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「同性婚 認められる第1歩か!?」
大大と書き出された記事を飾る写真は2人の男性。背高な中性的な男性と彼よりかは少し低い男性が並んで写っていた。背の低い男性はカメラ目線でしっかりと微笑んで居たが隣に立つ背高の男性はカメラからは目を逸らしぎこちなく笑っていた。
rt「なぁ、ガッチさん、この記事気になると思わん?」
gt「んー……確かに、こんなに前から同性婚は謳われていたんだね。」
rt「俺ちょっとこの記事気になるわぁ…。」
gt「奇遇だね、俺も気になる。」
rt「書庫行ってみる?」
gt「いいね。」
* * *
gt「久しぶりだね、フジ。」
fj「ん、あらあら、お二人さん。」
rt「久しぶりやな、フジくん。」
fj「お久しぶり、書庫に何か用?」
rt「この記事についてやねんけど…、なんかあるかなーって。」
fj「……、へぇ。ちょっと待ってね。調べてみるわ。」
目がギリギリ伺えない程の暗いレンズが嵌められた眼鏡を掛けてマスクをするその姿は遠くから見れば不審者。でもまぁ…ただの良い奴ではあるので密かにモテてたりもするこの男はレトルト、ガッチマンの同僚且つ友人であるフジ。そんな彼は今2人に唐突に押し掛けられて困惑するのは当たり前なのだがそんな様子を一切表に見せず冷静に状況を把握し、彼らの求めるものを探し始めてくれた。こういう所がモテるんだろうね。なんて目配せして会話していればフジが顔を上げる。
fj「…あったよ。ここの書庫には少ししかないけど…地下に行けばもう少しあるかも。」
rt「じゃあ、とりあえずここにあるもん見せてや、」
fj「りょーかい。ちょっと待ってて。」
gt「幾らでも待つよ。」
そう言ってデスクから立ち上がったフジはコンパス並に長い足を使ってスタスタと書庫に入っていった。
数分すればフジは手紙の束──と言っても2枚ほどだったが──をもって現れた。
fj「これがソレ。その記事の著者と一致する情報があるんだよね。」
rt「お!!助かるー!」
fj「ところでさ、レトさん、ガッチさん。そのプロジェクト、俺も参加していい?事の顛末が気になるんだ。」
rt「ほう??まぁ、全然いいよ。書庫係としてこれからも手伝ってもらうだろうし。」
fj「勿論、働きますよー。」
そうして加わったフジが隣につきながら手紙を開けた。
__親愛なるキヨ。
やっぱり、キヨは自分の幸せよりも周りを気にしてる。そんな社会的な幸せは捨てよう。俺と二人で逃げよう。何処か遠いところ…それこそキヨの故郷でもいい。取り敢えず俺と全てをやり直そう。5月12日 東京駅 19:00。俺の未来はキヨが握ってる。俺とならきっと幸せになれる。今までよりも、これからも。キヨを待ってる。
︎ ︎︎︎︎︎ ︎︎︎︎︎ 愛を込めて。
︎ ︎︎︎︎︎︎ ︎︎︎︎︎ あなただけのU__
rt「…なにこれ……駆け落ち?」
gt「読んでみるからにそうだろうね。」
fj「これは…興味深いな。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
us「こんにちわ。」
ky「初めまして。貴方が…?」
us「あぁ、はい。取材に来た牛沢と言います。」
ky「そうですか。牛沢さん、ですね。夫は今遅れていて…」
us「…そのようですね。気にしていませんので大丈夫ですよ」
にっこりと笑って見せた牛沢は背高の男性に手を差し出した。少し目を丸めたその男性はおずおずと手を伸ばし握手を交わした。
us「お名前を伺っても?」
ky「…清川、です。」
