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感動した…!!!!ほんまに天才!! この後も気になる!!凛は、右目見えない事を皆に言ったのか、ブルーロックの皆は、ほんとは気付いていたのか…真実は分かりませんけどね!
書いてる時は普通だったんですが、投稿してみたら変な空白がありました。読みづらくてすみません。
⚠️注意⚠️
・兄弟や過去模造あり・キャラ崩壊︎・冴凛?︎ ︎ ︎・視点がころころ変わるので読みづらいです︎ ︎・誤字脱字お見逃しください ・とても長い文章なので時間があるときにお読みください︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
・凛の右目が見えない設定です。凛が右目のことをあまりよく思っていないので、マイナスな表現があるかもしれません。気をつけたつもりですが、不快に思われた場合はすぐ読むのをお止め下さい。
それでは、全て大丈夫な方のみ、どうぞ!
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例えば、あなたと眺めたこの海を、もう少し見渡せたのなら、今よりもっと、心惹かれたのでしょうか。
例えば、あなたを一度に全て捉えられたとき、この世界は今よりずっと、輝いて見えるのでしょうか。
例えば、この右目の視力が”普通”であれば、俺はあなたに見捨てられずに済んだのでしょうか。
嗚呼神様、なぜ俺は欠陥品なのでしょうか
凛視点__
幼い頃から俺は、右目がほとんど見えなかった。見た目はほぼ一緒だった。俺は園児にして右目の視力は0.1も無かったが、その代わりか左目の視力は2.0ほどあった。
俺は右目が見えないことを悔いたことはない……わけじゃないが絶対に周りに悟られないようにしていた。でも、周りの子が少し羨ましく思うことはあった。そして、そのことを言ってしまいそうになることがあった。でも思い出すんだ、俺の視力が特別悪いと知ったときの父さんの困惑、そして絶望の顔、母さんのちゃんと産んであげられなくてごめんねと泣き崩れる姿、兄ちゃんの悔しそうで悲しそうな声、全部、全部思い出すんだ、だから俺はこの秘密を誰にもバレないように隠し通す、もちろん家族にも……
幼い頃、母さんに眼鏡を勧められたことがある。
「凛、眼鏡掛けてみない?」
一瞬いいかもしれないなんて考えてしまったが、もし眼鏡を掛けることになったらそれこそ見えてるって嘘が使えなくなってしまう、だから俺は__
「いい、見えてるから眼鏡はいらない」
母さんの提案を断った、そのあとも家族全員で、俺を説得しようと必死になっていたが、俺が眼鏡を掛けることは無かった。しばらくすると、眼鏡のことは何も言われなくなった。たぶん、眼鏡の無い生活がどれだけ不便で怖いか分からせるためだろう、俺には都合がよかった。その日から俺は見えてるって嘘をつくために練習をした、毎日鏡の前でポーカーフェイスを研究したし、少しの空気の動きや音も敏感に察知して対応した、そのおかげか、周りに見えてないとバレたことはなかったし、家族もだんだんと忘れていった、でもなぜか兄ちゃんだけは、忘れてくれなくていつも俺の手を引いてくれたり、見える左側に居てくれて、でも道路だと右側を歩いてくれていた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎︎ ︎ ︎ ︎︎ ︎ ︎俺は忘れて欲しかったけど、でも俺の居場所はここなんだって思えた。俺は兄ちゃんのために生まれたんだって思った。だから俺は兄ちゃんのためにサッカーをした。
そして俺は小学生になった
クラスにはいろんな子がいてその中には、やんちゃな子もいた。いきなり足を出してきたりする奴もいて、そいつは毎回右側に足を出してくるんだ、ぶつかる少し手前ぐらいに足を出してるぽいから、引っ掛かる奴は少なかったけど、俺は見えないからそのまま突き進んじゃっていつも転びそうになる。ヘラヘラと笑って謝ってくるその度に殺意が湧いた。いきなり飛びかかってくるクラスのバカを嫌悪した。クラスメイトが電気を付けたり、消したりを繰り返す度に不安になった。でも誰かに打ち明けることなく過ごした、まだ兄ちゃんは俺の”秘密”を忘れていないようだった。
ある日兄ちゃんは一人、スペインに飛び立って行った。俺の居場所が無くなった気がして少し不安だったが兄ちゃんは一人で頑張っていると思ったら俺も頑張れた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎こうして俺の小学校生活は幕を閉じた。
中学生になった、俺の右目の視力は下がる一方でもう失明とほとんど変わらないのだ。
兄ちゃんがスペインに飛び立って二年が経ったその間俺はサッカーで日本一になった。兄ちゃんの居ないサッカーはとても窮屈で退屈だったけど、俺なりに考えてこのチームを日本一に導いたんだ、色んなことを考えたし、色んなことを感じた。兄ちゃんは何をしているかなとか、兄ちゃんが帰ってきたら何から話そうかなとか、兄ちゃんはスペインでどういう経験をしたのかなとかずっと考えてた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎頑張ったって認めて欲しくて、褒めて欲しくて、まぁそれもあの雪の日に全て砕け散ったのだけれど……
――――――――――――――――――――――――
あの雪の日から一年ほど経ち、俺はブルーロックに来た、そう全てはクソ兄貴を見返すために…………
