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さて、第一段階までは作戦成功です。問題はここからですね。なんとか、晴翔様に承諾して頂かないといけません。
3人を我が家へ招待したものの、どこからお話するべきか迷っている私に、晴翔様から質問がありました。
「えっと、先輩」
あぁ、お声まで素敵です、晴翔様。
「なんでしょう、晴翔様?」
「今日はなぜ俺達を呼んだんですか?」
流石は晴翔様。いきなり直球の質問をしてきましたね。晴翔様は、あまり駆け引きを好まないタイプの方のようで、その時の気持ちを大事になさる方のようです。ここは、話の進め方も気をつけなくてはいけませんね。
「そうですねぇ、皆さんを、というよりは晴翔様をお呼びしたつもりだったのですが。一人だと来て頂けそうになかったので、皆さんお呼びした次第です」
「な、なるほど」
少し本音が漏れてしまいましたが、これくらいは許していただけるでしょう。晴翔様はお優しいですからね。
「それでですね、晴翔様に来ていただいた理由なんですが、私の部屋を見ていただいた方が早いので、案内しますね」
まずは、いかに私が晴翔様のことを想っているのか知っていただきましょう。私の部屋は晴翔様でいっぱいですからね。
しかし、いざ部屋の前まで来ると、少し恥ずかしくなってきてしまいました。ただでさえ、自室に家族以外を入れるのは初めてで、それが晴翔様だなんて。
「あの、絶対に笑わないで下さいね?」
念のため、私は皆さんに釘を刺してから、自室のドアを開けた。すると、やはり壁に貼られているポスターに目が行ったようで、皆さん驚いています。
「このポスターって」
「もしかしなくても」
「・・・俺ですか?」
「はい、全部、晴翔様です♪」
ふふふ、初めは恥ずかしかったですが、実際に見せてしまえばなんてことはありませんね。むしろ、晴翔様を好きな方々しかいないのですから何の問題もありません。
「これは、ファンクラブの会員になると、定期的に何かしらの晴翔様グッズが貰えるんですよ。その中の一つです」
晴翔様驚いていますね。どうやら、こんなにグッズがあることを把握されていないようですね。もしかして、非公式のものだと思われてますかね?一応訂正しておきましょう。
「あ、ちなみに、このファンクラブは公式のものですよ。ちゃんと晴翔様の事務所が主催でやってらっしゃるものです」
「そ、そうなんですね」
さて、そろそろお話を詰めていきましょうか。
「お恥ずかしいのですが、私、晴翔様の大ファンなのです。今まで何かにハマった事などなく、この気持ちをどうしたらいいのか困っておりましたところ、先日の体育祭でたまたまお顔を拝見致しまして」
「そ、そうですか」
「ハルくん、やっぱり見られてたのね」
「まぁ、あれだけ激しく動けばみられるでしょ。今後は気をつけてよね」
「反省してます」
ふふふ、確かに他の女子生徒たちに見られていたら、今頃大変でしたね。今後は気をつけてもらいたいですね。さ、そろそろ本題に入りましょう。
「それで、本題なのですが」
「あ、そうでした。なんでしょう」
部屋を見せる時以上に、恥ずかしい気持ちが強くなる私は、何とか口を開くことができた。口に出すことがこんなに気恥ずかしいなんて知りませんでした。頑張るのよ、私。
「えっと、私の許婚になってもらえないでしょうか?」
よし、言えました。よかったです。緊張しました。
「えっ?」
「「はっ?」」
まさか、こんなお願いをされるとは思っていなかったのでしょう、晴翔様だけでなく、西城さんと大塚さんも驚いています。
「え、許婚って」
「はい、私の婚約者になって頂きたいのです」
私は、出来る限り笑顔を意識しながら、上目がちに言いました。すると、わずかな間を開け、御三方は大声をあげました。
「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」
ーーーーーーーーーー
一度、落ち着いていただくために、最初に案内した部屋まで戻ることに致しました。
「さっきは大声出して、すみませんでした」
「いいんですよ、私もいきなりでしたね。順を追って説明致しますね」
そこから、私は皆さんに経緯を説明することにしました。
私は少し前から、お爺さまが紹介してくださる方と、定期的にお見合いをしていること。そして、様々な男性と知り合い、お話をしていく中で男性への嫌悪感を感じるようになったこと、そして、晴翔様にはそんな気持ちを感じたことはなく、むしろもっと知りたいと思っていること。
