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ありんす
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成瀬りん
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聖地ムサはその名とは裏腹に、何もないただの草原地帯だ。
辺り一面に青々と雑草達が茂っており、建築物の類は見当たらない。
この地が黒い軍勢によって飲み込まれようとしている。
ウルフィエナとは別世界の魔物達。タウロスとシャドウデーモンによって構成されるそれらは、人間のいない煉獄からこちらの世界へ招かれた。
戦争勃発の瞬間だ。
皮切りとして、エウィンとアゲハが生贄として捧げられる。
そのはずだった。
このタイミングで、赤髪の魔女が駆け付ける。
そうであろうと、人数差は縮まらない。
エウィン達の三人に対し、煉獄の大群は数千体。
一方的な蹂躙であり、数の暴力が人間側を食い破ることは確定だ。
そういった事実は、彼女だけには適用されない。
「雑魚がいくら集まっても無意味だってこと、教えてあげる」
魔女の名前はハクア。長すぎる赤髪を揺らしながら、威風堂々と歩き出す。
残りの二人は待機だ。エウィンとアゲハは恐怖に飲まれており、最初から戦力として当てにならない。
正しくは、手を借りるまでもない。
そうであると主張するように、ハクアは散歩のような足並みだ。準備運動のように右腕をグルグルと回しており、左手は白紙大典を携えている。
草原を黒色に塗り替える魔物達。
白衣をはためかせながら歩く魔女。
両者がついにぶつかる。
開戦だ。
その瞬間、突風のような轟音が鳴り響く。意気揚々とハクアに襲いかかった魔物達が、爆ぜるように吹き飛んだ際の衝撃だ。
その数は一体や二体では済まない。波のように押し寄せる大群が、たった一人の腕力によって無残にも蹴散らされている。
この光景は、エウィンを驚かせるには十分過ぎた。
「こ、ここまでだったなんて……。アゲハさん、信じられます?」
「すごい、本当に……。集めた落ち葉を吹き飛ばすように、魔物が倒されて……」
心の底から驚嘆だ。
タウロスはまだしも、シャドウデーモンはエウィンに食らいつける程度には手ごわい。
そのはずだが、ハクアの前では赤子も同然だ。近寄った順に壊されており、手足だけでなく胴体さえも千切れて息絶える。
荒れ狂う騒音に悲鳴が混じる中、エウィンは座り込むことしか出来ない。
「いったい何を見せられているのやら。こちとら、パワーアップしてやっと倒せたって言うのに……」
この傭兵は一流だ。その事実は揺るがない。
一方で、押し寄せる大群もその一体一体が王国軍の一個部隊を掃討可能な化け物だ。
しかし、赤髪の魔女は汗一つかかずに魔物を屠り続ける。左腕を使わないというハンデ戦でありながら、右腕一本で事足りてしまう。
アゲハとしても、日本人らしい感想を抱かずにはいられない。
(こういうの、配信で見たことある。無双系のゲーム、だったかな……)
キャラクターを操作して、多数の敵を蹴散らすアクションゲームだ。
アゲハの感想通り、黒い魔物達が一方的に蹂躙される光景は似通っている。
それほどに非常識な戦場だ。
長身のシャドウデーモンが一斉に襲いかかろうと。
二足歩行のタウロスがその角で突き刺そうとしても。
赤髪の魔女は虫を払うように殺し返してしまう。
魔物側は拳を届かせることすら叶わない。噛みつくことも、覆い被さることすら不可能だ。
タウロスは見るだけで対象を引き寄せることが可能ながらも、実力差が原因なのか、一度も成功させられない。
だからこそ、ハクアにとっては単なる作業だ。自身の右手が届く範囲に入った個体から、順に始末する。
非常識な光景を眺めながら、エウィンとしても立ち上がる以外にすることがない。
「本当に片腕だけで……。あ、とか言ってたら蹴飛ばした。確かにこんな感じだと、僕達はかえって邪魔ですね」
「そ、そう、だね……」
アゲハとしても同意するしかない。
ハクアが強いことは以前からわかっていた。日頃から最強だと自負する彼女だが、疑いようのない事実だと再認識させられた。
煉獄の魔物がその数を半数程度に減らした頃合いに、緑髪の傭兵がゆらりと歩き出す。行先は戦場ではなく、落とし物を拾うためだ。
