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あれから数日たち、夏休みにはいった。
今私はキンキンにクーラーをつけた家の中で羽をのばしている。
クーラーからでる冷気はベタベタしている肌を撫でるようだ。
「しずくー?」
お母さんが1階から耳をつんざくような声で言う。
「なにー?」
私もお母さんに聞こえるように言う。
「今暇してるんだったら、ちょっと買い物行ってきてもらっていい?」
……めんどくさい。
正直な気持ちはこうだが、一応、それはお母さんに悪いので、仕方なく、行くことに決めた。
「分かったー」
そうと決まれば急いで服を着替える。
めんどくさいではあるけど、休日ずっとパジャマ姿でいるよりかマシか。
ラフな格好で、カバンを肩にかけ、1階におりる。
「お母さん、お金は?」
「机の上に置いてあるー」
お金をとり、玄関で靴に履き替える。
あ……そういえば
「お母さーん、お金余ったらさー本買っていい?」
「いいよー好きにしなー」
やった。少し口元が上がる。
「じゃ、行ってくるねー」
珍しく元気の良い声で、ドアノブに手をかけ、
「よろしくねー」
どういう声を後に家を出た。
久々の外はいやというほど暑苦しく、ずっと家に引きこもりがちだったせいか目がすごく痛い。
この蒸し暑さから解放されるため、頼まれごとと、本を買うことを急いでやろうと決めた。
いつもの通りを抜け、市場で頼まれたものをさっさと買った。
途中、いつも話しかけてくる魚屋のおじちゃんと出会ったが、めんどうくさかったので、適当に流した。
申し訳ないとは思いつつ、先を急いだ。
それからちょっと歩いた後、書店に行き、私がハマってる小説の続きがあったので買った。
こんなに歩いたら、やはり運動不足である私はすぐにバテた。
書店の中は涼しく、外に出るのは危険だと改めて感じさせた。
少し中で休んでから、家に帰ろうとした。
けど、ふと、あの公園のことを思い出した。
「たしか…この書店の近く…だ」
小さい声で呟く。
気がつけば私はあの公園の前まで来ていた。
馬鹿だ。
ほんとうに。
懐かしさと今更かという気持ちが入り交じり少し入るのに抵抗があったが、
今は懐かしさのほうの気持ちが勝ってしまった。
公園には暖かい日差しが所々に差している。
久しぶりにみた錆びたシーソーとブランコ。
ターザンロープや滑り台。
あの頃と全て同じだった。
色々と嬉しい気持ちで見渡していたら、あのベンチのことを思い出した。
私の大切な場所。
私が私でいれた場所。
どこだったかな…。
しばらく探すと、遊具から少し離れたところの木のそばにベンチがあったのを見つけた。
あれだ。
嬉しくって、少し歩くスピードが速くなる。
「え………」
思わず声が出てしまった。
「なんで、、いるの」
「岡田、」
ベンチには人がいた。
岡田がいた。
びっくりしすぎてカタコトになっしまった。
「よぉ、中野」
岡田は意外にも私が来たことに動じていないようだった。
まるで、私が来ることを予測していたかのようだった。
「久しぶりだな」
岡田と久しぶり…?
「いつも教室で喋ってる…じゃん、」
「ここで会うのは本当に久しぶりだ」
ここに、岡田と一緒にいた…?
そうだった…の?覚えてない。
でも、とりあえず話は続かなそうだったため、
「そう……」
とだけ言って、
岡田から1人分空けてベンチに座った。
座ったあと、私は土地にまっすぐと立つ目の前の木々たちを見つめていた。
懐かしい。
子供の頃、この景色が好きだった。
木は長寿だから、あまり変わらないこの景色が。
光が木の葉の隙間の所々から差している。
まるで天使でも降りてくるようだ…。
少し、心が落ち着いた。
いや、落ち着いたというより、元の心音に戻った。
規則の正しい心音のゆっくりとしたリズムを聴きながらしばらく眺める。
「その笑顔」
「は?」
びっくりした。急に話しかけてこないでほしい。
しかも、指摘されて初めて私が笑っていたことに気づいた。
なにか自分の笑う顔について言われると思ったから、すぐに元の顔に戻す。
「その笑顔がいい」
なに?どういうこと?
