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リリリ、リリリッ、リリリリリッッ……リリ。
アラームを止めて初めて、暗夜は自分が寝ていた事に気づいた。
見ていた夢を忘れてしまわぬように、枕下からメモ帳と安物のボールペンを取る。
ただ、紙とペン先が触れたところで、別にいいやと思いボールペンをしまった。
メモ帳は何日か前のページを探して開いておく。
一度洗面台へ行き、顔を洗う。暗夜は伸びた前髪を捲り上げて、うわぁっと嫌にな顔をした。
右のこめかみに新しいニキビがあったからだ。
いや待てよ。鏡に写った姿なのだから、左の方のこめかみか。ん、いややっぱり右だな。
まあ、別にそんな事は今はどうでも良いやと、タオルで顔についた水滴を拭いながら部屋に戻る。
ベッドの上で開かれたメモ帳。
そこに記された、数ヶ月前の夢の内容。
暗夜は溜息をついた。
「やっぱり、ただの夢じゃない……」
それは、とある病弱な少女の夢だった。
孤城暗夜はここ最近……いや、あの夏。彼女、秋風月夜の死体を見てから、何度も同じ夢を見ている。
始めはただの勘違いだと思った。
ただちょっとした気まぐれで夢日記をつけてみると、同じ夢を繰り返し見ていることに気づいた。
夢は夜の病室から始まる。そこから、少女がひっそりと歩行の特訓をするというもの。
でも、いつまで経っても歩けないまま、少女は見た目だけが大人になっていく。
「見た目だけが大人……か」
そう言って、僕はそんな彼女と自身を冷笑する。
思えば、もう二年だ。それほどの月日が流れた。
僕は今もこうやって、深夜十二時に起きては公園へ行く。
誰もいないベンチで、ただひたすらに彼女を待つ。
来るはずも無い彼女を。
僕は一体いつまで、こんな事を続けるのだろうか。
来年の夏まで? 就職が終わるまで? もしかすると、一生このままかもしれない。
「みーん、みーん、みーんっ」
試しに口にしてみる。
そういえば、あの日。初めて彼女に会った日。
月夜さんはこうして、誰かを待っていた。
僕もきっと別に秋風月夜を求めている訳では無い。
月夜という型が合うというだけで、心の隙間を埋めてくれる存在であればきっと誰だって構わない。
「みーん、みーん、みーんっ」
ははっ。自分でやっておいて、何だコレって感じだ。
でも、不思議と落ち着く。
僕はきっと必死に生きれてるって、僕は蝉なんだって思えてくる。
「みーん、みーん、みーんっ」
その時だ。
二年間。あれから誰も来なかった、この時間帯の公園に誰かの足音が近づいてきた。
その人はあの日の僕のように、木の陰で決意を固め、僕の元まで来て言った。
「何をしてるんですか?」
細い腕。綺麗な脚。流れる川のように滑らかな黒髪。
そして、翡翠色の瞳。
「お前、誰だ」
僕は別に失礼な事を口にした訳では無い。
ただ、彼女はたぶん僕のよく知っている人だった。
でも、その僕の記憶の彼女と、あまりに違ったからつい言葉が漏れてしまったのだ。
彼女は僕のその言葉に驚きながらも、どこか納得したような、どこか悲しそうな表情で答えた。
「私は、玲瓏……真昼」
この一瞬、二年ぶりに僕の中の蝉は鳴き止んだを