「この剣、黒くてカッコイイですけど、僕にはちょっと大きいかな。アゲハさん、どう思います?」
シャドウデーモンが振るっていた片手剣だ。
しかし、中肉中背の傭兵にはいささか大きい。大剣に分類されるサイズ感ゆえ、小回りを重視するエウィンは眉をひそめる。
アゲハとしては武器の良し悪しなどわかるはずもなく、曖昧に答えるしかない。
「でも、似合ってると、思うよ」
「そんなこと言われたの、生まれて初めてです。とは言え、やっぱりちょっと大きいなぁ。これはモーフィスさんにあげて、もう少し小さいのをあっちで探そうかな。そろそろ終わりそうですし」
エウィンの言う通り、終戦は間もなくだ。
戦地には多数の死体が横たわっている。草原は血の雨で赤く染まっており、魔女の白衣も返り血で真っ赤だ。
動く個体は残り少ない。それらは果敢にハクアへ襲いかかるも、その行為は一方的な殺戮に拍車をかけるだけだ。
シャドウデーモンの一部は、黒い剣を携えていた。刃の長さが統一されている可能性は否めないが、エウィンはそうでない可能性に賭けて物色するつもりでいる。
(こんなに強いのに、ハクアさんでも倒せない化け物が、セステニア……。今日みたいな突然のパワーアップだけじゃ、到底追い付ける気がしない。地道に頑張るしかないか)
若者らしからぬ達観だ。途方に暮れながらも現実を認識したくなる程度には、遠方の蹂躙が生々しい。
複数の観客が見守る中、ハクアはついに最後の一体を葬り去る。ラリアットのように右腕を振り抜いた結果、シャドウデーモンの胴体が上下に割かれた。
本来ならば、念入りに魔物の生死を確認すべきなのだが、ここにはエウィンがいるため不要だ。レーダーが生存者を認めないため、二人はハクアの帰還を素直に喜ぶ。
しかし、エウィンだけは顔を歪めずにはいられなかった。
「いやはや、お疲れ様です。うわ、きたな……」
第一声がこれだ。
事実、赤髪の魔女は全身が返り血で汚れてしまっている。
赤い髪はそのままに、白衣やその下の衣服だけでなく、顔さえも絵具で塗られたような有様だ。
とは言え、彼女としても反論せざるを得ない。
「失礼ね。それに、マリアーヌ様は死守してみせたわ」
ふんぞり返るように、左手の古書を見せつける。それは白紙大典と呼ばれる通り、無地の真っ白な本だ。
そのはずだが、エウィンは呆れるように指摘する。
「けっこう汚れてますけど……」
「え⁉ 申し訳ありません! マリアーヌ様!」
普段は雪のように白い本が、ケチャップをぶちまけたように赤い。
何千もの魔物が砕かれる戦場に同伴していたのだから、こうなることは必然か。
ハクアは謝罪と共にマリアーヌを舐めまわす。
この奇行は見慣れた光景ゆえ、エウィン達は怯みもしない。
「さすがにばっちいと思いますよ。魔物の血なんて……」
「うるさいわね。私がこんなもんで腹壊すわけないでしょ。ぺろぺろぺろ」
(むぅ、僕の方が正しいこと言ってるはずなのに……)
押し黙るしかない。
ハクアは先ほどまでの勇姿が嘘のように、変人へ成り下がってしまった。
それでも気にせず白紙大典を舐めており、その姿をアゲハはこう表現する。
「我が子を舐める、母猫みたい……」
「ぶっ⁉ 確かに! アゲハさん! さすがです!」
エウィンが腹を抱えて笑い出すも、ツボにはまったのか崩れ落ちる。
聖地ムサが和やかな雰囲気に包まれた瞬間だ。
敵は全てハクアが倒した。遠方に積まれた死体の山がその証拠だ。
この周辺は安全を取り戻したのだから、思う存分リラックスして構わない。
そのような幻想は、二体の魔物によって霧散させられる。
「楽しませテ、モらったヨ」
「これが君の言っていたニンゲンか。知的そうには見えないが」
片方は音もなく空から舞い降りた。
それは火球に頭部と四肢が備わっており、頭髪も炎で再現されている。
その顔は美しい反面、他者を嘲笑うような顔立ちだ。腕と足はすらりと細く、それでいてその膂力は人間を遥かにしのぐ。
状況が状況ゆえ、エウィンとしても笑ってなどいられない。
「オ、オーディエン! あと、そちらは……誰?」
問題はもう一体の方だ。
オーディエンがどこかに潜んでいたことは、容易に想像出来た。
タウロスとシャドウデーモンが煉獄の魔物だと予想出来た時点で、仕掛け人を見抜けてしまう。
普段ならば、この道化師だけが満足そうに現れる状況ながらも、今回は異なる。