ブルーロックでも俺の”嘘”はバレていないようだった、それもそうだ俺はブルーロックランキング一位なのだから周りが気づくはずもないんだ。
今まで通り普通に過ごしていたある日、いきなりU20日本代表との試合があると告げられた、しかもそこには兄貴もいるとか、チャンスだと思った、またあの破壊衝動が蘇った気がした。でも一つ不安なことがあった。俺の右目についてだ、もし兄貴が俺の右目のことを覚えているのなら、俺はいくら努力しても欠陥品だと言われるだろうし、もう褒めても認めてもくれないだろう。そしたら俺の価値は無くなる。だってサッカーのできない俺に価値は無い、そうだろ?あの日俺にそう伝えたのは他の誰でもない兄貴なんだから。でもまあ兄貴は俺なんかに興味も無いだろうから覚えていないだろう、俺は、絵心の説明を聞きながら唖然とそう考えた。
U20戦当日___
俺と兄貴が言葉を交わすことなどあるわけないから、兄貴が覚えているかどうかわからなかった。けど俺の右目を気にする素振りを見せなかったからもう覚えていないんだろう。嬉しい筈なのに、ずっと忘れてほしいと願っていた筈なのに、俺の胸はズキズキと痛んだ。
試合開始___
聞き慣れたホイッスルの音が鳴り響いた、試合開始だ。この試合で俺は兄貴を越して欠陥品なんかじゃないと証明するんだ。 だからまだ欠陥品なんてレッテル貼らないで、俺はまだ頑張れるから、兄ちゃんのためなら全て捧げることぐらい簡単なことだから、それぐらい俺の世界は兄ちゃんで構成されてるんだ……
――――――――――――――――――――――――
試合も前半の終わりに近ずいてきた
素早く首を振って戦況をキャッチする、普通の人なら見える右側が見えないので俺には必要なことだ。そして走る、走る、俺が走ると全員が動き出す。敵も俺に注目する。そうすると必然的に他の奴がフリーになる。凡人ならここでフリーの奴にパスを出して得点、そんなパターンしか思いつかないだろう。だが俺だって生粋のエゴイストだ、自分で抜いて、敵を置き去りにする。そんなパターンを考えていなかった凡人は反応が遅れて、止めることなんて出来ない、そしてシュートホームに入り、打つ。俺の描いた放物線はゴールキーパーを嘲笑うかのように、ゴール右上に突き刺さった。
そしてホイッスルが鳴った、まさかのブルーロックがリードで前半終了。予想もしていなかった展開に会場が湧く。
――――――――――――――――――――――――
ハーフタイムミーティングを終え、U20日本代表のキックオフで後半開始。
士道が投入されてから、点が多く取られ、また兄貴の調子も上がったように見えた。前半の兄の動きが本気ではないことが判明した。士道にあんなこと出来るなんて知らなかったため、混乱したし、焦った。だけどその何倍も悔しかった。まるでお前なんか必要ないと言われているように感じた。そして気付いたんだ、気付いてしまった、兄貴と俺の距離は果てしなく遠いこと、兄貴が求めたストライカーは士道であること、そして兄貴にとって俺は存在価値のない欠陥品であることに。
だがここで諦める訳にはいかないのだ、今このフィールドで兄貴のことを読めるのは俺しかいないのだから。それにまだ負けたわけじゃないのだ、勝てる可能性だって充分ある。というか勝つのだ、今後の俺のサッカー人生がかかっているわけで負けるわけにはいかないし、負ければ俺は本当の本当に存在価値のない目障りで面倒臭い、欠陥品になってしまう___
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あれ?
気づいたら試合は終わっていて、俺は潔に負けていた。その事実、そして試合後の疲労感から俺はその場に崩れ落ちてしまった。少しすると兄貴が俺の方へ歩を進めて来た、振り返ると丁度兄貴が口を開いたところだったらしく、俺は兄貴の言葉を待つことにした。
「俺が見誤ってたよ」
「この国にロクなストライカーなんて生まれないと思ってた」
「兄ちゃ……」
やっと認めてもらえた、そう思ったのに……
「お前の本能を呼び起こし、この国のサッカーを変えるのは」
「潔世一あのエゴイストなのかもしれない」
は?絶望のどん底に突き落とされた気分だ。お前はもう用無しだと言われたような気分だ。絶望や嫉妬などの感情を抱いたが、最後に残った感情は悲しい、ただそれだけだった。今までの苦労は努力は全て無駄だったの?こんなのは言い訳かもしれない、けど頑張ったんだ、右目が見えないって大変なんだ、そんなの見える人にはわからない、わかるのは見えない人だけだ、そんなことで逃げるのは糸師冴の弟として許されないことだろう。でもどうせ兄貴だって俺のことなんか弟だと思っていないから、ちょっとぐらい逃げてもいいじゃないか。もう疲れてしまったんだ、少し休んだらまた頑張るからさ、少し、ほんの少しだけだから立ち止まることを許してくれ………
――――――――――――――――――――――――
あれから長い、長い、年月が経った。
俺はプロとして活動するようになり、世界で戦う選手になった。俺は今、フランスのチームに所属している………のだが最近、移籍の話があり、すごく迷っている。ちなみにオファーがきているのはスペインのレ・アールなのだが………選手として私情を持ち込んではいけないことはわかってる、契約金も今より上げてくれると言っているし、なにより世界一のチームだと謳われているから俺にとってはプラスでしかないのだ。そう、”サッカー選手の糸師凛”ならば、では何故悩んでいるのか、それは俺の兄、糸師冴がいるからだ。今まで俺の”秘密”についてはフランスのチームメイト、もちろんブルーロックの面々にも隠し通してきた。だが、兄貴にはバレてしまう可能性が高い。そうなった場合、俺のサッカーは終了し、ついでに人生も終了する。それだけならまだいい、いやよくはないのだが。それよりも危機すべきは、兄貴に迷惑をかけてしまうであろうことだ。片目の見えない欠陥品の弟なんて、糸師冴、唯一の汚点といえるだろう。そんな弟?が自分のチームに移籍してくるなんて俺が兄貴だったら耐えられない。でもオファーを受けたらまた兄ちゃんと一緒にサッカー、できるかな? なんて……あるわけないのにな………