us「清川さん、お願いしますね。」
ky「……はい。」
us「旦那様とはどんな感じですか?」
ky「…良好です。彼は常に向上心があって、冷静に物事を対処出来て……」
us「おや?それを記事に書けと??」
牛沢は悪戯に笑ってみせると清川は目を泳がせた。
ky「私ができることは…これくらいなので。」
us「だから旦那様を甘やかす、、と?」
ky「まぁ、はい」
us「甘やかすばかりが清川さんの仕事では無いと思いますよ。」
ky「……」
mb「あぁ、君が!」
us「どうも、ミスター。牛沢と申します。」
mb「あぁ、今回は宜しく頼むよ。」
us「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。」
牛沢は背高の男性のパートナーと握手を交わせば彼に連れられ清川を置いて室内へと入っていった。清川は独り、広い庭の陽当たりの良い椅子に深く腰をかけ、先程の言葉を反芻していた。
──甘やかすばかりが清川さんの仕事ではないと思いますよ。
ky「……俺の…仕事……。」
* * *
mb「今回はどうもありがとう。牛沢さん。」
us「こちらこそ、凄くいいお話が聞けて充実した時間を過ごせました。」
mb「これまた口が上手でね、」
us「いえいえ、事実ですよ。」
面白みのない食事会。
清川は呆れ顔のまま食材に目を落としていた。向かいに座る夫の痛い視線を誤魔化すように水を口に含む。
─まぁ、この場には夫と牛沢のみでは無いのが幸いだが。
そう思ったところで婦人が口を開いた。
mb「ところで牛沢さんは色々なところに旅に出ていると、?」
us「えぇ、まだ日本に留まってはいますが…」
mb「それでも凄いわ、今までは何処に行っていたの?」
us「3月から先月までは東北や北海道の方へ」
mb「北海道か、彼処はつまらんな。」
ky「……」
清川の生まれの地である北海道につまらないと言い放った夫を鋭い目で見る。それを感じ取った夫は眉を上げる。
ky「私が思うに北海道も素敵だと思──」
mb「北海道はまだしも東北地方なんて公共交通機関がなっていない。それに味だって濃いのばかりだ。」
us「その味にも趣深いものがありますよ。」
清川が口を開くも呆気なく遮られてしまった代わりに牛沢が言い返した。夫は片眉をはね上げ牛沢を見るも牛沢は肩を竦めるのみで。清川は思わず頬を緩ませた。
mb「あらあら、こんな話はやっぱり辞めましょう、ご飯が美味しくなくなるわ。」
婦人が慌てたように口を開けば牛沢はそうだな、と言わんばかりに頷いて見せた。夫は何処か気に食わない様子だったがグラスを勢いよく傾けては別の話を繰り出した。
mb「今回の食事、如何でしたか?」
食事会で話しかけて来た婦人が酔い覚ましの為庭で星空を見上げていたところに話し掛けてきた。牛沢はひんやりとした空気を肺いっぱいに吸い込めばぽやぽやした頭を取り直す。
us「悪く無かったです。」
にっこり。
人好きのする笑顔を婦人に向ければ婦人は少し頬を染める。
mb「ここの旦那様、素敵だったでしょう?」
us「……そう、ですかね。」
mb「え?」
us「私は、色々な地域を回ってきましたが何処も素敵な場所ばかりでした。でも、ああやって馬鹿にするような発言をしたあの人をとてもじゃないですが素敵とは言えません。それこそ…頭の中が空っぽだ。」
はぁ。と大きくため息をついては肩を竦めた。
ky「___悪かったですね。私の夫の頭が空っぽで。」
us「……」
牛沢を見下ろすように立っているのは紛れもない清川で。牛沢はピタッと固まってしまった。
─どうして彼は夫を庇うんだ?
