「ねぇリト、今から海行こうよ」
「え?」
とある日の昼間。Oriens所属の宇佐美リトとDytica所属の星導ショウは、合同の任務終わり、詳細の報告をしに本部に向かいながらたわいもない雑談をしていた。
「この前任務終わりに散歩してたら猫を見つけて。着いてってたら森の中に猫が入ったんです。それで興味本位で入ってみたら抜けたところに海があったんですよ。綺麗だったからリトにも見せたくて。」
「あのなぁ……俺に教えてくれるのは嬉しいけど、今秋だぞ。季節の変わり目だし。こんな時期に海なんて風邪ひいちゃうんじゃないの。」
太陽のせいで溶けてしまいそうなほど暑い日が続く夏をようやく抜けたと思ったら、すぐに肌寒さを感じる秋へと豹変してしまった。
「……バカは風邪ひかないでしょ」
「え?俺の事バカにしてる?」
はは、なんて愛想笑いをしながら星導は宇佐美の手首を掴んで入口のある方向へと歩いていった。
話をそらされたことに不服に思いながらも、宇佐美はされるがままに星導について行った。
海までの道のりは、それはもう酷かった。道の入口は小学生くらいの子供がやっと通れそうな位小さかった。
星導は体制を低くして軽々と入ってしまったが、普通の成人男性よりも身体が大きい宇佐美は入るのに随分と苦労した。
宇佐美は入口を抜けたら歩けるほどの道が広がってると考えたが、すぐにその考えが甘いことが分かった。
地面は土や枝などで道が分からなくなっている上、掻き分けないと前に進めないほど葉っぱが生い茂っている。引き笑いを浮かべる宇佐美とは裏腹に、星導はそんなことを気にする様子もなくどんどんと前に進んで行く。
「ねぇるべ、俺狭いところ無理なんだけど?!」
「俺について来れば大丈夫。あ、はぐれたら多分一生ここから出れない」
「無理だって!!!」
こんなことなら着いてくるんじゃなかった、と宇佐美は思った。しかしここまで来た以上引き返す訳にも行かず、死に物狂いで星導に着いていく。
随分と進んだだろうか。宇佐美はもうへろへろだ。
「ねぇまだつかない?」
「あ、そろそろ着きます」
「!!!」
前方に葉っぱの隙間から外のあかりが差しているのが見受けられる。最後の葉っぱを掻き分けたら、そこには息を飲むような光景が広がっていた。
エメラルドグリーン色がずっと続いている海。僅かに鼻をくすぐる潮の匂い。太陽に照らされて宝石のようにキラキラと輝く水面。
それらは宇佐美の目を奪うには十分だった。
宇佐美と星導以外誰もいないのか、波のさざめく音以外は何も聞こえてこない。それがより一層宇佐美を惹き込んだ。
言葉が出ない。宇佐美は今自分の目の前に広がる光景にとても衝撃を受けていた。呆然と海の前に立ち尽くしていた。
「ぅわ゛!冷た!」
「リト喋らなすぎ」
随分と経ったのだろう。1人で立ちつくしている宇佐美に痺れを切らしたのか、星導が宇佐美の顔に水をかけた。
「お前……やったな!!!」
宇佐美はにぃっと笑って星導に水をかけた。
だがその水は星導の顔面にもろにかかってしまった。
「リト?」
「まってごめん!!……っておい変身するのは違うだろ!!!」
それが星導の心に火をつけた。水の掛け合いはだんだんエスカレートしていき、秋の肌寒さなんて忘れるほど2人は大騒ぎした。大の大人が2人して大はしゃぎしている光景は誰からしても異景だろう。そしてお互いびしょ濡れになった頃、水の掛け合いは終止符を打った。
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「は~疲れた~」
「もう、リトのせいで俺びしょびしょなんだけど」
「俺もだよwwまぁお互い様ってことで?」
空が茜色に染ってきた頃、宇佐美と星導は疲れ果てて浜辺に座っていた。茜色に照らされている水面は、昼間とはまた違った宝石のように輝いている。
「楽しかったわ」
「……だね」
「俺こういうことしたことなかったから、新鮮だった。ありがとね、るべ。」
「いいよ」
今日の出来事は、宇佐美の思い出の中でも、より一層に記憶に残ってるらしい。だからこそ、誰にも邪魔をされたくなかったのだろうか、宇佐美は言った。
「この海、俺とるべだけの秘密にしちゃダメかな?」
「え?」
「俺たちだけが知っていたい、ダメ?」
「……えwww」
「おぉい!!!そこ!!笑うな!!」
ったく、そんな笑うことかよ、なんて言いながら宇佐美は立ち上がり来た道へと向かって歩いていく。それを追いかけるように星導も続いた。
「あー笑った、リトがそんなこと言うなんて思いもしなかった」
「だって2人だけの秘密って憧れるじゃん?」
帰り道、夕日に照らされる2人の背中はいつもよりもキラキラと輝いているように見えた。
次の日、2人が風邪を引いて同期にしこたま怒られるのはまた別お話。
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