――――――――――――――――――――――――
「おい凛」
「?」
練習が終わり、帰ろうとしていたところ、知らない番号から電話が掛かってきた。とりあえず出てみると ___
「兄貴?」
「嗚呼」
そう、電話の相手は兄、糸師冴であったのだ
「お前、レ・アールからオファー来てるだろ、あれ受けろ」
「は?」
「受けないメリットがない、そのぐらい自分で判断できるだろ」
「わかってる……」
「そうか……」
「は?それだけ?」
「?嗚呼」
「あ、そう」
「ちゃんと受けろよ、じゃあな」
まじで、なんのために電話してきたんだ?でもこれで受ける以外の選択肢は無くなってしまった。
凛は覚悟を決めて、オファーを受けることにしたのだった………
――――――――――――――――――――――――
そして俺は、このシーズンをもち、フランスのチームをやめ、スペインのチーム、レ・アールに移籍をした。
そんな俺の生活は順風満帆とはいかずとも、とくに大きな問題はなく過ごせていた。
「あ”?なんだそのシュートは、寝ぼけてんのか?まだ三歳児の方がましなんじゃねぇの」
「おい!冴」
そう、これも別に大きな問題じゃない、ただ兄貴の理想に応えられない俺が悪いだけ、それだけの話だ。わかってるけど、むかつくものは、むかつくわけで……
「あ”?んなわけねぇだろ、あんなヘボパス出しといて、あんたも人のこと言えねぇんじゃねぇの」
「おい凛もやめろ!」
やはり言い返してしまう。
必死になっているチームメイトが目の端に映るが、俺たちの中ではこんなの日常茶飯事なのでもう慣れているチームメイトは離れて見守っている。
そう、レ・アールには糸師兄弟の喧嘩は見守り、手が出たら止めに入るという暗黙のルールがあったのだ。
今回の喧嘩は暴力沙汰になることなく、冴が呆れて一人練習に戻ったため、無事終わった。
____冴に背を向けられたとき、凛が悲しいそうにしていたのを冴は知らない、知っているのは、凛と、一連の流れを見ていた一部のチームメイトだけだ____
――――――――――――――――――――――――
そんなある日、チームメイトのミシェルがふざけていて凛の目になにかを飛ばしてしまったのだ。しかも運悪く左目に。
どうしたものか、俺は大いに焦った。さっさとこの場から立ち去り、目を洗いに行くのがベストだ、右目は問題ない、この場に突っ立ったままの方が怪しいだろう。でも俺の右目じゃギリギリ数十cm先の色と光が分かるぐらいだ、そんな状態でまともに洗面所まで歩けるとは思わない。
とりあえず袖で一生懸命目を擦ってみたけどあまり変わらない。そんなとき、ふと手を握られた気がした。
「あ、冴!ミシェルがごめんな」
「チッ」
嗚呼、この手はやはり兄のものだったのか。幼少期とは手の大きさも感覚も違うはずなのに、どこか懐かしさを感じさせる。そんな手だった。
手を引かれたと思ったら「止まるぞ」そんな声と共に体は立ち止まった。水の音が聞こえる、きっと洗面所まで連れてきてくれたのだろう。やっぱり兄貴は優しい、こんな俺のためにここまでしてくれるんだから。
そんなことを考えていると、俺の左目にお湯?らしきものがかけられた。そしてタオル?みたいなのもので優しく拭われると目が開くようになった。目を開くと____
「は!?ちかっ!」
思ったより兄貴の顔が近くにあって驚いた。
「何言ってんだ?さっきからずっとだろ」
あ、やばい、と思ったときにはもう遅く__
「おい凛、その右目はどうなってんだ?」
「__っ!」
兄貴の言葉を拾った瞬間、俺は駆け出した。その場から逃げなきゃいけない、なんとなくそう思った__
走る、走る、フィールドと違って開けていないから見ずらい、所々体をぶつけながらさまよっているとどこかの扉を見つけた、入ってみると何も無いただの真っ白い空間だった。ずっと走り続けていたのでなんだか疲れた、凛はその場に座り込み、壁にもたれかかると充電が切れたかのように眠ってしまった。
――――――――――――――――――――――――
気がつくとそこは、俺が居た場所とは違う所にいた。この感覚__どこかのベッドだろうか?部屋を見回してみると__俺と同じティファニーブルーの瞳と目が合い、驚きのあまりベッドから落ちそうになる。強い衝撃のために身を構えたが、その衝撃が来ることは無かった。その代わりに、心地よい体温に包まれて恐る恐る目を開けると__
「起きたか、凛」
「__っ兄貴!?」
兄貴に抱き抱えられていた。
「おろせよ!」
「暴れんな、お前が落ちそうになったのが悪い」
兄貴の腕の中で暴れ、抵抗してみるが、無意味だった。
「そもそもここどこだよ」
再びベッドに丁寧におろされ、兄貴は答える
「あー、……俺の家」
「はぁ!?」
「うるせー、お前が不用心に使われてない部屋で寝てたからミシェルが騒ぎ立てたんだよ」
「だって兄貴、練習は?」
「何言ってんだ?練習なんてとっくに終わったぞ?」
「え?今何時?」
「22時_」
「は!?そんな寝てたの?俺」
「嗚呼、運んでる最中も起きないとか寝坊助だな、お前」
「っうるせえ!」
本当に兄貴は一言余計……てか寝てる俺を運ぶとかできんの?自分よりデカい奴運ぶとかどうなってんの?え?ゴリラ?
