テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
さくら
28
皆さんコメント嬉しいです♪
⚠︎ 注意 ⚠︎
・嘔吐表現あります
ではすたーと!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…..っ、」
翌日月島は、喉の奥に残る苦い後味と、頭を割るような鈍痛で目を覚ました。
身体が重い。節々が痛み、自分がどこにいるのかさえ、すぐには認識できないほど。
「….あ、蛍。起きたか。気分はどうだ?まだムカムカするか?」
すぐ隣から、聞き慣れない、けれどひどく距離の近い男性の声がした。
月島はその声に反応して視線を向けた瞬間、全身の血が凍りつくような感覚に襲われた
知らない男が、自分のすぐそばで、自分を覗き込んでいる。
黒髪で、目つきが鋭く、けれど馴れなれしい笑みを浮かべて。
「…..っ!?」
月島は、弾かれたようにベッドの端まで後ずさした。
そのまま勢い余って床に転げ落ちそうになり、シーツを必死に握りしめる。
「おっと、危ねー…..!蛍、大丈夫か!?」
男が心配そうに手を伸ばしてきた。
その「大きな手」が自分に触れようとするのを見た瞬間、月島は裏返った声で叫んだ。
「触らないでください!!….誰ですか、あなた。どうして僕の部屋に…..っ!」
月島の瞳は、恐怖で大きく見開かれていた。
昨日までの「戸惑い」とは違う、本能的な「恐怖」。
目の前にいる人物が、自分を傷つけるかもしれない侵入者であるかのように、ガタガタと震えながらクッションを盾にするように抱え込む。
「蛍…….俺だ、黒尾鉄朗だ。…..忘れたか?昨日の夜も、ずっと一緒に…..」
「黒尾….?知りません、そんな名前…..!出ていってください。警察、警察を呼びます……!」
月島は、サイドテーブルにあるはずのスマートフォンを探そうとするが、パニックで手が震え、グラスを床に叩き落としてしまいガシャン、という鋭い破砕音が響き、月島はさらに短く悲鳴を上げる。
黒尾さんは、伸ばしかけた手を空中で止めた。
昨夜、嘔吐を繰り返す月島の背中をさすり 、
「お前が百回忘れても、俺が百一回、初めましてを言ってやる」と誓ったばかりの自分。
けれど、今の月島の目に宿っているのは、頼の欠片もない、純粋な「恐怖心」だけ 。
「….悪かった。怖がらせるつもりはねーんだ」
黒尾さんはゆっくりと立ち上がり、月島を刺激しないよう、一歩、また一歩と距離を取った。
その顔には、今まで隠してきた絶望が、一瞬だけ剥き出しになって浮かんでいた。
「…..お前、俺が怖いか?」
「… あたり前です。知らない人が、朝起きたら隣にいるなんて…………帰ってください。お願いします、帰って……」
月島は膝を抱え、顔を埋めて震え続けた。
その姿は、かつての冷静沈着な「月島蛍」とはかけ離れた、傷ついた小動物のようだった。
黒尾さんはキッチンの方まで下がり、背中越しに言った。
「…..わかった。俺はあっちにいる。…..お前のノート、そこに置いておくから。落ち着いたら、読んでみてくれ。…..俺は、お前を傷つけたりしない。それだけは、信じてくれなくてもいいから、覚えておいてくれ」
黒尾さんの声は、掠れて震えていた。
リビングに一人取り残された月島は、男がいなくなった後もしばらく動けなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しばらくして、震える手でサイドテーブルにあったノートを手に取る。
そこには、自分の字で、そしてあの男の字で、交互に言葉が綴られていた、
『黒尾鉄朗。彼は僕を捨てない。彼が笑っていたら、信じていい。』
『蛍。何度忘れても、俺がまたお前に恋をするから。』
ノートの文字を読んでも、記憶の霧は晴れない。
けれど、ノートの端に黒尾さんが書き残した小さな走り書きを指先でなぞったとき。
月島の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「…..っ、うあ、…..あ」
突然ノートを握りしめていた月島の指が、不自然に強ばった。
先ほどまでの恐怖心を塗りつぶすほどの、強烈
な胃の痙攣。
喉の奥から熱い塊がせり上がり、月島は必死に口を押さえましたが、それは指の間から無慈悲に溢れ出した。
「…..げほっ!あ、…..っ、”ごほっ、ごほ
っ!!」
激しい嘔吐の音が、静かなリビングに響きます。
一度始まると、それは止まらなかった。胃の中はもう空っぽのはずなのに、新薬が神経を逆なでするせいで、苦い胆汁だけが度も何度も吐き出される。
「….おぇ、っ、!…たすけ、っ、…ぅ、…”ごほ、っ、うえ、っぇ、”…」
パニックと苦しみで、月島は自分が誰を呼んでいるのかも分からず、ただ縋るように声を上げた。
その瞬間、隣の部屋で息を潜めていた黒尾さんが、弾かれたように飛び出した。
「蛍!!」
「…..いや、っ”こないで……、”げほっ!!」
拒絶しようとしても、身体が言うことを聞かない。
月島は自分の吐瀉物で汚れながら、床に崩れ落ち、激しく咳き込んだ。呼吸がうまくできず、顔はどす黒く充血し、涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。
「いいから、俺を見る!息を吐け、蛍!吐き出せ!!」
黒尾さんは、月島が自分を怖がっていることなどお構いなしに、背後からその身体をカ一杯抱き留めた。