そして、今回の許嫁の話は、結婚を前提のお付き合いという形だが、必要な時だけ婚約者として対応して頂きたいことを伝えた。ちなみに、あえて期間は定めませんでした。出来るだけ時間を稼ぎつつ、関係を深めていけば良いのです。
「ハルくん、そういえば先輩は大の男性嫌いで有名なの」
「そうなのか?そうは見えないけど」
多分、晴翔様は私が男性と話しているところを見たことがないのでしょう。自分でもわかるぐらいに酷い対応をしていると自覚しております。
「私も聞いたことあるよ。話しかけるだけでも、機嫌がすごく悪くなるらしくて、今の生徒会はみんな女子になったとか」
「ま、マジで?」
「お恥ずかしながら、本当のお話です。私は男性が苦手なのです。話しかけられるだけで、嫌悪感が凄くてですね。でも、不知火の者に生まれた以上は跡取りの問題は、いつも付き纏うのです」
「大変なんですね」
晴翔様が同情して下さっているのがよく分かります。決して晴翔様は、私のことを好いてはいないでしょう。しかし、晴翔様は困っている方を見捨てるような方ではありません。心苦しいですが、同情に訴えさせて頂きます。
「ですが、晴翔様をひと目見た時、今までのよう感情は抱かず、むしろ会ってみたいと思うようになりました」
演技をしようと思ったが、思った以上に私の心は弱っていたようです。目頭が少し熱くなってしまいました。私は、潤んだ瞳で晴翔様を見つめます。
「初めて拝見したのは、生徒が持って来ていた雑誌でした。私はもっとあなたを知りたくてファンクラブに入会し、どんどんと虜になると共に、男性達への嫌悪感は増すばかりでした」
あぁ、話していて悲しくなってきましたね。なんと情けないのでしょう、私は。あと少し頑張るのです、私。
「そして、先日の体育祭で、たまたま晴翔様を見つけた時は、心が踊り出しそうくらい跳ね上がるのがわかりました。すぐにでも会いに行きたかったですが、あの状況では近づけなかったので」
私は、大塚さんへ視線を向けました。あっ、やってしまいました。決して睨みつけるつもりはなかったのですが、あの光景を思い出したら、胸の辺りに違和感を覚えました。このモヤモヤは何でしょう?もしかして、これがヤキモチというものでしょうか?
「晴翔様、しばらくの間でいいので、私を助けて頂けないでしょうか?」
言えた。私は、なんとか最後まで言い切ることができた。晴翔様は考え込んで、困ったように見えます。ですが、私はわかっております。晴翔様はきっとお受けになってくれるでしょう。
「わかりました、俺でよければ力になります」
やっぱり、あなたはお優しいのですね。晴翔様を騙しているようで、心苦しい反面、承諾していただけてとても嬉しかったです。私は自然と笑顔が溢れました。
「よかった。今後ともよろしくお願いしますね、旦那様♪」
旦那様♡
あぁ、なんて良い響きなんでしょうか。そうだ、これからは旦那様とお呼びしましょう。ふふふ、逃がしませんよ、旦那様?
ーーーーーーーーーー
儂は、不知火顕彰しらぬい けんしょう。不知火グループの会長であり、澪の祖父である。息子夫婦は現在、海外支社を任せているため、この家には儂と澪、それから使用人達しか住んでおらん。
そんな、我が家に澪が初めて学校の友達を連れてきた。それも3人も。運転手の話では3人とも後輩で、澪もだいぶ心を開いているようだとか。澪にもそんな友達ができたのだな。
おっと、歳をとると涙腺が緩くなっていかんな。
「お爺さま」
「おぉ、澪か!お友達とは楽しく遊べたか?」
いつも以上に可愛い笑顔の孫娘。どうやら友達とはうまく行ったようだな。儂は、微笑ましく澪を眺めていたが、驚きの発言が飛び出した。
「お爺さま」
「ん?どうした?」
なんだ欲しいものでもできたのかの?
「私、婚約したい人を見つけました」
「・・・」
いやはや、歳をとると耳が遠くなるのぉ。婚約したい人?いやいや、男嫌いの澪に限ってそんなこと。何かの聞き間違いだろう。
「お爺さま、私本気です。だから、もう心配しないで下さい」
そう言って、澪は自分の部屋へと帰ってしまった。
なに?こ、婚約だと!?
「ど、どういうことだ澪!」
その後、何度も澪に訊ねたが、相手のことは教えてくれなかった。それどころか、最近部屋にも入れてくれなくなってしまった。
くそぉ、儂の可愛い孫娘をたらし込んだのはどこのどいつじゃ!?運転手や使用人に今日来た友達について聞き回ったが、どうやら澪に味方しているようで、誰も口を割らなかった。こうなったら自分で調べる他ない。儂は密かに情報を集め始めたのだった。