「もう22時だぞ、さっさと寝ろ」
「いやいや、22時に寝る19歳珍しくねぇか」
「?そうか」
思わず昔のような口調になってしまった。 だが兄貴に子供扱いされてる気がするのだ、俺だってもう19歳だ、そんなすぐ寝ない。そもそも数分前まで寝てたんだ、寝れるわけない。
「………」
「なんだよ」
兄貴の視線が痛い、怖い、嫌でも思い出してしまう。あの冬の日、まるでゴミでも見るような目で見られたこと、U20日本代表と戦ったときのお前に興味なんて無いとでもいうような目のこと。全部、全部、思い出すんだ。
辛い……︎。苦しい……︎。もうやめてほしい︎。全てを見透かすような瞳で俺を見ないで欲しい
「お前は__」
「言いたいことがあんならはっきり言えよ」
嘘だ、言われたくない、言って欲しくない、兄貴の口から出てくる言葉を想像する度、いろんな感情が体の中をぐるぐる回って気持ち悪い、この嵐が過ぎるのを待つしかない。そんな状態の中、凛は気絶するように眠った。
「寝てんじゃねぇか」
冴の声は、意識を手放した凛に届くはずもなく消えていった。
――――――――――――――――――――――――
目を覚ますともう朝日は昇っていて、物音がしたので、兄貴はもう起きているし、時刻は朝方なのだろう。
「ん、」
ベッドから抜け出して、とりあえず物音のする方に向かう。
扉を開けてみると、そこは、リビングらしき部屋だった。
「起きたか」
「………俺は出てく」
「別にいいが……お前、俺ん家から練習場までの道のり、わかんのか?」
「………チッ」
そうだった……じゃあ朝は一緒に行くのか!?無理無理無理無理!”秘密”がバレる、てかそもそも、秘密が無くても無理!あの雪の日はどうなったんだよ!
「わかんねぇなら、支度して待ってろ」
「…………」
「無言は肯定だと捉えるぞ」
「…………」
「はぁ、すぐ行く」
凛たちは、準備が終わり次第、練習場に向かったのだった。
――――――――――――――――――――――――
「よくやった」
これは兄、糸師冴から放たれた言葉だ。
_______俺は絶望した、信じられなかった。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎︎何故かって?そんなの、兄が俺以外の奴に、俺が一番求めていた言葉を贈ったからに決まってる。
『よくやった』たった5文字。でもそれは俺が一番欲していた言葉で、今後一切贈られることの無い5文字。
『誰かに温かいを教えてもらったことがないから冷たいがわからない。』これを一人の人が言っていたとする。これを聞いてお前らは可哀想だと思ったか?︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎俺は思わない。温かいを知ってしまったら、もう知らなかった頃には戻れない。今まで通りでは満足出来なくなってしまう、人間とはそういうものだ。それは俺も例外では無い。 俺は兄貴に愛を教えられてしまった。だから愛を与えてもらわなくてはもう満足はできない。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎愛を知らなければ愛されてるなんて勘違いしなかった。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ 『愛』の対義語は『無関心』。これは偉人、エリ・ヴィーゼル氏の言葉だ。確かに、俺に対しての兄貴の感情はこれだろう、つまり無関心。 ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎では、『愛』の対義語は『憎』これは普通に考えて当たり前のことだと言える。これは兄貴に対しての俺の感情と言えるだろう。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎俺は兄貴を愛していた、でもあの雪の日以降、俺は兄貴が憎かった、ぐちゃぐちゃにしてやるそう誓った。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎でもやっぱり、愛しい人を憎んだところで、この喪失感が埋まることは無かった、俺は愛を求めていた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ほら、愛憎という言葉があるだろ、意味は『愛していて憎いこと。』俺にぴったりな言葉だと思わないか。︎
でもやっぱり︎__ ︎ ︎ ︎
どうして、兄貴は俺に愛を与えたの?︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎どうして、兄貴は俺に優しくしたの?︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎どうして、兄貴は俺の心を満たしたの?︎ ︎ ︎ ︎最初から突き放してくれたらよかったのに__
そう思わずにはいられない。
――――――――――――――――――――――――
「ん、」
「………?」
前が見えない。嘘、ぼやけて見える。左目が使えてない?左目に触れてみると医療用眼帯みたいなものが付けられていた。
「大丈夫か?」
右目にぼんやりと映る小豆色と揃いのティファニーブルー。そして聞き慣れた落ち着く声。兄貴だ、咄嗟にそう思った。
「ここどこだ?」
「あ”?医務室だ」
「なんで、」
「覚えてねぇのかよ」
「?」
「お前の左目とミシェルがぶつかった。で、医者が大丈夫だが安静にしなきゃいけねぇって、それ」
嗚呼、そうだった。よかった、左目は無事みたいだ。
「伝言、監督が事務室に来いだって」
「ん」
ベッドから降りる。あれ?扉がどこかわからない__とはいえここには兄貴がいる。だから立ち止まるわけにもいかず、とりあえず歩いてみることにした……
「は?おい凛!」
「?」
『ドンッ』
なにかにぶつかった。めっちゃ痛いんだけど。
「まじで、お前なにやってんだ」
「なんでもない、ちょっとぼーっとしてただけ」
「はぁ、まぁいいが、早くしないと監督に怒られるぞ。」
ここから事務室に行くには、階段を下って、タッチパネルに数字を入力する必要がある。確か数字は1919だったはずだ。
「さっさと行け」
「チッ、んなことわかってんだよ」
なんとなく感覚を掴んだ凛は医務室を出て無駄に長い廊下を歩き出した__
歩く、歩く、はて?こんなに事務室までの廊下は長かっただろうか?そう思いながらももう一歩、踏み出してみると__
『ドンッ』