そんな疑問で頭が埋めつくされていれば清川は追い打ちをかけるように口を開く。
ky「酔ってるのですか?早くお眠りになられた方が良いのでは?」
us「………そう、ですね。どうやらまだ酔っているようです。」
ky「早く、お眠りに、なられては??」
目と口で圧を掛けてこられては手も足も出ない訳で。視線を足元に彷徨かせるも打開策が編み出せる訳もなく静かに頷いた牛沢は婦人に連れられて部屋へと戻った。
* * *
ky「天気が良くてよかった。」
mb「きっと素敵な気晴らしになりますわね。」
ky「うん、そうだといいな。」
清川は緩く笑えば4月の陽の光を見上げた。視界の端で動いた影に視線を落とせば緩まっていた頬もぴしりと引き攣る。
ky「…何か御用が?___牛沢さん。」
us「あぁ、出会えてよかった。これを…」
そう言って差し出されたのは一通の手紙。清川は思わず首を傾げる。
ky「…この手紙は?」
us「謝罪です。……ほら、昨日の…。」
ky「じゃあ、読み上げてください。」
us「…─」
ky「謝罪なら、読み上げれますよね?」
清川はじっと牛沢を見詰めた。牛沢は少しだけ視線を右上へと持っていけば、──渋々と言ったところか──頷き、手紙を開いた。
「──清川様。
先日の私のご無礼をお許しください。酒に酔って…と言い訳をしたいところですが、実の所酒の酔いは覚めてました。私が思ったことをそのまま口に出してしまったことを深くお詫び申し上げます。
︎ ︎︎︎︎︎ 酒に溺れた牛沢__」
ky「……っふは、」
読み上げた後、肩を竦めて少しおどけて見せた牛沢に清川は思わず吹き出す。なんなんだこの手紙。そんな馬鹿げた思いに耐えきれなくなった清川は「わかった、今回だけだからね。」なんて言って牛沢を許すと、
ky「ほら、早く車に乗って。酒に溺れた人を放っては置けないから。」
なんて車の扉を開けてやった。牛沢は少しの間キョトン、とした顔を浮かべていたが軈て頬を緩ませ
us「お言葉に甘えて。」
と車に乗り込んだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
gt「おはよ、フジ。」
rt「おはよぉ、フジくん。2通目、読もうや。」
fj「ノリノリだね、いいよ。今開ける。」
フジは好奇心旺盛な2人に笑いを零せば手紙の封筒を開けた。
__親愛なるキヨ。
あの日からキヨの事が忘れられない。俺はずっとキヨに恋焦がれてるよ。こんな想い、初めてだ。もし良かったら、また食事を共にしたい。
︎ ︎︎︎︎︎ あなただけのうっしー__
fj「……これは、1通目よりかは前の時間軸かな?」
gt「きっとそうだね」
rt「俺もそう思う。」
うんうん、と3人して頷けば手紙を閉じる。
gt「…これで終わり……か。」
rt「地下は?行けそう?」
fj「特別許可が必要なんだよね」
rt「ウッワ……」
fj「……ま、できることはしてみる。」
rt「さっすがフジくん!!ガッチさんが叙々苑奢ってくれるって!」
gt「えちょ、レトさん!?!?」
fj「まじぃ〜?ガッチさんゴチでーす!!」
gt「ちょっと待って!!?!?!!?!????!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
__親愛なるうっしー
うっしーに会ってから世界が変わった。それこそ、色のない世界に色がついたように、それもその色をつけてくれてるのは紛れもないうっしーなわけで。俺はもううっしーしか見れないかも知れないよ。愛してる。
俺もうっしーと食事したいな、空いてる日…また教えて。
︎ ︎︎︎︎︎ あなただけのK__
__あぁ、よかった、返事が届いて嬉しい限りだよ。キヨの世界に色を付けれてよかった。キヨの笑顔が俺の胸に花を咲かせてくれるから、もっと笑っていて欲しいな。空いてる日なんていくらでもある。明日も明後日も、その次の日も。何時でもキヨに会いに行くから。__
* * *
ky「うっしー。」
us「キヨ、来てくれてよかった。」