エウィンはオーディエンを睨むも、その時間は一瞬だ。
魔物の気配はもう一つあるため、そちらを確認せずにはいられなかった。
「ボクかい? 名前なんてないよ。ただの探究者さ」
声だけでなく、その姿は間違いなく人間の女性だ。
それは高級そうな椅子に腰かけ、その椅子は原理は不明なれど宙に浮いている。
もっとも、問題はそこではない。
彼女はどういうわけか全裸だ。下着すらも身に着けていない。
ハクアのように髪は長く、その色は白髪のように真っ白だ。
裸で椅子に腰かけ、足を組んで座っている。
同時に、人間達を見下ろすも、その瞳は前髪のせいで他者からは確認出来ない。
エウィンが凝視したくなるほどには、妖艶な姿だ。隣のアゲハが嫉妬に燃えようと、今だけは気づけない。
そういった事情などお構いなしに、オーディエンが補足する。
「オいおイ、ホワイエって名前をつけてあげたロ? モう忘れちゃったノ?」
「ああ、そうだったね。研究以外に興味がなくてね」
二体の魔物は知り合いだ。
オーディエンとホワイエ。
同時に現れたそれらだが、実際には異なるとハクアだけが気づいている。
(ホワイエ、こいつが異世界の研究を……。オーディエンが降ってきた直後に、黒い穴から現れたように見えたけど……。空間に穴、世界と世界を行き来するための道? だとしたら、まんざら嘘じゃないってことか)
鋭い観察眼だ。
事実、ホワイエは空間の裂け目から現れた。
その名は既に聞かされていたため、エウィンもこのタイミングで気づく。
「ホワイエ? あ、その人が! アゲハさん、地球への帰り方、教えてもら……」
自身の発言を途中で止めた理由。それは、アゲハから告白されたことに他ならない。
地球への帰還よりも、エウィンと共にいたい。
彼女からそのような本心を告げられた以上、ホワイエの登場は悩ましい限りだ。
エウィンのらしくない態度に、オーディエンも首を傾げてしまう。
「ドうしたんだイ? 確かに、コれがホワイエだヨ。モっとモ、今はまだその時じゃなイ。ダってそうだろウ? キミはまダ、ワタシもアルジも倒せていないからネ」
そういう約束だ。
にも関わらず、この魔物がこの場に現れた。
ハクアとしても、その理由を問わずにはいられない。
「じゃあ、なんで連れて来たの?」
「ファファファ、知りたいかイ?」
「いちいちじらすなって言ってるの。ぶん殴られたいの?」
オーディエンのふざけた態度が魔女を苛立たせるも、これ自体は二人が何度も繰り返してきたやり取りだ。
もっとも、ハクアが腹を立てていることも事実ゆえ、魔物の方が折れるしかない。
「短気なところは本当に変わらないネ」
「やかましい」
「ホワイエをここに招いた理由は二つあってネ。一つ目ハ、キミ達に披露するためサ。顔見世ってやつダ。二つ目ハ、死体をいくつか持ち帰りたくてネ。アルジに報告するにモ、証拠を見せた方が信じてもらえるかラ」
主とはセステニアを指す。
オーディエンはそれの部下でありながら、こうして人間と内通しており、その立ち回りはスパイあるいは道化師だ。
この瞬間、炎の魔物はエウィンをじっと見つめる。両者の自然が交わったことで、発言は再開された。
「エウィン、期待以上だっタ」
「うっさい。危うく殺されかけたぞ」
「ファファファ、ソうだったネ。デも、キミ達は勝っタ。サらなる段階ヘ、昇りつめタ」
「そこら辺のことはわかってないけど、もし僕が殺されたらどうするつもりだったんだ?」
「ソれこそ心配不要。ダっテ、ハクアが駆け付けてくれル。ソういう手筈になっていたからネ」
「あ、やっぱりグルだったんですね」
この騒動が仕組まれたことだと明らかにされた瞬間だ。
オーディエンとハクアが共犯だと白日の下に晒されるも、赤髪の魔女はふてぶてしく言い放つ。
「こいつがいきなり提案してきたの。私は口車に乗っただけ。あんな大群ぶつけてくるなんて、聞かされてなかったけど」
「ファファファ、ソうだったかナ? マぁ、イいじゃないカ。久しぶりに体を動かせテ、楽しめたんじゃなイ?」
「数が多いだけで手応えの方はからっきしだったけどね。しかも、こんなに汚れちゃうし……」
見栄ではなく事実だ。既に実演済みゆえ、エウィンとしても疑う余地などない。
「今回のおつかいも、ここに誘導するためのフェイク?」
「まぁ、そうなるわね。私は言われた通り、後方に待機してたの。途中でバカらしくなって帰ろうかと思ったけど、思い留まって正解だったわ」