そこには階段があり、俺は下まで転がり落ちた。とは言ってもそこまで段数がある訳では無い、ざっと10段程度だ。だから大怪我などはしないで済んだ。ぶつけたとこが少々痛むぐらいだ。もう一度立って歩きだそうとしたとき、気づいた。俺は今、どっちの方向を向いているのかわからない。 光の方へ歩いてみようか、そう考え始めたとき、光の方では無い方から物音がした。事務室の隣は、使われていない倉庫だ、物音がする訳ない。だからこの物音は事務室から聞こえた音だと思っていいだろう。 そう判断した俺は、暗闇の方へと歩を進めたのだった__
『バンッ』
――なにかにぶつかった。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎すると目の前がパッと明るくなった。おそらくタッチパネルの電源がついた__というところだろうか。やっと事務室の扉の前まで辿り着いた__︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎緊張していたのか、俺は心の底から安堵した__のも束の間
完全に忘れていた、タッチパネルの仕組みで毎回数字の場所が入れ替わることを__
『ブーッ番号が違います』
「クソが」
『ブーッ番号が違います』
「チッ」
何回やっても数字の場所が入れ替わるせいで全然正しい番号を入力することができない。
『ブーッ番号が違います』
「…………」
なんかもう泣きたくなってきた__どうしてこんなことになるんだろう……
「__兄ちゃッ」
「あ!リン」
「?」
目の前がぼやけているので誰かはわからないが、聞き覚えのある声、チームメイトだろうか?
「なんだ?リン暗証番号わからないのか?」
「__いや……」
「ははっまだ移籍してきたばかりだからな、いいぜ、開けてやるよ」
「__ありがとう」
「おう!」
『ピピッ正しい番号が入力されました』
「じゃあなリン」
「__おう」
これでやっと事務室に入れる。誰かはわからないが、さっきの人に感謝だな。
事務室へ足を踏み入れると__
「おう、凛か」
「監督?」
「そうだ。サッカーするんだろ?それ、外していいぞ」
“それ”とは医療用眼帯のことだろう。
「わかった」
ゆっくりとそれを外すと__
「?」
いきなり色んな情報が入ってきて、少し混乱する。
――そんな状態で一つ爆弾が落とされた__
「お、冴も来たか」
「は!?」
そう、なぜか事務室に兄貴が現れたのだ。
「冴、凛の目は大丈夫なのか」
「嗚呼、医者が大丈夫だって」
何故か、俺抜きで話が進んでいる、怪我の当事者が話に入れないというなんとも奇妙な状況だ。
「じゃあ、俺はミシェルを叱ってくるからよろしくね、冴」
「嗚呼」
この状況で二人きりにするか普通!?このよくわからない状況で混乱している俺を嘲笑うかのごとく兄は告げた__
「なぁ凛。やっぱり、右目見えてなかったんだな」
――――――――――――――――――――――――
冴視点__
――俺には愛しい弟がいる
それこそ目に入れても痛くない、天使のような弟だ。
物心つく前から俺の後ろをついてくる可愛い弟で、そんな弟のことを俺はずっと大切に思っていた……いや、思っている。
そんな弟__凛は生まれつき右目がほとんど見えていなかった__ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎悔しかった、何度も考えた。何故、凛なのか、凛でなければならなかったのか。 神なんか信じちゃいないけど、このときばかりは願った。
――どうか凛の右目が見えるようになりますように__と
凛が初めてシュートをしたあの日、俺の世界は色づいた。
神なんか信じちゃいない、だって今も凛の右目は見えないままだ、でも、それでも、 この凛の才能は神からの贈り物であるとそう思う他なかった__
俺がスペインへ飛び立つ前日、再確認した俺たちの夢、”二人で世界一”と”俺が世界一のストライカーで凛が二番目”そんな子供の戯言のような夢が叶うとそう、信じていたんだ__あのときまでは……
「クソが、全然追いつけなかった」
スペインに来て俺は高く、分厚い壁にぶつかった。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
スペインにきてわかったことは、サッカーだけをやればいいというわけではないということだ
「Sae no parece sentirse bien, ¿estás bien?(冴あまり調子が良くなさそうだけど大丈夫?)」
「Lo siento, por favor dilo de nuevo.(すまん、もう一度言ってくれ)」
「Ah, eso es suficiente.(あーもういいや)」
「……はぁ」
まず苦労したのは言語だ。何を言われてもわからない、意思疎通ができない。 こんなこと俺は経験したことがなかった、少し英語ができれば騒がれる日本がバカバカしく感じた。
そしてサッカーについてだ。日本では体格がいいほうではあったが、やはり海外選手とくらべると劣っていた。それだけじゃない、日本はぬるかった。なにが天才サッカー少年だ、なにが日本の至宝だ、海外をよく知らないからそんなことが言えるんだ。今じゃ俺は、価値の無いただの平凡なストライカーだ。
足掻いても、藻掻いても、手も足も出ない状況が続き、悔しさで幾度となく枕を濡らしていた日々にとどめの一言が降り注いだ。
「Sae, por favor deja de ser delantero e intenta jugar en el mediocampo.(冴、FWを降りてくれ、代わりにMFをやってみよう)」
「__っ、」
これだけはしっかり聞き取れた__
この瞬間から俺にとっての地獄が始まった
どんなに睡眠時間を削って、練習しても、お前はストライカーにはなれないと突きつけられるばかりで、もうどうすればいいかわからなかった。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎否、わかっていて認めたくなかった、認められなかったのだ……
この日から毎回夢を見る。
大人の姿の俺と今の俺が話している夢だ。
「どうしたらいいか、本当はわかってんだろ早く認めちまえ」
「……… 」
「お前はどっちを選ぶんだ?みっともなく夢に縋って落ちぶれていくか、ポジションを変更して新しい夢を目指すか。」
「お前の長所は物事をフラットに考えられることだろ、なら簡単なはずだ、どちらがいいかなんてすぐわかる。」
「__わかってる、けどっ!__ 」
「じゃあ話は終わりだ」
「__っはぁはぁ」
いつも、いつも見る夢。ただの夢なんかに構ってられないけど、どこか向き合わなければいけない気がする夢。
気分が悪い。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎冴は、空気を入れ替えるために窓を開けた。
窓を開けると暗闇が拡がっていてまだ夜であることがわかる。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎しばらく眺めていると、一筋の光……流れ星が通った。
