篠原結愛は毎日イヤフォンをつけている。彼女がイヤフォンを外す時はほとんどない。しかしある転校生がやってきてから、彼女の人生は大きく変わることになった。
私立花園高校、ここは創立120年の歴史を持つ女学校である。財閥の令嬢から、一般家庭の人まで様々な生徒がいる。篠原結愛もその1人である。結愛はイヤフォンを常につけており、基本的に誰にも心を開いていない。現時点で唯一イヤフォンを外す、つまり心を開いているのは小学校からの付き合いの笹野真理だけである。
「結愛ちゃんおはよー!!」真理は結愛に元気いっぱいに挨拶する。
結「……」結愛はイヤフォンをつけているため、人の、声が基本聞こえていない。
真「結愛ちゃーん!!」もう1回名前を呼ぶ。
「……あ、真理ちゃんおはよ。」結愛はイヤフォンを外して真理に挨拶を返す。
真「イヤフォンずっとつけてたら耳悪くなるよ?」真理は結愛を心配する。
結「小音量で音楽を聴いてるから問題は無いと思うけど……」結愛は自分の耳は悪くならないと主張している。
真「ならいいけど……っていうか結愛ちゃん、今日いい匂いするね!」真理が話を急転換させる。
結「そういえば、昨日から真理ちゃんがおすすめしてたシャンプーにしてみたんだ。髪質が良くなった気がするよ。」結愛は真理におすすめされたシャンプーを使ったから前より髪質が良くなったと言っていた。
真「それは良かったよー!!」おすすめして正解だったと真理は思った。
梅「ホームルーム始めるわよー。」担任の梅原が来た。今日はどうやらお知らせがあるようだ。
梅「聞いてる人もいると思うけど、今日は転校生が来るよ〜。」梅原は今日、結愛たちのクラスに転校生がやってくることを知らせた。
梅「嶋野さん、入ってきて〜。」
ひ「はーい。」ある生徒が返事をして教室に入った。その子は小柄で明るい茶色の髪色で、まるで子犬のように愛くるしい子だった。
ひ「嶋野ひまりです!よろしくお願いします!」転校生の嶋野ひまりは元気いっぱいに挨拶した。
「「「ねぇねぇ、すごい可愛い子が転校してきたね!」」」クラスのみんながひまりのことについて話をしだした。
梅「みんな静かにしてね〜。じゃあ嶋野さんの席なんだけど…篠原さんの隣に座ってもらおうかな。篠原さん、嶋野さんに色々教えてあげてくださいね。」梅原が結愛に色々教えてやって欲しいと伝える。
梅「ではこれでホームルームを終わります。」梅原は教室を出ていった。
ひ「えっと…篠原…結愛さんだよね?よろしくね。」ひまりが結愛に話しかける。
結「……」結愛は沈黙する。
真「ごめんねひまりちゃん。結愛ちゃん、普段からあんな感じなんだ…」真理がフォローする。
ひ「そうなんだ…でも私頑張るよ!結愛ちゃんと仲良くなるために!」ひまりは結愛と友達になると真理に宣言をした。
真「ひまりちゃん、結愛ちゃんと友達になるのはかなり長い道のりになると思うけど頑張ってね!じゃあね!」真理はひまりにそう言い残し、自分の席に着く。
時は過ぎて昼休み。結愛はこの時間はいつも誰もいない場所で一人でいることが多い。
結「……落ち着く…やっぱり一人でいると自分のペースでいられるのがいい……」結愛は一人になることを好んでいる。そのため昼休みは誰もいない屋上で過ごすことがルーティンとなっている。結愛を追いかけて、ひまりも屋上に来ていた。
ひ「よし…!」ひまりは気合を入れ、屋上のドアを開ける。
ひ「結愛ちゃん!!」ひまりは大声で結愛の名前を呼ぶ。しかし結愛からの返事は無い。
「結愛ちゃん!!」もう一回大声で結愛の名前を呼ぶ。すると結愛は気づいたからなのか結愛の方に目を向けた。
結「……?」結愛はきょとんとした表情でひまりを見つめる。
ひ「結愛ちゃん!今日、一緒にお昼食べてもいいかな?」ひまりは勇気を振り絞って結愛を昼食に誘う。すると結愛はコクンと首を縦に振り、自分の横に座ってという意思表示で自分の横をポンポンと叩いた。ひまりはとてとてと歩いて、結愛の横に座った。
