テラーノベル
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目が覚めたとき、俺は息ができなかった。
胸の上に、重い何かがのしかかっている。
いや、それだけじゃない。
顔にも腕にも、無数の硬いものが押し付けられていた。
暗い。
完全な闇だ。
自分が目を開けているのか閉じているのかも分からない。
――ここは、どこだ?
思考が鈍い。頭の中に霧がかかったようで、何も浮かばない。
名前は?
……分からない。
どうしてここに?
……分からない。
記憶が、ない。
心臓の鼓動だけがやけに大きく響いていた。
このままではまずい、という本能的な危機感だけは、はっきりしている。
動け。
とにかく動け。
俺は腕に力を込めた。上にある何かを押し上げる。
ガリ、と硬いものが擦れる音。
少しだけ、隙間ができた。
そこから、冷たい空気が流れ込んでくる。
「……っは」
思わず息を吸い込む。肺が焼けるように痛い。
だが、止まるわけにはいかなかった。
俺は必死に手を動かした。
掴めるものを掴み、押しのける。石だ。瓦礫だ。崩れた何かの残骸。
少しずつ、少しずつ。
上へ。
上へ。
どれだけ時間が経ったのか分からない。ようやく、頭が外に出た。
視界が開ける。
――だが、そこにあったのは光ではなかった。
「……なんだ、これ」
思わず声が漏れる。
上を見上げる。
そこには、空があった。
いや、違う。
空ではない。
果てしなく広がる、巨大な空洞だった。
光はない。ただ、底知れぬ闇が広がっているだけだ。
落ちてきた……のか?
そんな考えが浮かぶ。
だとすれば、ここは――
「ダンジョン……?」
なぜその言葉を知っているのか、自分でも分からない。だが、その言葉は妙にしっくりきた。
俺は残りの瓦礫をどかし、全身を引きずり出した。
足元は、不安定な瓦礫の山。
立ち上がると、軽くめまいがしたが、なんとか踏みとどまる。
自分の身体を確かめる。
背中に、何かがある。
手を回すと、柄に触れた。
「……刀?」
抜いてみる。
暗闇の中でも、わずかに光を反射する刃。
なぜ扱い方が分かるのかは不明だが、握ると不思議と落ち着いた。
装備は、皮の鎧。
動きやすいが、防御はそこまで高くなさそうだ。
ズボンのポケットを探ると、大きな袋。
中身は何もないが、軽い。
さらに、干し肉が二切れ。
そして肩には水筒。
振ると、水の音がする。
満杯だ。
俺は栓を開け、一口飲んだ。
冷たい水が、喉を通る。
それだけで、生きている実感が戻ってくる。
「……さて」
思わず呟く。
だが、その先の言葉は続かなかった。
どこに行けばいい?
何をすればいい?
何も、分からない。
ただ一つ分かるのは――
ここに留まるのは、危険だということ。
俺は瓦礫の山から降りた。
足元を確かめながら、一歩一歩。
そして、歩き出す。
闇の中へ。
どこへ続くのかも分からない道を。
ただ、生きるために。
コメント
1件
あおいです🌷 読ませていただきました。 冒頭の「息ができない」で一気に引き込まれました。瓦礫の下から這い出る感覚が手に取るように伝わってきて、自分も同じ場所にいるような息苦しさを覚えました。記憶がない状態で刀を握る手触りに安心する……その距離感の描き方、とても好きです。暗闇の中へ歩き出すラスト、続きが気になります。