流れ星を見た瞬間、俺は気づいた__思い出した、………”凛”の存在に……
そうだ、凛の方がストライカーとして優れていたんじゃないのか、『ヤバイ方』『敵がパニクって壊れる方』なんて俺にはわからなかったじゃねぇか。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
思い出せ……いつも凛が”あたり”で俺が”はずれ”だったじゃねぇか。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
気づけ………凛は才能も運も全部持ってたんだよ。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
じゃあ、二人で世界一になるためには? 凛を世界一のストライカーにするには? だったら、俺は…………
――”世界一のミッドフィールダー”になる
……嗚呼、本当に、はずれ続きの人生だ
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あの雪の日に言ったことは本心ではない。でも必要なことだったから、後悔はしていない。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ 実際にU20日本代表戦で凛の才能が開花したわけで__でも傷つけた実感はあった。だから、兄として心苦しく思ったことはある、それでも凛が世界一のストライカーになるためには必要だと思ったから。 だからこそ俺は、凛に冷たく接したんだ__。
凛がプロ入りを果たした。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
すぐにでも、レ・アールに引き抜きたかったが、まずは慣れているフランスでプレーしてからの方がいいだろうと思って、俺は移籍シーズンまで待った。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ なのに、凛がなかなか移籍してこないから、連絡して少し強引に移籍させたんだ。
凛と共に練習するようになって、しばらく経った日、ミシェルがふざけて凛になにかを飛ばしたんだ、そしたら運悪く凛の左目に入ってしまった。まぁ自分で洗い流しに行くだろうと思い、様子を見ていたのだが、一向にその場から動こうとしないのだ。疑問に思いながらも腕を引いてやると、凛が動揺した。おかしいと思った、さっきからずっと居て、腕を引かれてるのも見えるはずなのに、何故動揺してるのか。思考を回してるうちに一つ気になったことがある。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎そういえば凛って幼少期……
――右目が見えずらかったんじゃないのか?……
まだ右目が見えないのか?………いやまさかな………普段は俺たちと変わらず生活しているし、……手術でもして見えるようになったんだろ。きっとそうだろう。
でもやっぱり怪しく思ったのは、凛とミシェルがぶつかったときだ、普通なら、よけれたはずなのにぶつかった。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎右側にいるミシェルが見えてなかったようだった、そのままミシェルが突っ込んできて、凛は倒れた、頭を打ったようで、凛は意識を失った__
肝が冷えた、冷や汗をかいた、凛はどうなってしまうのか、サッカーはどうなるのか。
____こんなときまでサッカーのことなんて本当にダメな兄貴だな__
幸い、医務室でこと足りるようだった、それでも俺は怖くて、凛が目覚めるまで、そばを離れられなかった。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎しばらくすると監督が様子を見に来て、俺に用事を伝えてから出ていった。
「ん、」
凛が目覚めた。俺は、これまでにないほど安堵した、よかった、本当によかった。凛が居なくなったら俺は耐えられない。それ程までに俺にとって、凛の存在は大きいものだった。
少し凛と会話をしてから、監督に頼まれた伝言を伝えた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎凛は素直に返事をし、ベッドから立ち上がった。凛を眺めていたら少し、様子がおかしいことに気づいた。
『ドンッ』
凛が壁にぶつかった。何故、壁があるのに直進したか疑問に思ったが、寝起きなので寝ぼけているんだろうと勝手に結論付けた。
凛が医務室から出ていった後、俺は凛の後ろをついて行った。どうしてかって?それは___︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ 俺が凛に伝えたのは、『凛は事務室へ来い』というものだ。でも実際、監督が俺に伝えたのは、『凛が目覚めたら、凛と冴は事務室へ来い』というものだった。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎そう、俺も呼ばれていたのだ。では何故凛にそのまま伝えなかったか、それは凛の右目について思うところがあったからだ。 このままついて行けば、凛が隠している”秘密”がわかる気がした。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎だから俺は、凛の後ろをついて行く、という選択をしたのだ___
「?」
なぜか凛の動きがふらふらしている、危ないが今助けに行ったら、凛に嘘をついた意味がなくなってしまう。もう少し様子をみよう。
凛が階段の前まで来た……が何故か止まらず、進んでいく。危ないと思ったときには、もう遅く____
『ドンッ』
凛はもう階段の下だった。すぐに声をかけようと思った。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
………でも、ここで辞めていいのか? 凛の右目が見えないことは、わかった。 だが、どこまで見えないのかなどは何もわからない。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎__幸い、階段はそこまで段数は無い。それに凛も大きな怪我などはしてないようだ。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
___もう少しだけ様子をみようか。ダメだと思ったら絶対助けるから。危なくなったらすぐに辞めるから。___だからもう少しだけ凛を理解したい。
こんなのは俺の我儘だろうか?
