テラーノベル
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※SWのゲーム ジェダイ:フォールン・オーダーのネタバレを含みます。
私はスティンガー・マンティスの副操縦席に座り、キャノピーから見える雪山を眺めては、膝の上に広げられたノートに鉛筆を走らせていた。
ここ、惑星ゼフォは電磁気を帯びた突風の吹く星で、あらゆる通信機器が使い物にならなくなってしまう。嵐の渦の中心には、かつて栄えた集落があり、放棄された帝国軍の基地がそのまま残されていた。
こんな辺鄙な場所に降り立つ私達は、がらくた漁りでも、物好きな観光客でもない。傍から見たら、”変わり者”であることに間違いないだろうが……。
遠くに連なる雪山を描き終え、余白に今日の日付を記す。
「今のところ異常はなし」
私以外は、ね。
「おい、ボタンには触るんじゃないぞ」
フライト・スーツを着たラテロの男性が注意してきた。
「そう何度も言わなくても分かってるよ。グリーズ」
「ちょっと、喧嘩はやめなさいよ? 私は外の様子を見てくるわ。カルとBDがそろそろ戻って来る頃よ」
短いパーマをかけた色黒の女性が船のハッチを開けた。
外の冷気が船内に入り込み、私は身を震わせる。
「気をつけてね、シア」
みんなには名前がある。当たり前だ。でも、私にない、と言えば語弊になる。覚えていないのだ。自分が何者で、何処から来たのかも。分かっているのは、人間の女であること、年齢は十代後半くらいだということ、そして身寄りがないということだ。
元ジェダイでこの船を仕切るシアは、そんな私を哀れに思ったのか、マンティスのクルーとして迎えてくれた。船長でパイロットのグリーズも渋々と(実は彼はギャンブラーらしい)。今は周囲の安全を確かめに出かけているパダワンのカル(本人は失格と言っているが)と相棒のBD-1ドロイドも、私を受け入れてくれた。振り返ると、なんとも個性的な面子である。
みんなには感謝している。記憶はなくても、こうして五体満足で生きていられるのだから。もし彼らに出会わなかったら、私は今頃死んでいただろう。
恐ろしい考えを振り払い、私はコクピットから離れてキッチンに向かった。
雪は降っていないが、外は寒い。きっとカルの体は冷え切っている。
「火の取り扱いには十分注意してくれ」
そのくらい分かってる! 喉元まで出かかった言葉を、私はぐっと言飲み込んだ。
「了解」
落ち着いて。喧嘩は駄目。グリーズは少し……いや、かなり心配性なだけだ。
脳内で格闘していると、タラップを昇る足音が聞こえてきた。二人が帰ってきたのだ。
「ただいま」
「おかえり」
小さなBD-1ドロイドが、カルの肩の上で元気にさえずる。
一方、相方は険しい顔をしていた。
「何か見つけたか、坊主」
「基地の周辺にストームトルーパーがいた」
#アナキン・スカイウォーカー
88
K
56
グリーズの表情が強張った。
「まさか、気付かれてるんじゃ……」
「それならとっくに攻撃されているわ。通信システムが回復したら、連中の無線を傍受してみる」
「みんな用心した方がいい。特に君は」
カルが私を見た。
燃えるような赤毛に、そばかすだらけの頬、コバルトブルーの瞳の青年。歳は自分と同じくらいなのに、その表情は大人びている。
私は、頷くことしかできなかった。
BDが電子音を鳴らす。
「ああ。奴等が霊廟を探していないことを願うよ。コルドヴァとゼフォについて探ってくる」
ジェダイ・マスターのコルドヴァが残したホロクロン――そこには、幼いフォース感応者の子ども達の名前と場所のリストが収められている。私達の目的は、ジェダイ・オーダーを再建するために、それを手に入れること。帝国の手に渡る前にコルドヴァの軌跡を辿り、霊廟の謎を解き明かさなければならない。
そう、私達は”反逆者”だった。
カルは医療ボックスを漁り始めた。スティム(回復薬)を補充したら霊廟に向かうつもりなのだろう。
寒さのせいで、彼の耳は赤くなっている。
「あの、カル……」私は、マグカップを差し出した。
「ココア。体が冷えてると思って。あっ、急いでいるならいいの」
緊迫していたカルの表情が、和らいでいく。
「ありがとう」
マグカップを両手で包み、「温かい」と言葉を漏らす彼は、寒さを感じていたことにようやく気付いたようだ。
「ん、甘い。もしかして、ハチミツが入ってる?」
「そう。トーストにかけてたから、好きなのかなと思って」
「ああ。美味しいよ。優しい味だ」
BDが、ねだるような声でさえずる。
「ハハッ、それは無理だな」
私は、目を奪われてしまった。
小さな相棒の冗談に笑う彼は、まるで少年のようだった。
「君は好き?」
「えっ?」
「ハチミツ」
「う、うん! 好き」
「一緒だな」
口元が緩む。
さっきまで疎外感を感じていたのに、彼の言葉で自分がみんなと変わらない存在だと思えてくる。
私達を微笑ましそうに見ているシアがいて、慌てて表情を引き締めたが、赤くなった顔は隠せなかった。
「大丈夫さグリーズ。マンティスにいれば安全だ。こっちにはジェダイがいるし。多分」
船長のいつものボヤきが始まった。
カルは、やれやれと肩をすくめ、ココアを飲み干した。
「もう行かないと」
再び船のハッチが開かれ、カルの目は真剣なものへと変わる。
「気をつけるのよ」シアが、カルの肩に触れた。
自分は行くことが出来ないから、シアはいつも心配そうな表情を浮かべて彼を送り出す。
「一緒に墓の下はごめんだぞ、坊主」
「俺もだよ」
私も何か言葉をかけようとすると、カルが優しい微笑みを向けた。
「さっきよりも温かく感じる」
カルは、小さな相棒と共にタラップを駆け降りていった。
二人の姿が基地の向こうの山道へ見えなくなっても、私達は船のランプに佇んだままだった。
どうか、二人が無事に帰って来ますように。カルが、怪我をしませんように――。
彼が信じているフォースに、私は祈った。
コメント
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Kさん、読ませていただきました。 記憶を失った“私”が、マンティスのクルーたちの間にそっと居場所を見つけていく空気感がとても丁寧で好きです。特に、カルにココアを差し出すシーン——“優しい味だ”と言う彼の返しと、“一緒だな”という何気ない一言に、私の心がじんわり温かくなりました。疎外感を抱えながらも、彼の言葉で「みんなと同じ」と思える——その距離感の描き方が、本当に繊細で美しかったです。続きが気になります。