ky「流石にすっぽかしたりはしないよ。」
us「……ドタキャンは有り得ると?」
ky「…さぁ……」
油の切れたブリキ人形のようにぎこちなく首を動かし顔を逸らせば口端を引き攣らせて曖昧な返事をするも牛沢は片眉を跳ね上げるだけで何も言葉を投げて来なかった。それを良しとしてキヨは早く行こうと手を引くと、牛沢は軽く笑ってその大きくも小さい背中に着いて行った。
* * *
us「今日はどうもありがとう。退屈だと思った1日がこれまでに無いくらい最高な日になったよ。」
ky「それは俺も同じだっての。」
us「そっか、いやそりゃそうだな。」
ky「……うっしー何言ってんの、浮かれすぎじゃない?」
us「…うん、俺今すっげぇ浮かれてる。サイコーだわ。」
ky「もう、早く頭冷やして。」
us「わかったわかった。じゃあ、また。」
そう言って車から離れ、ホテルへと戻っていく牛沢の背中を見送ればキヨは車を発車させた。
* * *
──コンコン
泊まっていたホテルの扉が叩かれる。何事だと扉を開ければ_
ky「…よ。」
us「キヨ?どうした??」
ky「会いに来ただけ、ほら…今日も会う予定だったし。」
us「まぁ…そうだけど。」
ky「エントランスで待っとこうか?」
us「んーん、ここに居ていいよ。でもヒゲ剃るから待ってて。」
ky「ん、わかった。」
のんびり流れてる音楽を聞いたキヨは静かに目を閉じる。
──And you don’t hold back
──So I won’t hold back
──And you don’t look back
──So I won’t look back
ky「…ねぇ、うっしー。」
us「んー?」
ヒゲを剃っているからか呑気な返事を返す牛沢に目を細めるキヨは何処か悲しげであった。
ky「あのさ」
us「ん、どした?」
ヒゲを剃り終えた牛沢が改めてこちらを向いた。
ky「俺、大阪の方に行くかも。」
us「……」
ky「帰っては…来ないから。」
us「お前は?」
ky「え?」
us「キヨは。どうしたいの?」
ky「…えっ……と」
us「お前の意見を尊重したい。」
キヨは視線を落とし彷徨かせれば軈てゆっくりと視線を持ち上げ牛沢を捉える。そのまま1歩近付けばそうっと牛沢の頬に手を当てがう。その手を逃すまいと牛沢の大きい手で…両手で包み込めばその手に擦り寄った。キヨは徐に顔を近付けキスをしようと───
us「…」
牛沢は顎を引きそのキスを拒んだ。キヨは目を丸め牛沢を捉えたはずの視線を外し眉を下げ視線を右往左往させる。
ky「俺っ…てば……、どーしちゃったんだろ。」
us「キヨ…」
キヨは慌てて部屋を出れば廊下をスタスタと歩いて行く。牛沢は慌てて後を追い、名前を呼ぶも振り返ることなく背中が消えた。牛沢ははくはくと口を動かした後重い溜息を吐き出し部屋に身を引いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
fj「ここで一旦記事が止まってる。」
gt「このデータは何なんだ??」
rt「ねぇ、これみて。伸縮自在のポケットだってさ。色はピンクと黄色。誰が買うの??コレ。」
gt「斬新すぎるな、俺は買わない。」
rt「俺もさすがに買わんわ。」
fj「俺も買わないかな。」
地下倉庫にて。
他愛のない会話をしていればガッチマンが声を上げた。
gt「これ!手紙じゃない!?」
rt「お!!!ガッチさん流石!!!!」
fj「開けて開けて!」
__親愛なるK
昨日、キスを拒んでごめん。あの時まだ踏ん切りが付かなくて、本当にキヨに手を出していいのか、キヨが後悔しないかずっと悩んでた。でも俺はやっぱりお前の隣に立ってる人に吐き気を催す程嫉妬してる。キヨにもっと触れたいし、抱き締めたい。あの時の答え合わせをしよう。今日 丸の内北口 14:00。
︎ ︎︎︎︎︎ あなただけのU__
gt「これは……、」
fj「彼らをグッと引き寄せた理由だろうね。」