それでも、それでもいいから、もう凛を手離したくない……
――――――――――――――――――――――――
『ブーッ番号が違います』
ようやく事務室の前まで来れた。
――と思ったら暗証番号付きのタッチパネルで苦戦してるようだ。
さっき程から何回もパネルをタップしては、番号が合っていないことを表す、機械音が流れている。
そもそも、番号は分かるのだろうか。
そんな疑問を抱いたが、よく耳を澄ませば凛が何かを呟いてることが分かる。だがこの距離だと何を呟いているかは分からない。
少し近づき、もう一度耳を澄ましてみると凛は
「……1919」
と独り言のように呟いていた。
どうやら暗証番号は分かるようだ。 じゃあ何が問題だ、字が小さい?毎回配列が変わること?いくら考えても分からないので後で本人に聞くしかない。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎そんなことで思考を巡らせていると__
「__兄ちゃッ」
と震えてる声が聞こえた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎__間違えない、凛の声だ。 咄嗟に駆け寄ろうと思った。 だが、__辞めた。今呼ばれたのは俺ではない。凛が今呼んだのは、あの頃の凛を助けて、寄り添っていた、糸師冴を呼んだのだ。だから、心苦しいがここは見守ることにした。
しばらくすると、足音がこちらに向かって来てることがわかったので俺は物陰に隠れた。
「あ!リン」
こちらに向かって来ていたやつが凛に話かけた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ 確かあいつはチームメイトだったはずだ。名前は思い出せないが__
『ピピッ正しい番号が入力されました』
やっと事務室の扉が開いた音がした。どうやらさっきのやつが開けてくれたらしい。__ちょっとは感謝してやるか。でもやっぱり名前は思い出せない。
凛が事務室へ入っていったのを確認して、少し間を空けてから俺も事務室に入る。
丁度監督と凛が会話をしているようだったので声はかけずに凛の後ろに立った。
「お、冴も来たか」
ようやく俺の存在に気がついたようだ。
そもそも何故俺たちが呼び出されてるか。__それなりに見当は着くが、まだ説明されていないのでさっさと用件を話してほしい。俺はまだ凛に聞かなければならないことがあるのだ。
「冴、凛の目は大丈夫なのか」
「嗚呼、医者が大丈夫だって」
面倒臭いので適当に医者が言っていたことを伝えればいいだろう。
「じゃあ、俺はミシェルを叱ってくるからよろしくね、冴」
「嗚呼」
この場からそんなにすぐ居なくなるのなら何故俺たちを呼び出したのだろう。 でもまぁ、俺も監督に用はないので別にいいか。それに凛と話せるなら好都合だ。
監督が部屋から出て行った。真っ白な部屋に取り残された俺たち。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎――さて、本題に入ろうか。
「なぁ凛。やっぱり、右目見えてなかったんだな」
「は?なんでだよ」
口では強がっているが、やはり動揺しているように見える。
「そもそも右目が見えてなかったら、左目に医療用眼帯なんてつけて事務室まで来れないだろ…ッ」
「俺はずっと見てたんだ。だからお前が階段から落ちたことも、暗証番号がいれられなかったことも知ってる。」
「は……?な、んで」
否定しなかった。その瞬間、俺の疑いは確信に変わった。
俺のせいだ、俺が凛を否定したから。欠陥品なんて言ってしまったから。だから凛は誰にも頼らずいや……頼れず、ずっと独りで抱え込んできた︎。 ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎凛は右目のことで泣いたことはない。いつも大丈夫だよ!と、眩しい笑顔で答えてくれた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ それは、二つしか変わらない弟にとってどれだけの苦労が合っただろうか、どれだけの努力が必要だっただろうか。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎きっと俺には一生、分からない、__分かってあげられないのだろう__
――――――――――――――――――――――――
凛視点__
あぁ、バレてしまった。
『俺はずっと見てたんだ。だからお前が階段から落ちたことも、暗証番号がいれられなかったことも知ってる。』
見られてしまったのなら、もうどうしようもない。でも結局___
――俺は”目障り”な弟だ。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎だから兄ちゃんの目に映らないようにしなきゃいけない。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎――俺は”嘘つき”だ。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ずっと、見えてる、大丈夫って、嘘をつき続けてきた。俺は悪い子だ。 ――俺は”欠陥品”だ。 だから存在してはいけない。存在しているだけで誰かに__少なくとも兄ちゃんには迷惑をかけてしまう。俺はいらない子だ。
知ってた。最初から全部、全部知ってた。
だからちゃんと考えてた。もしバレてしまったときのこともちゃんと考えてた。 もしバレてしまったら、そのときは全て諦めて、俺の人生なんか終わらせてしまおうと、そう考えていた。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎これで終わりだ。だからもう___
――死んでしまおう。
「今まで鬱陶しかったよな。欠陥品に執着されて。ごめん兄ちゃん。でももう終わりだから。ちゃんと居なくなるから、大丈夫だよ……。」
「凛…?」
「何言ってるんだ……?」
「ん?兄ちゃんを俺から解放してあげるって話」
「それって……」
兄ちゃんがあまり嬉しそうじゃない。おかしいな__せっかく欠陥品から解放されるのに、なにが不満なんだ?
