

アナタ！自分の娘になんてことを…撤回しなさいよ。

ナツオ

それに、フユマもなぁ。勉強だけ出来たってアイツは地味だからな。

ナツオ

どうせお前みたいに何の取り柄もない大人になるだろうさ。

ナツオ

だからさっさと高校を卒業させて、社会に出した方がいいんだ。

ナツオ

そうすれば金もアイツが稼いでくるし、丁度いいだろう？

ハルナ

ナツオ…もういいわ。良くわかりました。

ナツオ

お？分かってくれたのか。じゃ、金を振り込んで…。

ハルナ

話しても時間の無駄よ。じゃあね。

ナツオ

え？おいおい、話はおわってないぜ～？？ってもう見てないのかよ。

ナツオ

チッ。しょうがねえなぁ。

～１週間後～

ナツオ

なぁ。そろそろ家に帰ってやってもいいぜ。

ハルナ

いえ、別に困ってませんので帰らなくて結構よ。

ナツオ

そんな強がるなよ。そろそろ俺の顔を見たいだろう？

ハルナ

ううん。全然。

ナツオ

子供たちも寂しがってるだろう？心配してくれてるだろ？

アキナ

お父さん？

ナツオ

おお、アキナ！久しぶりだなぁ。元気か？

アキナ

何の用？別に帰ってこなくていいよ。

ナツオ

なんだよ、冷たいな！お父さんに会いたかったんじゃないのか？

アキナ

いいえ？家に居てもゴロゴロしているだけで、邪魔なんだもん。

ナツオ

へ？お前いつからそんな親不孝な事をいう様になったんだ？

アキナ

家のローンもまともに払えない、私たちの教育費もパチンコに使っちゃう。

アキナ

そんなお父さんに「親不孝呼ばわりされる理由はないよね。」

フユマ

うん。俺もそう思う。

フユマ

父さん、無理して帰ってこなくていいよ。俺達父さんがいなくても平気だもん。

ハルナ

だって。子供たちもこんな感じよ。

ハルナ

どうせ今日だって、手持ちのお金がすっからかんになったから

ハルナ

家に帰ろうって魂胆でしょ。

ナツオ

な、なんだよ！分かってるんだったら帰らせろよ。

ハルナ

帰ってきてもいいけど、あなたの居場所は無いわよ。

ナツオ

え？どういう意味だ？

ハルナ

私たち、引っ越したから。

ナツオ

はぁ？勝手になにやってるんだ。どういう事だよ！

ナツオ

大体、引っ越しって…費用はどっから出したんだよ。

ハルナ

ナツオには関係ない事よ。

ハルナ

家に帰ってもいいけど、家財道具は殆ど持っていきましたよ。

ハルナ

だって、私の独身時代の貯金を切り崩して買った家電や家具だもの。

ハルナ

あなたが買ってくれたのなんて、殆ど無かったし。

ナツオ

ふ、ふざけんなよ。結婚後に買った物は共有財産だろう！

ハルナ

そうねぇ。あなたには家があるじゃない。

ハルナ

ローンがまだまだがっつり残っている、あの家がね。

ナツオ

そ、それはそうだけど。

ハルナ

と、ここまで話したけど、まだ気づけない？

ハルナ

私が何の話をしてるのか…。

ナツオ

へ？

ハルナ

離婚よ。離婚。

ハルナ

私たち、あなたと一緒に暮らすのは、もう限界。

ハルナ

離婚届を書いて、リビングのテーブルに置いてきたわ。

ハルナ

あ、一応テーブルだけは置いてきてあげたわ。古いしね。

ナツオ

な、なんで急にそんな話になるんだよ…。

アキナ

急じゃないよ。

アキナ

お母さん、何年もお父さんのワガママに我慢してたんだよ。

ナツオ

アキナ！お前、俺の味方じゃなかったのかよ。

ナツオ

あんなに可愛がって育ててやったのに。

アキナ

育ててくれたのはお母さんだよ？

フユマ

そうだよ。父さんはさ、機嫌が悪いと俺達の事も母さんの事も無視して。

フユマ

パチンコで負けると母さんに怒鳴ったり、俺達を殴ったりして。

フユマ

それのどこが「可愛がって育てたことになるんだよ！」

アキナ

それにね、私たち気づいちゃったんだよね。

アキナ

お父さんがいないほうがコスパがいいんじゃない？って事に。