rt「ロマンチックやな…」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
丸の内北口 14:00
ky「……」
us「──キヨ…!!」
その時、彼らは初めてキスをした。火傷してしまうくらい熱いキスを__。それと同時にキヨは禁忌を犯した。簡単に言えば不貞行為である。夫を持ちながらもキヨは別の男を愛してしまった。そう、愛してしまったのだ。もうどうしようもないくらい好きになってしまったキヨは衝動のまま牛沢と会い、牛沢とハグをし、牛沢とキスをした。
us「来てくれてありがとう、キヨに伝えたいこともあったんだ。」
ky「うん、何?」
us「俺と、俺と二人で逃げよう。」
ky「……、」
us「何処かは決めてない。でも、二人なら何処へだって行ける。」
ky「待って、まって。俺に地位や家族を捨てろって言うの?」
us「…キヨ、お前は何を望んでる??」
ky「……は?」
us「お前は自分のことを知らなさすぎる。お前は自分の幸せを求めてるんだよ。それなのにその気持ちに蓋をするわ旦那に尽くすわ…。お前がお前の首を絞めてるって気付いてない訳??」
ky「……、わ、か…っ、てる…」
us「…それなら、考えるだけでもしといて。」
ky「……うん。」
キヨは最後に牛沢にハグをすれば気まづ気に帰って行く。牛沢はただその場でその背中を眺めていた。どうすることも出来ないのだ。確かにキヨの家的にいい所と付き合い結婚するのが当たり前だと思う。だが、そんな表面上の結婚なんて本当にキヨは幸せなのか?
_牛沢は知っていた。無理に行為を求められ身体を貪られていることを。キヨは心を壊し従順なお人形になり掛けているが牛沢と出会い少し…いや、かなり感情が戻っていると思う。それは牛沢にとっても嬉しかった。牛沢と見つけていく感情はどれもキヨにとって”初めて”なのだから。ハジメテが無理だとしても感情を見付けて愉しげに笑うキヨが見れるだけで十分だった。
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gt「ロマンチックな手紙だね。」
fj「こんなん書かれたら俺一瞬で惚れちゃうよ。」
rt「ちょろすぎるな、フジくん。」
fj「そんなことないと思うけどナ……」
パソコンに向かい合い記事のデータやらなんやらを調べていたフジはふと顔を上げ二人を見ては愉しげに口角を上げた。
fj「見付けた。うっしーと呼ばれた人物は此処で働いてたらしいよ。」
rt「お?」
gt「んん???」
fj「これ、見て。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
キヨは頭を抱えていた。その元凶となったのは牛沢から届いた手紙である。前回の話を本気にしているらしい牛沢はその旨の手紙を送ってきた。何より、牛沢自体も北海道に用があるらしくしばらく帰ってこないとの事は前回の逢瀬で知らされていたのもあるためキヨはどうしても彼と行きたかったのだ。剰えキヨも自分の生き方を改めようと思っていた訳で。
__親愛なるキヨ。
やっぱり、キヨは自分の幸せよりも周りを気にしてる。そんな社会的な幸せは捨てよう。俺と二人で逃げよう。何処か遠いところ…それこそキヨの故郷でもいい。取り敢えず俺と全てをやり直そう。5月12日 東京駅 19:00。俺の未来はキヨが握ってる。俺とならきっと幸せになれる。今までよりも、これからも。キヨを待ってる。
︎ ︎︎︎︎︎︎ ︎︎︎︎︎ 愛を込めて。
︎ ︎︎︎︎︎ ︎︎︎︎︎ あなただけのU__
5月12日と言われれば今日であるのだが…キヨはただ今夫に捕まっていた。
mb「キヨ、何を考えている?」
ky「……いいえ、何も考えておりません。」
mb「…そうか。」
眉を顰める夫は最近キヨを半監視状態になっていた。
ky「お父さん、少し席を外しても良いですか?」
mb「…構わないが……何処へ行く?」
ky「買い出しです。」
mb「……いいだろう。」
