テラーノベル
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「お味はどうだったかしら?」
結たちのところにオモニがやって来た。いつの間にか店内は満席になっていた。
「ねえオモニ。あの保険まだ入っているの?」
翠が聞くと、オモニはもちろんよと頷いた。
「オモニはね、あたしのお客様だったの。雪が降ってすごく寒い日に、ここが韓国居酒屋だとは知らなくて飛び込んだの。そのとき食べたオモニのソルロンタンの味は今でもよく覚えているわ。温かくてとても美味しかった」
しみじみと翠は言った。
「主人について日本に来て二十年。料理が好きなあたしの為に、主人がこのお店を準備してくれたけど、お店が完成してすぐに主人は亡くなってしまったの。あたしと娘は主人の貯金や保険で生きて来られたけど、慣れないお店を切り盛りしていくだけで必死で、自分が保険に入るなんて考えてもしなかった。そんなとき翠ちゃんに出会えて助けられたの」
「このご時世、保険料も上がったでしょう? 大丈夫なの?」
オモニは丸い手で、どんと胸を打った。
「全然平気よ。あれは翠ちゃんがくれた御守りだもの。このお店だけ残っても娘は困るだけ。でも翠ちゃんが勧めてくれた保険があれば、あたしに何かあったときでも娘に残してやれるものがある。そう思うだけで安心して、毎日働けて毎日ハッピーなのよ」
「あと半世紀はやってもらうわよ」
「えー、半世紀!」
「ちょっとトイレ」
笑いながら立ち上がった翠は、迷う様子もなく奥のトイレへ向かっていった。
翠が座っていた椅子に、軽く腰をかけたオモニが聞いてきた。
「まだあなたの名前を聞いていなかったわね」
「ああ、申し遅れました」
慌ててバッグから、名刺入れを取り出そうとする結にオモニは首を振った。
「ううん、そういうのはいらない」
ただ名前を知りたいのだという。
「小塚結といいます」
オモニは微笑み、そして言った。
「結ちゃんにお願い事したいことがあるの」
初対面の人からお願い事をされるなんて思ってもいなかった。結は少し緊張した面持ちでオモニの言葉を待った。
「翠ちゃんとこれからも仲良くしてあげてほしいの。翠ちゃんがこの店に誰かを連れて来てくれたのは今夜が初めよ。あたしそれがすごく嬉しいの。恋人? 友人? そんなのあたしにはよくわからない。きっと翠ちゃん自身もわからないのかもしれない」
男が嫌とか女になりたいとか、そんなのよくわからない。翠もそう話していた。
「あなたと食事しているときの翠ちゃん、すごく楽しそうだった。側にいてあげてくれないかしら? 一緒に笑って、一緒にご飯を食べてくれるそういう仲でほしいの」
「私も…。翠さんといると楽しいです。また二人でご飯を食べに来ますね」
真っすぐ顔をあげて結は言いオモニに微笑みかけると、オモニは指先で目元を拭い軽く鼻を啜った。
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コメント
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ああ、もう第32話、めっちゃ沁みたわ…! オモニが「翠ちゃんが初めて誰かを連れてきてくれた」って話、そこでグッときた。 保険は「御守り」って言葉、すごくあたたかいし、結が「また二人でご飯食べに来ますね」って真っすぐ返したところ、最高だった。 キャラの距離感の描き方がすごく丁寧で、読んでてじんわりした。続きが気になる…! 素敵なエピソードありがとうございます🔥