ナツオ

へ？

アキナ

だってお父さんがいなければ１人分食費も浮くし、

フユマ

パチンコで食いつぶされる事も無くなるし。

ハルナ

何より、アナタと関わってるとストレスで体がおかしくなりそうだったわ！

ハルナ

もっと早くにこうすれば良かった。

ナツオ

な、何を言ってるんだよ…俺がいないと、お前たちが困るだろう？

ハルナ

だから、全然困らないの！

ナツオ

か、金が無いだろう、お前だって貯金が無くなったって…。

ハルナ

ああ、あの話ね。私の独身時代の貯金は、貯蓄型の保険に全額預けちゃったからね。

ハルナ

無くなったというより、手元に無いって言った方が正しかったわね。

ナツオ

お前！俺には貯金が無いとか言って嘘をついたのか。

ナツオ

貯金は夫婦の共有財産だろうが。

ハルナ

だから。独身時代の貯金は共有財産じゃないのよ。何度言えば理解出来るの？

ハルナ

大体、カードを止められたり、ローンを返せなくなったり、

ハルナ

計算もロクに出来ないなんて。あなた本当に小学校を卒業したのかしらぁ？

アキナ

あとね、お父さんさ、お母さんの稼ぎが少ないっていつもバカにしてたけど…。

アキナ

パチンコ狂いのお父さんの方がよっぽど恥ずかしいんだよね。

フユマ

あのさ、ローンが返せなくなってるって事は、次どうなるか知ってる？

ナツオ

へ？

フユマ

差し押さえだよ！ローン返済の督促状が来ていたから、もうヤバいよね。

ハルナ

さすがの私にもローンは返せないわ。

ハルナ

返せなくなったのは、あなた一人の名義のローンですから。

ハルナ

今後は一人で頑張ってね。あ、言っておくけど私もお金はもう無いから。

ハルナ

縋りつかれてもムダよ。

ナツオ

そんな！待ってくれよ、ハルナ～。

アキナ

みっともない、お父さん。

フユマ

もう少し俺達を大事にしてくれてたら、見捨てなかったのにな。

ナツオ

アキナ！フユマ！まってくれ、父さんを見捨てないでくれ。

ハルナ

さ、そろそろ弁護士さんとの約束の時間ね。

ハルナ

後日、弁護士を通して連絡しますから。

ハルナ

もう直接連絡を取るのはやめましょうね。それじゃ。

ナツオ

マジか…。

～後日談～

ハルナ

それから一か月後、無事に離婚が成立しました。

ハルナ

予想通りナツオはかなり離婚を渋ったけれど、今まで私が受けた精神的苦痛、

ハルナ

それから離婚前の数か月間に立て替えたローンの金額を鑑みて、慰謝料を請求したところ、

ハルナ

あまりゴネると不利になると思ったのか、渋々離婚に同意しました。

ハルナ

そしてナツオは、フユマが予測した通り家が差し押さえられ、自己破産となりました。

ハルナ

なのに相変わらずパチンコ屋に入り浸り、もはや廃人と化しているとか。

ハルナ

私の方は、身寄りのない独身の叔父が亡くなり、土地を相続させてもらう事になりました。

ハルナ

今まで何も活用してこなかった土地を駐車場として整備したので、

ハルナ

多少の不労収入が入る事になったのですが、それをナツオに知らせたらどうなっていたか。

ハルナ

きっとますます調子づいてパチンコにのめり込んだことでしょう。

ハルナ

だから私の親族には、相続手続きは離婚成立後まで待っていただきました。

ハルナ

そんな背景もあり、長女のアキナが語った通り、

ハルナ

夫がいなくなった後の生活は格段に楽になりました。

ハルナ

私に手を差し伸べてくれた叔父や親族の方々には、感謝の気持ちでいっぱいです。

ハルナ

これからは親子３人で平和に楽しく生きて行こうと思います。

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結城真矢

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