夫から怪しみながらも許可を貰ったので有難く外へ行かせてもらう。キヨは少しの荷物を持ち走った。愛しい人の元へ__。
* * *
ky「タクシー!」
タクシーを呼んだとて止まることはまぁ少ない。キヨは重い溜息を吐けば東京駅まで走る。時刻は只今18:15。間に合うか間に合わないか分からないところでキヨはそれはそれは焦っていた。彼と行きたい、彼と過ごしたい。その想いが強い現れなのだろう。
ky「タクシー!!」
藁にもすがる思いでタクシーを呼び止めればキヨは一目散に乗り込み”東京駅へ!!”と声を上げる。タクシーは確かに出発すればキヨは取り敢えずは一安心だと胸を撫で下ろした。
* * *
18:57__。
東京駅にキヨの姿は無かった。牛沢には半分分かっていたことなので仕方が無いと新幹線に乗り込めば、重い重い息を吐き出した。
分かってはいるけれど悲しかったのだ。来れないなら来れないなりになにか手紙が届くと思っていたがそんなことも無く現れること拒んだ。牛沢自体を拒絶されたのだ。牛沢は柄にもなく少し涙を流したが直ぐに記事の制作に取り掛かり気を紛らわせた。
“ 同性婚 認められる第1歩か │ ”
打ち込む手が止まる。PC内のファイルには見たくもない写真が詰まっているのが理由だろう。手持ち無沙汰に始めたが、結果自分の心を更に抉った牛沢は今日何度目かの溜息を吐き、PCを閉じては目を瞑った。
* * *
mb「夫に隠れてこそこそと…!」
ky「嫌!やめて!!!」
mb「黙れ!」
東京駅に着いたところを夫に付けられていたらしく、後ろからホールドされては車に連れ込まれたキヨは必死に抵抗をしていた。
mb「相手は誰だ?あの記者か??なぁ!」
ky「ッ…!」
ガンッ、と車のシートに押し付けられては身動きが取れなくなる。仕方なく目で睨みつけながら悪態を着いていれば夫の手が頬に滑った。
mb「なぁ…俺だってこんなことしたくないんだよ。」
ky「じゃあ辞めてください。」
mb「分かってくれない悪い子が居るもんでな?」
ky「…キッショ。」
mb「よく鳴く子犬だな。」
キヨの首筋に顔を埋められては地獄の時間が始まった。
* * *
mb「…さぁ、帰ろう」
ky「……」
乱された服に飛び散る白濁。汗に濡れた髪が鬱陶しくて乱暴に掻き上げる。キヨは夫の言うことを無視して顔を逸らした。未だに整わない呼吸には夫へのストレスも含まれて居ただろう。
昔からこうだったのだ。夫は監禁する癖がある。なんでも把握して居たいらしくて気に食わないことがあれば直ぐにお仕置と称して身体を貪る。キヨはそんな夫が気に食わなかった。だから牛沢を好いたのだ。浮気だということは知っていた。承知の上で牛沢との逢瀬を繰り返し、キスをした。この時間こそが本当の幸せなのだと気付かされたキヨは他のどれよりも牛沢との時間を大切にし、そして愛した。
mb「……」
夫も何か言うのを諦めたのだろう、煙草を吸えば車を走らせた。車に差し込む外の光が鬱陶しかった。車を走らせる夫の後ろ姿も何もかもが鬱陶しかった、嫌いだった。牛沢が居ない世界なんて考えられなかった。
* * *
12月__。
牛沢は久々に東京に戻っていた。12月というのもあってか街はクリスマスに彩られていて感嘆の溜息を吐けば白に溶け込んで行った。牛沢は薄く張った白を踏み足跡を残していく。視界が明るくなったと思えばクリスマスツリーがライトアップした様子で。ふと顔を上げてみれば人々も皆そのツリーを眺めていた。牛沢はすぐに興味を無くせば視線を元に戻し歩き始める。
ドンッ___。
「あ、ごめんなさ───」
「……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
gt「確かにここで働いてたようだね」
rt「でも、2年前にやめてる。」
fj「この手紙は日付が2年半前だ。」
gt「……近しいな」
fj「出来事が起こってまだそんなに日が経ってないかもね」
gt「彼らの戸籍を調べよう。」
fj「牛沢と呼ばれた人はきっとすぐに見つかる。」