「な、なんて綱渡りな……。オーディエン、そもそもあいつらは何なんだ? 煉獄の……、魔物なんだよな?」
エウィンとしては呆れるしかない。危険極まる思い付きで命を落としかけたのだから、腹立たしいという感情は至極真っ当だ。
それでも今は、怒るよりも尋ねたい。
牛のような異形の怪物。
人間の女性と見間違う、黒い魔物。
これらについて予想は容易ながらも、眼前に黒幕がいる以上、直接問うのは当然の権利だ。
「正解。ゼ~んブ、ワタシが連れて来タ。キミが最初に戦った方がタウロスで、苦戦したのがシャドウデーモン。ドう? ナかなか強かったでショ?」
「あぁ、リードアクターのパワーアップがなければ殺されてたよ。タウロスとシャドウデーモン……か。ハクアさんはご存じで?」
「ええ。巨人戦争の時にも見かけたわね。オージス様が一瞬で殺しちゃったから、よくわからなかったけど」
「うわぁ、当時の王様も化け物……」
オージス・イダンリネアは建国の王であり、その実力は単身で戦争を終わらせるほどだ。
ハクアが嘘をつくとも思えないため、エウィンとしても反応に困る。
しかし、今はそれどころではない。緑色の髪をわずかに揺らしながら、もう一人の魔物へ視線を移す。
「そちらの、えっと、ホワイエさん?」
「ん? なんだい、ニンゲン?」
「どうして裸……、いや、そうじゃなくて、アゲハさんの故郷、地球がどこにあるのか、調べられるんですか?」
念のための確認だ。
アゲハがこの世界に残ると宣言した以上、帰還については探る必要などない。
それでも、選択肢の一つとしては有用だ。
少なくともそう考え、専門家に問う。
その結果、一瞬の静寂が訪れるも、魔物は椅子に腰かけたまま口を開いた。
「どうだろうな。どちらにせよ、時間がかかるよ。百年とも、千年とも……」
「う、そんなのに? わかりました。僕がオーディエンをぶっ飛ばせたら、力を貸してください」
「そうだね。覚えていたら、また会おう」
非情な事実を突きつけられてしまった。
それでも、必要以上に落ち込まない理由は、アゲハの告白に他ならない。
もっとも、ハクアはその事実を知らないため、このタイミングで慌ててしまう。
「ちょっと、なんで納得してんのよ。百年って、あんた達は確実に寿命を迎えてるわよ。本当にいいの?」
「あー、その、これについては帰ったら説明します」
「そう、わかったわ。オーディエン、私からも質問させて」
地球帰還をあっさりと諦めた二人に違和感を抱きながらも、ハクアは次の話題を投げかける。
彼女の魔眼はオーディエンを一瞬だけ睨むと、次いで遠方の死体達へ移ろう。
「あんたの手駒は四体だけじゃなかった?」
「ソうだヨ」
「だったらあれは何? 途中で数えるの止めたけど、とんでもない数よ。私がいなかったら、王国だって滅ぼせるくらいの戦力じゃない」
ハクアの指摘は大げさではない。
もし、この魔女が迷いの森に引きこもっていたのなら、千を超える軍勢はイダンリネア王国にすら痛手を負わせられた。一体一体が強力な魔物ゆえ、軍人の総数がそれ以上でもせき止められない。
「ファファファ、怖い怖イ。成果を上げられないワタシニ、アルジが腹を立ててネ。ニンゲンの掃除と結界解除の調査を人海戦術でさせるためニ、煉獄から希望者を募ったってわケ。モちろン、ソんなことには使わなイ。エウィンを鍛えることニ、使わせてもらっタ」
「いやいや、僕はパレードを眺める子供よろしく、ぼ~っと見てただけなんだけど……」
「デも、ボんやりとわかったんじゃなイ? 方向性ガ……。到達地点ガ……」
「どうだろう? ハクアさんが凄すぎて、参考にならなかった感が……」
エウィンがいかに成長しようと、ハクアの実力は桁違いだ。今回の騒動は、その事実が揺らがないと再認識させられただけだった。
それでもオーディエンは、妖艶な顔を嬉しそうに歪ませる。
「シャドウデーモンを見事倒した今なら……、ハクア」
「何よ?」
「モう認めているんだろウ? 今度こソ、キミの出番だと思うヨ」
意味深な発言にエウィンだけが首を傾げるも、問われた魔女は理解を済ませている。
長い赤髪をかきあげながら、その目は諦めるように空を見上げた。
「そう、ね、わかったわ。明日から私が、この子達を指導するわ」
「え⁉」
最強に至る道筋が提示された瞬間だ。