結「結愛ちゃん、これからよろしくね!」ひまりは高いテンションで挨拶をする。しかし結愛はひまりの挨拶をスルーする。
ひ「む〜っ…そういえば結愛ちゃんいつもイヤフォンしてるけど何聞いてるの?私にも聞かせてよ!」ひまりは結愛の右耳についてるワイヤレスイヤフォンを無理やりとって自分の右耳に着けた。
結「あ…ちょっ!」結愛が焦る。彼女が聞いていたのはとあるシンガーソングライターの曲だった。
ひ「……これ…すごくいい曲……」ひまりの目元には涙が溢れていた。この時結愛が聞いていた曲はラブソングだった。
結「……真理にも……イヤフォン無理やり外されたこと無かった……」結愛が口を開いて放った最初の言葉だった。
ひ「結愛ちゃん…声かわいい……」ひまりは結愛の声を聞いて、思わず可愛いと口にしてしまった。
結「私の声…そんなに可愛い?ていうかイヤフォン返してよ……」結愛は自分のイヤフォンを返すよう要求する。するとひまりはイヤフォンを返す条件を出した。
ひ「じゃあ、私と毎日話すこと!」
結「はい?」結愛が何言ってんだこいつって表情で反応する。
ひ「私はね、結愛ちゃんとお友達になりたいの!」
結「は…はぁ…ていうか早くイヤフォン返して…それもうすぐ充電切れるの……」
ひ「じゃあ私と毎日話すって約束できる?」
結「わかったわかった!するから早く返してぇぇぇ!!」
ひ「よろしい。約束通りこれ返すね。」ひまりは若干不服そうに右側のイヤフォンを返した。
ひ「じゃあ今日からよろしくね!結愛ちゃん!」ひまりはそそくさと屋上から出ていった。
結「なんだったんだろあの子…」と、結愛はボソッと呟いた。その後、予鈴がなる数分前に結愛は教室に戻ったのだった。
時は進んで放課後、結愛は帰る準備をしていた。本当は真理と家の方向が一緒であるため一緒に帰っているのだが、この日、真理は委員会の仕事があるため1人で帰ることになった。
結(久しぶりに一人で帰るなぁ……今日は欲しかった本でも買いに行こうかな……)結愛は本を買いに行こうかどうか思考を巡らせていた。するとひまりから声をかけられた。
ひ「結愛ちゃ〜ん!!」
結「……ん?」結愛はイヤフォンを外した。
ひ「今日、自家焙煎のコーヒー豆を使ったコーヒーが有名なカフェに行きたいんだけど、結愛ちゃんもどう?」ひまりは結愛をカフェに誘った。
結「え…今日は本屋に行きたかったんだけど……」結愛は嫌そうに返す。
ひ「だめ…なの…?߹𖥦߹」ひまりは涙目になる。
結「そんな顔で私を見ないで!?なんか罪悪感がやばいから!!」その後結愛は大きくため息をついて一緒に行くと返した。
結「はぁ…わかったよ。一緒に行こ。」
ひ「やったー!!!じゃあ早速行こう!!」ひまりは結愛の手を無理やり引っ張って走り出した。
結「ちょっと!?私まだ帰る用意してないんだけど!?」と結愛はひまりに話しかけるがひまりは耳を貸さなかった。
2人は道中趣味のことや好きな食べ物の話などをして歩いていた。そして目的地のカフェに着いた。
ひ「ここのコーヒーとパンケーキ、すっごく美味しいんだよ!!!」
結「へ…へぇ……(全然分からない……)」
ひ「結愛ちゃんって…ひょっとしてSNSやってない?Twitterとかインスタとか…」ひまりが質問する。
結「う…うん……私…こーゆーの疎くて…」結愛が投げかけられた質問に返答する。
ひ「へぇ…とりあえず中入ろ!」
結「う…うん……」
2人はカフェの中に入ってお茶を楽しんだのだった。
ひ「美味しかったねー!!」
結「確かに…ふっくらしてて……また行ってみたいかも……」
ひ「あ、結愛ちゃん笑ってる!!」
結「え?」結愛は自分の頬に手を当てる。すると口角が上がってることに気がつく。
結「ほんとだ……」
ひ「結愛ちゃん、笑ってる顔も可愛いね!」
結「は!?///」
ひ「じゃあ私こっちの方向だから!じゃーね!!」ひまりはダッシュで行きの道を戻っていった。
結(顔が熱い……///…しかも胸もドキドキしてる……///)この時、ひまりに抱いていたある感情に結愛は気づくことは無かった。