gt「キヨは?」
fj「……俺の友達に詳しい人が居てね」
rt「さすがフジくん。」
gt「もしかして?」
fj「SASUGANI??」
rt「おぉおお!!!」
gt「レトさん盛り上がりすぎ」
rt「ガッチさんだって嬉しいくせに」
gt「そりゃ勿論。」
fj「こーすけともう1人ヒラも居るけどね」
rt「そうと決まれば即実行!!ヒラくんにも会いたいし早く行こ!」
fj「待って待って、アポなしは流石に!」
rt「SASUGANI!?」
fj「SASUGANI辞めとこう。」
rt「SASUGANIな……」
フジはPCを立ち上げればメールを開きこーすけへと連絡を入れた。既読は何時つくだろうか分からないが取り敢えず待つ事にした。
fj「うっしーくらいは調べれるかな?」
gt「俺が調べとくよ。」
fj「流石ガッチさん」
gt「フジに言われるなんてね」
fj「俺だって言う時は言いますー。」
rt「俺何すればいいん!?」
fj「レトさんは待機」
gt「レトさん待てだよ。」
rt「俺犬じゃない!!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あの後場所を移しては牛沢が口を開く。
us「久しぶり……キヨ。」
ky「…久しぶり。」
us「会いたかった。」
ky「……うん」
us「もう俺のこと好きじゃない?」
ky「好き、好きだよ。愛してる。」
us「じゃあ……」
ky「もう遅い。」
us「でも──」
ky「もう遅いんだよ!!」
us「……」
ky「もう、もうダメだった。俺はどうしてもあの人から逃げれないらしい。」
us「……」
ky「…………ごめん。」
キヨは俯いてそう呟けば席を立ちその場を後にした。牛沢も俯いたきりキヨの背中を見なかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
fj「こーすけ!ヒラ!」
hr「フジー!!久しぶり!」
ksk「フジ!!待ってた!」
rt「学友との感動の再会かァ?」
レトルトがふふ、と愉しげに笑ってそういえば3人はあはは、なんて照れくさそうに笑った。
ksk「んで……フジたちが話したいことって?」
fj「この……キヨって呼ばれた人の戸籍が知りたい。」
ksk「……おいおい、俺らにプライバシーもクソもないってか?」
fj「いや、それはそうなんだけど……」
ksk「…やれる所まではやる。見せてみろ。」
hr「にしてもキヨって懐かしいね〜。」
fj「……ん?キヨとか居たっけ?」
hr「いや、ほら、高校の時仲良かった。」
ksk「……あぁ、清川。」
hr「そうそう、キヨって呼んでたじゃん?」
fj「呼んでた呼んでた。」
ksk「このキヨがそのキヨだったりして?」
fj「ふは、ウケる。」
gt「强……間違いじゃないよ。」
ヒラのPCを覗き込んでいたガッチマンはポツリと呟けば口角を上げながらフジを見詰めた。
fj「え?」
hr「調べてみたけど…母校が同じ。名前も一致。」
ksk「戸籍も全部一致した。」
rt「うっそー?!?!?」
fj「うっしーは!?」
hr「この付近に住んでる。一人暮らしだ。」
rt「キヨくんは!?」
ksk「一人暮らし。少し離れたところに住んでる。でも、手紙のやり取りをしてたポストはまだ彼が持ってるらしい。」
fj「おっどろきー……」
ksk「旦那が居たようだけど約1年前に離婚してるらしい。」
rt「……じゃあ…」
gt「この恋……実らせることできるかも?」
fj「おっしゃー、行くぞー!!」
* * *
__コンコンッ…
「……はい」
gt「牛沢って人、知りませんか?」
us「……俺です。」
rt「少しお話が。」
us「……ざっとこんなところ。」
gt「…もし、清川さんが貴方を待ってると言えば…どうしますか?」
us「…え?」
rt「清川さんもあの時追いかけたらしいですよ。貴方のこと。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
