宿屋の外に出る前に、私は入口のカウンターにいたルイサさんに声を掛けた。
「おや、お出掛けかい?」
「はい。散策と、あとはいろいろ見てみようかなって」
「そうかい。まだ行っていないなら、冒険者ギルドも場所を確認しておくと良いよ。
何かを依頼するときには使えるし、いざというときも何だかんだで頼りになるからね」
冒険者ギルド……そういうのもあるのか。
当たり前のことを、当たり前を知らない私に教えてくれてありがとうございます!
そんなことを思いながら相槌を打っていると、ルイサさんは丁寧に冒険者ギルドの場所を教えてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ。冒険者カードの提示をお願いします」
教えてもらった冒険者ギルドの受付に行くと、係の女の子が明るく声を掛けてくれた。
年齢は私と同じくらいかな。
「すいません、冒険者カードは持っていないのですが……」
例のプラチナカードは冒険者カードの類では無さそうだし、とりあえずそう言ってみることにした。
「それでは冒険者ギルドへの登録をご希望ですか?
登録でしたら、このままこちらで受け付けますよ」
「お願いします。何か必要なものはありますか?」
「こちらの石板に手を乗せて、後はピッとピピッとした感じで終わります!
手数料は銀貨5枚になりますので、先にご用意をお願いします」
銀貨5枚なら大丈夫。
お財布から銀貨を5枚出して、受付の女の子に渡す。
「えっと……ここに手を乗せるんですか?」
「はい、この石板はお客様のスキルや情報を調べる魔導具なんです。それじゃ、失礼しますね」
ピッ。
石板から音がした。
ピピッ。
石板からもう一度音がした。
……と同時に、石板の上の空中に半透明のウィンドウのようなものが開いた。
「はい、終わりました~。
『アイナ・バートランド・クリスティア』さん……っと」
本当に、手を乗せるだけで分かるんだ。
魔導具は……魔法の道具、みたいな感じかな?
「ふむふむ、アイナさんは錬金術師さんなんですね。
錬金スキルはレベル12、鑑定スキルはレベル10、収納スキルはレベル7……。
うわぁ、即戦力じゃないですか、これ」
……おお、本当に錬金術師にしてくれたのね! 神様、ありがとう!
レベル12っていうくらいだから、レベルもどんどん上げられるのかな?
鑑定スキルのレベル10、収納スキルのレベル7というのがよく分からないけど……即戦力って言うからには、きっと良い感じなんだよね?
「あ……すごい!
レアスキルがありますよ! 『工程省略<錬金術>』レベル1……っと」
レアスキル? 何という心がときめく響き……!
『工程省略<錬金術>』というからには、錬金術の作業時間が減るとか……?
「ふむふむ、スキルは合計4個ですね。全部実用的なスキルですし、冒険者ギルドにも欲しいくらいの逸材です!
それでは冒険者カードの発行をしますので、少々お待ちください」
……あれ? そういえば、合計4個……なの?
神様は『スキルもワシが吟味した8つを付けておいた』とか言ってなかったっけ?
数え間違いかな? おじいちゃんたらボケちゃって。
その後、受付の女の子……ケアリーさんから冒険者カードを受け取って、冒険者ギルドについて説明をしてもらった。
そもそも『冒険者』とは、『依頼を受ける人』の全般を指すようだ。
そして『冒険者ギルド』とは、依頼を出す人、依頼を受ける人が幅広く集まる場所なのだとか。
依頼の中にはその名の通り、街から遠く離れて『冒険』をしなければいけないものもある。
しかし逆に、街のすぐ外で指定の草を採集する程度の簡単なものもあるそうだ。
……草を採集するくらいなら、私にでも出来そうかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいま、マイ・スイートルーム!」
宿屋の部屋に戻るなり、私はノリ良く叫んでベッドにタイブした。
柔らかな肌触りと暖かな匂いが、疲れた身体を優しく包み込んでくれる。
手元には、新しく作ってもらった冒険者カードが光っている。
冒険者には数段階のランクがあり、一番下の『F』から、一番上の『S+』までがあるらしい。
私のカードには、一番下の『F』がしっかりと刻まれている。
必要があれば上げたいけど、やっぱり上げた方が良いのかな?
「……さて」
上半身を起こして、自分の両手を眺めてみる。
ケアリーさんが言っていたが、鑑定スキルはモノだけではなく、人に対しても使えるらしい。
冒険者ギルドにあった石板の魔導具は、鑑定スキルを誰にでも使えるものにしたもの。
つまり鑑定スキルを使えるのであれば、自分を自分で鑑定できるのだという。
スキルのレベルに応じて、どこまで鑑定が出来るのかは違うらしいけど――
「……よし。それじゃ、鑑定スキルを使ってみますか!」
でも、スキルってどうやれば使えるんだろう?
とりあえず部屋の中に置いてある壺を、睨むようにして見つめてみる。
「えーっと、えい! かんてーっ!!」
──────────────────
【高価な壺】
高価な壺
──────────────────
……!?
目の前にウィンドウが突然現れて、私に情報を教えてくれる。
「うわぁっ!?」
急に現れたその映像に驚き、私は変な声を出してしまった。
……でもこれ、名前と説明文が全く同じなんだけど……?
不満に思いながら、そのウィンドウをじっと見つめていると――
──────────────────
【高価な壺】
高価な壺。
金貨10枚の価値がある
──────────────────
……!
情報が増えた!!
いろいろ試してみたところ、意識の向け方次第で情報量を調整できることが分かった。
つまり詳しく知りたい場合はそのように念じて、少しで良い場合はそのように念じる……といった具合だ。
ふむ、スキルの使い方は何となく分かったぞ!
それじゃ、次は自分を鑑定してみることにしようかな。
冒険者ギルドで見て来ちゃったけど、今後もちょこちょこ使うだろうし。
「それじゃ、自分をかんてーっ!!」
別に言わなくても良いだろう台詞を口にして、自分自身を鑑定の対象にする。
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【アイナ・バートランド・クリスティア】
種族:ヒューマン
年齢:17才
職業:錬金術師
一般スキル:
・錬金術:Lv99(Lv12)
・鑑定:Lv99(Lv10)
・収納:Lv99(Lv7)
レアスキル:
・工程省略<錬金術>:Lv99(Lv1)
ユニークスキル
・情報秘匿
・英知接続
・創造才覚<錬金術>
・理想補正<錬金術>
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……うん?
あ、あれ?
何だかいろいろ、数字がたくさん並んでるよ?
名前と種族、年齢と職業は……うん、いいね。特に何も無いかな。
その下の『一般スキル』……『錬金術』、『鑑定』、『収納』。
これは冒険者ギルドで教えてもらった通りだけど、レベルの表記がおかしくないかな?
『錬金術:Lv99(Lv12)』って、レベルが99なのか12なのか、どっちなんだろう……?
もしかして『上限値(現在値)』みたいな感じだったりする?
『レアスキル』も同じ感じ。
レベルが99なのか1なのか、どっちなのよ。
それに、その下の『ユニークスキル』って何だろう?
冒険者ギルドでは何も言われなかったけど……。
……不審な点がいくつもある。
私は引き続き、スキルを眺めていくことにした。
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