「あ!ちゃんと迷惑かけないように死ぬから安心してね……!」
「……は?」
――――――――――――――――――――――――
冴視点__
「あ!ちゃんと迷惑かけないように死ぬから安心してね……!」
その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
「……は?」
俺の大切な弟がいなくなる。そんなの俺には耐えられそうにない。衝撃で言葉が出てこない。でも凛を引き止めたかったから無理にでも口を開いた。
「……なぁ凛、聞いてくれ」
「なに?兄ちゃん」
「お前はもう頑張った、沢山頑張った、一人でずっと頑張ってきた。えらいぞ、凛」
「___っ!」
「どこにも居場所を作ってやれなくてごめん。」
「なん…で」
「あの日からお前は、笑わなくなった、泣かなくなった。いつも強くあろうとして、怒り以外の感情を押し殺して生きていたことを俺は知ってる。」
「お前が生まれたときから俺はお前を必要としていた。愛していた。できることなら抱きしめてやりたかった。」
「優しくしてやれなくてごめん。放っておいてごめん。傍にいてやれなくてごめん。話を聞いてあげられなくてごめんな。」
「今日まで、誰にも縋らず、誰にも頼らず、誰も信用しなかった、誰にも寄りかからなかった。………お前は強い。 」
「今まで辛かったよな、苦しかったよな。」
「そんな思いをしてきたお前を、上手く励ませるほど俺は立派じゃねぇ。」
「でも、もう我慢しないで欲しい。……俺を頼ってほしい。」
「こんなの信じられないかもしれねぇ。でもこれだけは言わせてくれ。」
「サッカーを続けてくれて、ありがとう」
「……兄ちゃ…んっ」
「よくやった。凄いぞ凛。」
「だから消えないでくれ」
「だめだよ、兄ちゃん。そんなこと言ったら勘違いしちゃうじゃん。……それに右目の見えない俺は欠陥品なんでしょ?」
「違う、欠陥品だなんて思ってない。」
「じゃあ、なんでいつも俺を認めてくれないの?褒めてくれないの?早く消えて欲しいんじゃないの?」
「それは、厳しくすれば凛はサッカーがもっと上手くなると思ったから……でも、そうじゃねぇならずっとそばにいて欲しい。 」
「……嘘吐き」
「嘘じゃねぇ」
「嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐きッ!」
「どうせ、そばにいて欲しいなんて思ってないくせに__ッ!」
「……凛」
「兄ちゃんはまた、俺を捨てるんだ………ッ 」
「……グスッどうせ、兄ちゃんは完璧じゃない俺なんかいらないんだろッ……糸師凛は完璧じゃなきゃいけないのにッ……!。 俺は欠陥品のガラクタだッ……そんな俺のことなんか!……兄ちゃんは必要としてないんだろッ……!」
凛を泣かせるつもりはなかった。 この子供がこれだけの苦労を背負っていたことに俺は気づけなかった。それどころか突き放してしまった。信用されなくて当然だ。
「……グスッ…ごめん、……ごめんなさいッ……! 」
謝らせたかったわけじゃなかった。 ただ教えて欲しかった。
「なぁ、凛。俺の夢、覚えてるか?」
「世界一のミッドフィールダーになって 世界一のストライカーに 世界一のパスを出すことだろ…… 」
「嗚呼。俺は正常なストライカーには平等だ」
「……知ってる。なんだよいきなり」
「弟だからとか関係ねぇ。俺の隣はいつでも世界一のストライカーのもんだ。」
「____ッ!」
「でも……!『糸師凛』が世界一のストライカーになることを……俺は信じてる。 だから俺の隣に立つのはいつでもお前だ。」
「……俺はそう思ってる。お前は違うのか? お前はこれからどうしたい。」
「俺は……消えなきゃいけない……」
「本当か?それが本心か?なら好きにしろ。俺は止めない。お前の人生は俺のもんじゃねぇしな。」
「……俺は__俺は本当は………
……兄ちゃんのそばにいたいッ……!」
ようやく伝えてくれた小さな思い。それでも凛にとっては、どれだけの勇気が必要だったのだろうか。
「ん、ならいつまでも一緒だ」
ハンデを背負いながらも、一人で戦ってきた弟を、これからは少しでも休ませてやりたい、幸せにしてやりたい。
「〜〜っ!良いの?俺、兄ちゃんのそばにいていいの?」
顔は涙でぐちゃぐちゃだけど、いつも威嚇するように細められている瞳が、こぼれそうな程に見開かれている。そして幼い頃のような眩しい笑顔を向けてくれている。 嗚呼、俺はこんな顔が見たかったんだ。たまらなく幸せだと言わんばかりの顔に、俺の口角が緩んだ気がした。
「嗚呼、凛は俺の自慢の弟だ。愛してる」
「〜〜っ!ありがとう、兄ちゃんッ!」
嗚呼、よかった。本当によかった。この笑顔が戻ってきてくれて本当によかった__
――――――――――――――――――――――――
凛視点__
結局、未だ俺の右目は見えないし、俺は欠陥品のままだ。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎でも、兄ちゃんが認めてくれたから、褒めてくれたから、そばにいていいって言ってくれたから。 だから、これから俺は今までより、もう少しだけ、前を向いて生きていこうと思う。
―――こんな俺を愛してくれてありがとう。兄ちゃん!