しかし、エウィンは怯えるように悲鳴をあげてしまう。
当然だ。まだ死にたくない。
ハクアに殴られようものなら、骨折どころかその部位が欠損してしまう可能性すらあり得る。
彼女の暴力がいかに危険かは重々承知しているため、この提案には怯まずにはいられない。
「安心なさい。手加減してあげるから。仮に壊れたとしても、アゲハに治してもらいなさい」
「こ、怖い! さっきの戦いより命の危険を感じる!」
本能が危機を告げるも、その認識で正しい。
ハクアとの模擬戦は、それほどに命がけだ。彼女のデコピンですら一撃必殺ゆえ、エウィンは覚悟を決めるしかない。
恐れおののく少年を眺めながら、オーディエンは満足そうに笑いだす。
しかし、同行者をここへ連れて来た理由までは忘れておらず、後方の仲間へ指示を出す。
「ソれじゃア、エウィンが仕留めた死体の回収、オ願いしてもいいかナ?」
「頼まれた」
ここからは早かった。
裸体が座る椅子は、宙に浮いたまま音もなく移動し始める。行き先は二体の遺体だ。エウィンに負かされたタウロスとシャドウデーモンであり、それらは黒い穴の出現と共にその場から消え去ってしまう。
ハクア達がその芸当を観察する一方で、オーディエンも行動を開始する。
「王国に感づかれたくないからネ。ワタシの部下はワタシが責任をもって片付けよウ」
残酷な発言ながらも、行動はそれ以上だ。
炎の魔物が両手を掲げて天を見上げると、それを合図に大きな火球が打ち上げる。それは花火のように上空で飛散すると、一粒一粒が雨のように降り注ぐばかりか、遠方の亡骸を燃やし始めた。
ハクアが感心するように唸る一方で、エウィンは居ても立っても居られない。
「あ! あ! 僕の剣が! 丁度良い剣を物色しようと思ってたのに!」
「うるさいわねー。あちこちに落ちてるでしょう? 後で探しなさい」
ハクアが指摘する通り、全ての黒剣が燃えたわけではない。オーディエンの炎は鉄すらも溶かすが、死体から離れた位置に何本も転がっている。それらはここからも確認出来るため、慌てる必要はない。
そうであろうと、候補が減ったことは確かだ。エウィンはヤキモキしながら、鎮火を待ちわびる。
このやり取りを眺めながら、オーディエンがゆっくりと浮上を開始した理由は撤退の準備だ。
「ファファファ、楽しませてもらったヨ。今日はここまデ……。アルジを待たせるト、マた叱られちゃうからネ。エウィン、キミはもっともっと強くならないト」
「い、言われるまでもない! あ、ホワイエさん! 次はいつ会えますギャー!」
突然の悲鳴は自業自得が原因だ。
裸のホワイエを凝視するエウィンに、目潰しという天罰が下る。
アゲハは不貞腐れるように頬を膨らますも、今回ばかりは誰も咎めない。
仲睦まじい喧嘩を眺めながら、ハクアとしてもため息をついてしまう。
「考えることはいっぱいね。こいつらの鍛え方、エウィンが成長した理由の解明、それと……」
今晩の献立。
家長として、居候を養い始めて半年以上が経過した。三人での生活が当たり前になったものの、その弊害として食事にも力を入れなければならない。
ましてやエウィンは大食いだ。体作りのためにそう仕向けたのだが、その分、作る側の負担も大きい。
戦闘音が止んだ代わりに、少年の叫び声が木霊する。
ここは聖地ムサと呼ばれる草原地帯。王国の傭兵すらも立ち寄らない、殺風景な土地だ。
仕組まれた戦いは幕を閉じた。
さらなる力を手に入れたエウィン。
この少年に想いを告げたアゲハ。
指導者として名乗り出たハクア。
新たな時代の幕開けだ。
巨人戦争を真の意味で終わらせるため。
一万年の呪縛を払うため。
緑髪の傭兵が、ついに王道を歩み出す。
コメント
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いやああああああもう最高すぎる!!😭🔥✨ ハクアの無双っぷりがかっこよすぎて声出たわ…!あの「雑魚がいくら集まっても無意味」ってセリフ、マジで鳥肌立ったよ…🦋💕 片腕だけで数千の魔物を蹴散らすとか規格外すぎるでしょ!! しかも最後のオーディエンとホワイエ登場で一気に世界観広がったし、エウィンがハクアに師事することになる流れが熱すぎる…!アゲハの告白とか、エウィンがホワイエ見て凝視しちゃうシーンとか、もう感情が追いつかないよ!!次の展開が待ちきれない…!!🔥🔥🔥