__ピンポーン……
「……はい」
fj「キヨ?」
ky「……フジ???」
hr「キヨー!」
ksk「キヨーー!!」
ky「ヒラ!?こーすけ!?!?何お前ら!?」
fj「覚えててくれたんだ!!!」
ky「忘れるわけねぇよ、お前らほど仲良かったやつ居ねぇし。」
hr「途中で転校しちゃってそれっきりだったから心配してたんだよー……」
ky「……、」
fj「…変なこと言った?ごめん…」
ky「立ち話じゃ長くなる。中入れよ。どうせ全部知ってんだろ?」
ksk「…さすがキヨ……」
ky「っつーのが全部。俺はうっしーのこと追いかけた。でも…叶わなかった。俺はどうしても結ばれなかったらしい。」
fj「…もしうっしーがキヨに会いたいって言ったら?」
ky「俺も会いたい。いつか手紙届くんじゃないかってポストの所有者は俺のままにしてる。ただただ、待ってる。」
hr「……言い難い話なんだけど、牛沢さんはキヨが自分を拒んだと思ってるかも知れないよ?」
ky「分かってる。それくらい酷いことをした自覚もある。でも、どうしようもなかった。」
ksk「でも、牛沢さんの事が好きだから旦那と別れたんだろ?」
ky「……うん。」
fj「じゃあ…もっかいうっしーと会おうよ。」
ky「……え?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
gt「って事があって。」
us「……」
牛沢は徐に立ち上がれば棚からレターセットを取り出し筆を走らせた。そして封をして外へ駆け出した。その様子を見たレトルトとガッチマンは目配せをした後、グータッチをした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
__親愛なるK。
久しぶり、元気にしてる?もう一度会いたい。もし、もしあの時から気持ちが変わってないのなら、もう一度チャンスをくれるのなら…。明日 丸の内北口 14:00。キヨを待ってる。お前だけを。
︎ ︎︎︎︎︎ 愛を込めて。
︎ ︎︎︎︎︎ 貴方だけのU__
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
丸の内北口 14:00__
us「……」
ダメ元で出した手紙が無事届いたのかも分からないし牛沢のことを忘れてしまっているのかも分からない限り待つしか出来なかった牛沢は着いてきたレトルト達を見やっては肩を竦める。
rt「…もう、無理かな。」
gt「まだ、まだもう少し待とう。」
fj「……あいつはきっと来るよ。」
hr「キヨは諦めの悪い人だからね。」
ksk「こういう所で強気だからな、あいつ。」
14:00はとっくに過ぎた時間帯、牛沢はもう無理だと言わんばかりに此方に足を進ませる。その様子を見ていた5人は一斉に足音のした方を見た。それに釣られて牛沢もその方向を見て__
us「…キヨ?」
ky「……久しぶり、うっしー。」
牛沢はキヨの姿を見るや否や勢いよく抱き着いた。その衝撃で後ろへ蹌踉めくキヨを抱き締めて離すまいと力を込める。キヨもこれに答えるように背中に手を回し抱き締めた。
us「会いたかった。ずっと。」
ky「俺もずっと会いたかった。」
us「想像してみろよ、俺がどんな思いで駅でお前を待ったか。」
ky「うっしーも想像してみて。」
us「……何が。」
ky「うっしーが俺に手紙を書いた。」
us「俺は駅でお前を待った。」
ky「時間はもう19:00になるところだった。」
us「……でもお前の姿はなかった。俺は渋々新幹線に乗り込んで外を眺めた。」
ky「………安心して。今回はちゃんと着いた。」
us「…俺はお前を迎えに新幹線を降りた。」
ky「俺はうっしーを力いっぱい抱き締めた!」
us「…っふは、想像ってすげぇな、」
ky「ここまで幸せになれる。」
us「今は現実でも幸せだけどな。」
そこで牛沢はキヨにキスを落とした。火傷しそうなくらい熱いキスを2年半ぶりに___。
終