あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。スクショ、無断転載、晒し行為等はおやめください。
アイツとお付き合いを始めてしばらく経った。
しばらく経ったが、俺らの中で一度も話題になった事はなく、俺がどうしてもハッキリさせたい話をするべく恋人を居酒屋へ呼び出した。
のこのこやってきたりぃちょは「家じゃないのめずらしーね?」と言いながらちびちび酒を飲んでいる。
俺のハッキリさせたい事は居酒屋でする話じゃないが、酒の力を借りないと言える気がしない。いざ話し出そうとすると喉の奥が詰まったようにうまく言葉が出てこなくて焦る。それを無理矢理酒で誤魔化して口を開いた。
「あのさ」
「うん?」
「なんや、あのー…俺らも、付き合ってしばらくたったやん」
「そーだね」
「やから、さ。そろそろ、そういうことも考えていいのではと、思いマシテ…」
「…それって、」
つまり俺が言いたかったのはそろそろエロい事でもしませんかって話だ。とんでもない話題を出している自覚があったので、りぃちょの落ち着いた反応に拍子抜けする。りぃちょが話し出す事はなく、変わらず会話の主導権は俺にあったので続けて言い訳を始めてしまう。
「もちろんすぐにってわけじゃないで!?男同士で付き合った事ないし、えっ、そうやんな?少なくとも俺はそうなんやけど」
「ああ、初めてだよ。そんな心配しなくても」
「いざって時は準備もいるやろうし、心の準備もいると思うしな…」
「………」
なっがい沈黙に心臓が破れそうだ。居酒屋特有の喧騒しか聞こえない。流石にキショかったか?今からでも無かった事にできねぇかな。
「りぃちょ?」
「……、エロい話!?」
「はぁっ!?今更?」
「ごめんって!俺そこまで考えられてなかったわ!せんせーと一緒にいられるだけで嬉しかったし。いや、考えなきゃだよね」
「いや、ええけど…無理なら無理で構わんからな。プラトニックでも関係は変わらんよ」
「でも俺に聞いたって事は、せんせーは希望があるの?」
「…ん。俺は、抱きたい。ずっとりぃちょを抱きたいって思っとった」
正直にハッキリ伝えると「ぬぁ、…おぉ…」と奇声を発しながら顔を真っ赤にしている。
「あ、あくまで俺の考えやから。りぃちょが俺を抱きたいなら、覚悟決めるわ、うん」
「い、いやってわけじゃ…」
ゴニョゴニョ言い始めたりぃちょの顔は相変わらず真っ赤で流石に可哀想になってきた。しばらく見守っていると思い切ったように口を開く。
「あのさ、せんせーはなんで俺を抱きたいの?」
「なんで!?」
「俺が可愛いから?」
「いや、うん…それもある、けど」
不意に立ち上がったりぃちょは、隣に座って流れるように俺の左手を取った。
どうしたと聞こうとした瞬間に、りぃちょに自由を奪われた左手が彼の喉仏へ導かれた。人差し指がクッと食い込む感触がする。
「せんせー、大丈夫?俺、結構男だよ」
発言だけ切り取れば、抱かれるのは嫌だと言っているように聞こえる。でも不安そうに揺れる瞳を見れば、彼が何を心配しているのかなんてすぐに分かった。
「なぁ、俺別にお前が女に見えるから抱きたいわけじゃないで。そりゃあ恋人ですから?可愛いって思っとるけど、それは“女みたいで可愛い”じゃないから」
「本当に?声だってせんせーより低いし、女の子みたいに柔らかいところなんてほとんどないんだよ。……っ!?」
一生懸命動く唇が可愛く見えて無意識に口付けてしまった。ぬる、と舌を入れると微かな吐息と共に体が小刻みに震えている。どんな顔してるんやろ。気になって唇を離して顔を見るとそれはそれは真っ赤で目も潤んでいる。
「なんも心配せんでええよ。俺はお前がいいの」
「あの、さ」
「ん?」
「ここ、おみせだから、だめだとおもう…」
「あ」
血の気が引いた。TPOの3文字が頭を支配する。少なくとも俺らは顔を出してる立場で、個室だとしても危険じゃないわけがない。
「わるい…!お、お前の顔見てたらつい…」
「お、怒ってない!怒ってないから落ち着いて…!」
「あかんわ…ちょ、頭冷やしてくる…」
「おれ、怒ってないよ…?せんせーすきだよ…?」
見るからにテンパってるのに、気を遣われているのが分かって申し訳なくなった。あとは、きゅん、みたいなやつ。
「すまん…すぐ戻るわ」
外の空気を吸いたくて店の外に出る。ひんやりした空気が熱った頬を冷やして幾分か冷静になれた。
「男同士のやり方、勉強しよ…」
その頃個室に取り残されたりぃちょが、顔を真っ赤にしたまま呟いていたなんて知る由もなく。