笑顔くらい、学校でいくらでもしてる。
「そんなの_」
「やっぱりお前はその笑顔が似合ってる」
「そんなのいつもしてるじゃん」と言うセリフが遮られてしまった。
でも、それのお返しというようなセリフがかえってきた。
わかんない。岡田が分かんない。
けど、私の笑顔を褒めてくれている?ことに少し恥ずかしくなる。
「私の笑顔……?」
「そ、お前の笑顔」
「笑顔くらい……私はいつでも」
言いたかったことが言えた。
だが、岡田からは少し予想外の答えがかえってきた。
「いつもの笑顔じゃない」
「今の笑顔は昔のお前と同じだ 」
昔の……私…_。
コイツは私の何を知ってるんだ?
何故かどことなく偉そうな感じがするのはなんで?
「その笑顔が俺は好き」
「そう…」
え?好き?
すきって、好き?
自然に岡田が言うから、気づくのに遅れてしまった。
気づいた途端、すごく顔が熱くなった。
別に自分の笑顔が好きって言われただけなのに。
なんで……顔が熱くなるの…。
岡田は別に恋愛対象として見てない。
ていうか、見れない。
私と岡田は一応幼なじみ。
昔から母同士の仲が良く、子供の頃はいつも遊んでいた。
だから、恋愛対象として一緒に居たことはない。
そんな考えをぐるぐると巡らせている間に、岡田が
「それだけ」
と、そっぽを向いてしまった。
怒ってる………?
なにか私悪いことしたっけ?
まぁいいや。別にこんなこと深く考えなくても。
それからは、岡田とは何も話さなかった。
ふと、辺りが淡いオレンジ色に染まっていることに気づいた。
お母さんに心配かけるのはいけない。
そう思い、
「もう、帰る」
そう言い、ベンチから立つ。
「俺も………帰るか」
少し岡田と喋ることに気まずさがあったが、岡田はそんなことなさそうだった。
「行くぞ」
あ、そうか。私と岡田は家が近いから、行く方向が同じなのか。
しまったな…。こっそり帰ればよかった。
そう考えても、遅いので、私は一緒に行くことにした。
「うん」
「行こう」
公園を出て、並木の道を歩く。
さっきいた書店を通り過ぎ、まっすぐな道を歩く。
空はもうそろそろで黒い色に染まりそうだった。
岡田といるはずだが、岡田からは何も言ってこず、岡田は空を眺めているだけだった。
だから、さっきから気になっていたことを聞いてみようと思った。
「あのさ」
「ん?」
私が話し出すと岡田はまっすぐ私に振り返って見てきた。
「お、岡田は、、さ」
「なんで、あの公園にいたの?」
数分の沈黙。
まずいことを聞いたな、と少し後悔したが、
「懐かしくなったから」
答えがかえってきた。
しかも、その答えが私が公園に入った理由と同じだった。
懐かしい…?
前に行ったことでもあるのだろうか。
「岡田も前に来たことあるんだ」
「あの公園」
そういうと、岡田は何故が目を見開き、おどろいたような顔をした。
「え、なに?」
「覚えてないのか?」
「?」
どういうこと?
岡田の言っていることが分からなくて、私は首を傾ける。
「いや、いい」
また、怒ってる…?
私と話し終わったあと、岡田はまた空を見つめてしまった。
私もつられて空を見るが、そこには水彩で描いたような綺麗な夜の空が広がっていた。
「おい、着いたぞ」
気づけば家に着いたらしい。
「ありがと」
岡田の家は私の家よりも前にある。
だから多分私の家までわざわざ送ってくれたのだろう。
それは分かったのに、そっけない返事になってしまう。
それから岡田は私を送った後すぐに帰った。
もう少し丁寧にお礼した方が良かったかもしれない、そう後悔しつつ、私は家に入った。
「お母さん、ただいまー」
「はい、おかえりなさいー」
「ちゃんと買ってきたよねー?」
「うん」
ドアの向こうでくつろいでるお母さんの大きな声が聞こえる。
買ってきた物を冷蔵庫に入れ、買った本を持ち自分の部屋にさっさと入る。
入った後すぐにベッドに倒れ込む。
少し、楽しかったな…
久々にそう思えた。