汚れが自分の服に付くことなんて、一秒も考えてなかった。
ただ、呼吸困難に陥りそうな月島の背中を、リズム良く、けれど力強く叩き続けてる。
「….う、っぉええ、っ…、”……あああぁっ、!」
内臓をぶちまけるような、激しい嘔吐。
月島は黒尾さんの腕の中で、魚のように跳ね、苦悶に身をよじった。
あまりの激しさに、月島の意識は朦朧とし、視界は真っ暗になる。
それでも黒尾さんは、月島が喉を詰まらせないよう、必死にその頭を支え、横を向かせ続けた。
「大丈夫だ、俺がここにいる。死なせねーよ。
全部出しちまえ、苦しいのは全部ここに置いて
け!!」
黒尾の叫びのような声が、遠のいていく月島の意識に微かに届く。
ようやく嘔吐の波が引き、月島がガタガタと震えながら、ぐったりと黒尾さんの胸に体重を預けた。
床は汚れ、部屋には鼻を突く酸っぱい臭いが充満してる。
かつて潔癖なまでに綺麗好きだった月島が今、最も見られたくなかった姿で、最も恐れていた男の腕の中にいた。
「….はぁ、っ…..はあ、っ…..っ、”.ぁ゛…..」
月島は、焦点の合わない目で黒尾さんを見上げた。
恐怖心よりも先に、あまりの衰弱に抗うことができない。
黒尾さんは、震える手で月島の口元を優しく拭い、汚れで濡れた髪をかき上げた。
「…..ごめん、”…なさい……汚い、のに……あなた…..誰、なの……なんで、こんな…..っ゛」
月島は、意識が混濁する中で涙を流した。
知らない男のはずなのに。
自分をこんなに汚い姿で抱きしめ、必死に名前を呼ぶこの男の腕が、どうしようもなく温かくて。
ふと、彼を新しいシーツの上に横たえた。
ぬるま湯で濡らしたタオルで、月島の頬や手を、優しく拭いていく。
沈黙が流れる中、月島は焦点の合わない瞳で、自分を介抱する男を見上げた。
男のシャツは、月島の吐瀉物でひどく汚れている。
それなのに、彼は自分の汚れなんて気にする様子もなく、ただ月島の顔色を伺っている。
月島は掠れた声で、重い口を開いた。
「…..なんで」
「ん?」
「なんで…..僕のこと、助けたんですか。…..あなた、誰かも分からない僕に、こんな、汚いことまでされて……」
月島の声は、情けなさと不感で震えていた。
記憶のない彼にとって、この献身はあまりにも異常で、理解しがたいものだった。自分を傷つけるどころか、泥の中から掬い上げるようなこの優しさが、怖かった。
黒尾さんは、タオルの動きを止めた。
そして、月島の震える手を、自分の両手で包み込むように握りしめた。
「なんで、か」
黒尾さんは少しだけ自嘲気味に笑い、それから、月島の瞳をまっすぐに見つめた。
「お前が俺のことを『他人』だと思っても。…..俺の中には、お前と笑い合ってた十数年が、一秒も欠けずに残ってるからだよ」
「……え、」
「お前は忘れていいんだ。 お前がどんなに俺を忘れても、拒絶しても、俺の記憶の中の『月島 蛍』は、世界で一番かっこよくて、賢くて、俺が惚れた男のままだ。…..だから、お前が自分のことを汚いとか、価値がないとか思っても、俺がそれを認めねーよ」
黒尾さんの指が、月島の頬に触れる 。
その指先は、月島の冷え切った肌とは対照的に、驚くほど熱かった。
「…..僕を、知ってるんですか」
「ああ。お前の嫌いな食べ物も、お前がバレーボールで見せた最高のブロックも、俺にだけ見せた泣き顔も。全部、ここに保存してある」
黒尾さんは自分の胸を指差した。その瞳には、月島を飲み込むほどの、深く、重い愛情が渦巻いていた。
「助ける理由なんて、それだけで十分だろ」
月島は、その言葉の意味を完全には理解できなかった。
けれど、この男が嘘をついていないことだけは、本能でわかった。
__「他人」のはずなのに。
この腕の温もりが、この声の響きが、心の奥底にある「記憶の残骸」を激しく揺さぶる。
月島は、男の服の裾を、力なく掴んだ。
「….ごめんなさい、っ”…..なまえ、っ、思い出せなくて、…”ごめんなさい、っ゛、…….」泣
「…謝んなよ。明日もまた、俺が自己紹介してやるから。….何度でも、お前の特別になりに来てやるよ」
黒尾さんはそう言って、月島の涙を指で拭った。
月島は、初めて見るはずのその笑顔に、どうしようもない安心感を覚えながら、深い眠りへと落ちていった。
【12月5日】
今日、僕はまた、自分の部屋にいる知らない男を怖がった。
でも、彼は僕が一番苦しいときに、僕を抱きしめてくれた。
名前は、黒尾鉄朗。
ノートには『大切な人』と書いてある。
今はまだ、心が追いつかないけれど。
この温かさだけは、忘れたくない____。
記憶が無くなるまで___××日??
今回めっちゃ頑張りました😖💓
もう少しで大会でほんとに緊張する😵💫❤️🔥
早め書けましたし、誤字等あると思いますがすみません😖🙏🏻
NEXT→気分🎶
コメント
3件
最高です泣泣泣
うわぁ…今回もすごく重かった…😖💔 月島が黒尾さんを「他人」として見てるの、胸がギュッてなった。特に「触らないでください」って拒絶するところ、本当に怖がってるのが伝わってきて苦しかった…。 でも、嘔吐で苦しむ月島を汚れも気にせず抱きしめて「死なせねーよ」って叫ぶ黒尾さん、かっこよすぎるよ…。記憶がなくても、身体が覚えてる温もりってあるんだね。 ノートの「何度忘れても、俺がまたお前に恋をするから」って言葉、ずっと心に残るよ。 おもちさん、今回もすごく丁寧に書けてた!誤字なんて気にならないくらい没入した〜。次話も楽しみにしてるね🌙🤍