テラーノベル
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冷たい雨が、静かに港町へ降り続いていた。
セトは博士を抱きしめたまま、その場から動けなかった。
「……父さん。」
もう返事はない。
白衣は雨と血で濡れ、博士の眼鏡は足元へ転がっていた。
「セト……。」
ルルがそっと肩へ手を置く。
「……っ。」
その温もりに触れた瞬間、セトの中で張り詰めていた糸が切れた。
「どうして……。」
涙が止まらない。
「どうして、最後になって……。」
「父さんって呼べたのに……。」
嗚咽が雨音に溶けていく。
ルルは何も言わず、ただ隣にいた。
慰めの言葉よりも、隣にいてくれることの方が、今のセトには救いだった。
一方、その様子を見ていた理事会直属部隊の隊員たちも動きを止めていた。
博士が命を落とした。
それは彼らにとっても想定外だった。
「指揮官……。」
一人の若い隊員が震えた声で言う。
「ここまでやる必要があったんですか。」
「黙れ。」
指揮官は冷たく答えた。
「目的は実験体の回収だ。」
「障害は排除する。」
「それだけだ。」
神代はゆっくりと立ち上がる。
肩の傷から血が流れ続けていた。
「……もう、お前にはついていけない。」
隊員たちを見回す。
「お前たちも本当にこれが正しいと思うのか。」
沈黙。
誰も答えない。
「博士は確かに罪を犯した。」
「だが最後は命を懸けて償おうとした。」
「それを撃ち殺したお前たちに、人を裁く資格はない。」
隊員たちの視線が揺れる。
その言葉は、彼らの心にも届いていた。
「隊長……。」
先ほど神代に従っていた若い隊員が、一歩前へ出た。
「俺は……。」
震える手で銃を見つめる。
「研究所に入ったのは、人を救う研究がしたかったからです。」
ゆっくりと銃を地面へ置く。
「もう撃ちたくありません。」
その姿を見て、別の隊員も武器を下ろした。
カラン。
また一人。
そして、また一人。
港へ武器の落ちる音が響いていく。
「お、お前たち!」
指揮官が怒鳴る。
「命令違反だぞ!」
しかし返事はない。
十数人いた部隊の半数以上が、武器を捨てていた。
「裏切るのか!」
指揮官は拳銃を抜き、最も近くにいた隊員へ向けた。
「裏切り者は処分する!」
その瞬間だった。
「やめろ!!」
セトの叫びと同時に、身体が青い光に包まれる。
狼耳が大きく立ち、巨大な尻尾が膨らむ。
そして。
海から巨大な波が立ち上がった。
「なっ……!」
誰もが息を呑む。
海水がまるで意思を持つように渦を巻き、指揮官の前へ壁となって立ちはだかった。
「水が……動いてる?」
ルルも目を見開く。
セト自身も驚いていた。
「僕が……?」
怒りや悲しみが高まったことで、鮫の力がさらに目覚めたのだ。
波は指揮官の足元だけを飲み込み、そのまま地面へ叩きつけた。
拳銃が手から離れる。
「ぐあっ!」
セトは一歩前へ進む。
「もう……。」
涙を流しながら言う。
「誰も傷ついてほしくない。」
「お願いだから……終わりにして。」
その声は静かだった。
だが、誰よりも強かった。
その時。
遠くからサイレンが聞こえてきた。
パトカーだった。
「警察だ!」
「港町の住民から多数の通報が入っています!」
研究所の部隊は一斉にざわめく。
指揮官は舌打ちした。
「……撤退だ。」
「しかし!」
「今は引け!」
残った隊員たちは慌てて車へ乗り込む。
ヘリコプターも上昇し、闇の中へ消えていった。
港町に、ようやく静けさが戻る。
翌朝。
博士の葬儀は、港町の小さな教会で行われた。
町の人々は最初こそ戸惑った。
研究所の博士。
セトを苦しめた張本人。
それでも最後に命を懸けてセトを守ったことを知り、誰も反対はしなかった。
祭壇には、一枚の古い写真が飾られていた。
幼いセトを肩車する博士。
神代が持ってきた、あの写真だった。
セトは祭壇の前に立つ。
「父さん。」
まだその呼び方には慣れない。
「僕はまだ、全部は許せない。」
「でも。」
「最後に守ってくれて、ありがとう。」
白い花をそっと供える。
ルルも隣へ並んだ。
「安心してください。」
祭壇へ向かって頭を下げる。
「セトは俺が守ります。」
神代も静かに敬礼する。
「……あなたの罪は私が引き継がない。」
「研究所は、私の手で終わらせます。」
その瞳には迷いがなかった。
葬儀の帰り道。
海辺を歩くセトとルル。
夕焼けが海を赤く染めている。
「ルル。」
「ん?」
「僕。」
少し照れながら笑う。
「もっと強くなりたい。」
「みんなを守れるくらい。」
ルルも笑い返す。
「じゃあ、一緒に強くなろう。」
「一人じゃない。」
「うん。」
セトはゆっくり頷いた。
博士との別れは、深い悲しみを残した。
それでも、その悲しみは決して無駄ではなかった。
セトは「実験体No.0124」ではない。
父の想いを受け継ぎ、自分の意思で未来を歩く”セト”として生きることを選んだ。
しかし、港町の平和はまだ完全には戻っていない。
理事会は依然として存在し、セトの力を狙い続けている。
そして神代は、一通の極秘資料を手にしていた。
その表紙には、大きくこう記されている。
《PROJECT LEVIATHAN(プロジェクト・リヴァイアサン)》
神代は険しい表情で呟く。
「……まだ終わっていなかったのか。」
その資料には、セトとは別の実験体の名前が並んでいた。
物語は、新たな真実へと続いていく。
#しーちゃんの小説コンテスト
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(株)姫神V
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コメント
1件
うわああああ第14話泣いた😭💦 博士が撃たれて「父さん」って呼んだ瞬間から涙腺崩壊したよ…!最後に命懸けて守ったのに、切なすぎる。でもセトが波を操って立ち上がるシーン、めっちゃカッコよかった✨「誰も傷ついてほしくない」って涙ながらに言うとこ、心に響いた。ルルが「俺が守ります」って言うのもエモい…!神代が裏切り始めたのも熱いし、リヴァイアサンの伏線も気になる!次話も楽しみすぎるよ〜!🌟