森藤 すべて捏造 エロくないしグロくない
大森side
とある休みの日
特に理由もなく、ふらっと書店に寄った
読みたい本や、気になる本があった訳でもない
ただ寄りたくなった
興味のあるものに引かれて立ち寄った訳ではないため、まぁそれはぶらぶらと本棚を行ったり来たりするだけである
ふと、音楽に携わる系の本棚のコーナーに入ってみた
木管楽器、金管楽器、はたまた弦楽器、打楽器…世界的な有名アーティストの顔写真が表紙を飾る本がずらりと並び、アーティスト達の神々しさに圧巻されつつ、手を後ろに組みながら悠々と歩く
「ん〜っ!」
やけに籠った唸り声が聞こえ、なんだなんだと目線を声の出処へ移すと、ふわりとした雰囲気の金髪の男性がいた
髪が長めで、目がタレ目で…
「あの、どうされたんですか」
「んぇ、あ〜、本を探してて…フルートについての本なんですけど…」
そう顎に手を添えて考える素振りをさせ、本棚の端から端を目線で往復させる
「…木管楽器、あっちの棚ですよ」
「え!そうなんですか!」
「えぇ、こっち金管楽器です」
「へぇ…ありがとうございます!」
…これも何かの縁だろう
「良ければご一緒に探しましょうか?」
「いいんですか!」
にぱっと顔に太陽が照らされたような笑顔を浮かべ、目をキラキラとさせながら俺の目を見つめる
「ご迷惑じゃなければ…!」
「…フルートか」
「フルート、お好きなんですか?」
「…両親の影響なんです」
「母がオーケストラ好きで、フルート奏者の父に惚れたらしくて」
それから自分はフルートに勤しんでいるのだ、ということを教えてくれた
「…素敵ですね」
そう言った瞬間、彼の眉が動き表情がパッとしたような 気がした、少し困ったような笑い方で
木管楽器のコーナーに到着し、各々お目当ての本がありそうな所を探る
(あ、あれって)
そう思い見つけた本に手を伸ばすと、彼の指先と俺の指先とが触れた
「あっ、ごめんなさ…っ」
「あ、いぇ、こちらこそ」
お互い男相手に恥ずかしさを見せて目をそらすが、手に触れた感覚を残したままチリチリと頬が熱された
「本当にありがとうございます!」
そう髪を乱しながら深々と頭を下げる
「いえ、暇でしたしお気になさらず」
「…えっと、そういえば、お名前聞いてませんでしたね」
俺がそう言うとぽかんとした顔から一気に目を見開いて、たしかにっ!と大きな声で一言
「えと、藤澤涼架っていいます!涼しいに、架け橋の架で」
「へぇ、すてきな名前ですね」
「はい!自分でも気に入ってます!たまにすずかって呼ばれちゃうんですけどね」
へにゃっと困ったような笑顔で笑う、その表情に、すこし自分の胸が動いた
「…元貴っていいます。元に、貴重の貴で」
興味深そうににこにこと話を聞いてくれる彼は、とても無邪気そうに見える
今日買ったであろう本を3、4冊ほど抱きしめていて、1番手前にあった本に目を引かれた
「…あ」
「?」
「ぁ、いや、すみません」
「藤澤さんのその持ってる本、僕が前まで結構読み込んでた小説の作者さんと著作者が一緒みたいで…」
「へぇ、そうなんですね!」
すきな小説家の最新作だろう
その持ってる本のタイトルは漢字三文字、 “人と出会うことからすべてが始まる”という意味を持ち合わせたそのタイトルの言葉に、俺は惹かれたのだ
「良ければ読みますか?」
本をさっと差し出してくれ、首を傾げて反応を待ってくれた
「いや、申し訳ないですよっ」
「いいんです!お礼みたいなもんだし、しかも、僕もうこれ読んだことあって、だから内容知ってるんです」
だから、と本を俺の手に収めてくれて、にっこりと微笑まれた
「…明日」
「え?」
「明日、15時にここの書店で待ってます。
その時、返してください」
…明日も…会える…?
数年後
「あの時、涼ちゃんなんで明日返してって言ったの?」
「…」
「…明日また会いたい…って言えなくて…会う口実作っただけなんだよねぇ…」
「だから実はあの本読んだことなかったんだぁ〜…」
「…なんだそれ」
両手の人差し指をちょんちょんと合わせながら、あの時の困ったような笑い方で顔を赤く染める彼は、あの書店にいた時となんにも変わっていない
俺らの部屋の本棚には、あの時俺らを結んでくれた本が並んでる
現状、本のタイトル通りだな
本のタイトル『我逢人』
コメント
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ヤバい! この話で、漫画書きたくなっちゃった! いい話しすぎて・:*+.(( °ω° ))/.:+