テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
玲司との話から戻ってきた滉斗に、元貴はまるで何か閃いたかのように、目をキラキラと輝かせた。
「ねぇ、滉斗! 決めた!」
「え、何を?」
滉斗が戸惑っていると、元貴は滉斗の手を握り、立ち上がった。
「もうさ、ここに住んじゃいなよ。」
元貴の言葉に、滉斗は目を丸くした。
「え……? 住むって、ここに…?」
「うん!だって、さっきあんなこと言ったのに、また毎日帰っちゃうなんて寂しすぎるもん…。それに毎日一緒に居たいじゃん!」
元貴はそう言って子供のように滉斗の腕に抱きつき、上目遣いで見つめてくる。その瞳には、切実な不安と、滉斗を独占したいという強い欲求が混ざり合っていた。
(この人、僕が告白した途端、更に甘えん坊になったな…)
そう思いながらも、元貴の無防備な姿がたまらなく愛おしい。この前元貴を「一人にしない」と誓ったばかりだ。その誓いを守るためにも、この申し出は断る理由がなかった。
「……うん、分かった。じゃあ、住む。」
滉斗が頷くと、元貴は「やったー!」と歓声を上げ、滉斗に飛びついた。
その日の夕食時、二人は組員たちが集まる広間にいた。元貴は皆が揃ったのを見計らって、湯呑みをテーブルに置いた。
「みんな、ちょっといいかな?」
元貴が静かにそう言うと、ざわついていた広間は、一瞬にして静まり返った。組員たちは、若頭が何を言うのかと、真剣な眼差しで元貴を見つめる。
元貴はその視線に臆することなく、隣に座る滉斗の手をぎゅっと握った。そして組員たちに向かって、満面の笑みを浮かべた。
「えっとね、みんな。僕と滉斗、付き合うことになったから。」
その一言が響いた瞬間、広間は一瞬の静寂に包まれた後、まるで地響きのような大爆発が起こった。
「ええぇぇぇえええええええ!?」
「ま、まさか、若頭の『お気に入り』が本当に!?」
「あぁぁ、やっぱり…!若頭の色気にやられちまったか!」
「なんということだ!めでたい!めでたすぎる!!」
組員たちは驚愕と興奮と、そしてどこか「やはりな」という納得の表情で、口々に叫び始めた。
先日、滉斗に「若頭から離れるべきだ」と説得した側近の男は、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「わ、若頭!それは…っ、本気でございますか…!?」
側近の切実な問いかけに、元貴は、にこやかに、そして少し意地悪な響きを含ませて答えた。
「もちろん、本気だよ。それに、滉斗はもうここに住むことになったから。みんな、僕の恋人が寂しい思いをしないように、ちゃんと構ってあげてね?」
その言葉に、組員たちの騒ぎは最高潮に達した。
「な、なんだってー!?同居だと!?」
「まさか、若頭の隣の布団が、もう永久欠番に!?」
「くっそ…若頭め!抜け駆けだぞ!!」
ヤクザらしからぬ、どこか子供じみた羨望と祝福の声が響き渡る。
滉斗は、元貴からのまさかの公開告白と、一方的な同居宣言に、顔が真っ赤になり、恥ずかしさで俯いてしまう。
(こんな大勢の前で…。)
元貴は、そんな滉斗の様子を心底楽しそうに眺めていた。
「あ、それと。みんな、滉斗がここに住むことは玲司には絶対内緒だよ?きっと拗ねちゃうからね。」
元貴の悪戯っぽい言葉に、組員たちは、すぐに「はっ!」と、真剣な顔で頷いた。彼らにとって、若頭の秘密を守ることは組の掟よりも重要だ。
「承知いたしました、若頭!」
「我らが若頭の『愛の秘密』、命に代えても守ります!」
組員たちの異様な結束力を見て、滉斗は、もうこのヤクザの屋敷から逃げられないのだと、改めて実感した。
若頭と「恋人」としての新しい、甘くて危険な日常が、こうして始まったのだった。
正式に組の屋敷へ引っ越した日の夜。
滉斗は、元貴の部屋に並べて敷かれた二つの布団を眺め、言葉にできない緊張感に包まれていた。
「ねぇ、滉斗。何ぼーっとしてるの?」
元貴が、お風呂上がりの少し火照った顔で笑いかけてくる。浴衣の襟元がいつもより緩んでいて、白い肌が覗いている。それだけで、滉斗の心臓はうるさいほど音を立てた。
「……いや、本当にここに住むんだなって、改めて思って」
「今更? 逃がさないよ、もう」
元貴は冗談まじりにそう言って、ひらりと自分の布団に潜り込むと、隣に立つ滉斗の手をぐいっと引いた。
「ほら、滉斗も。こっち来て」
促されるまま滉斗も隣の布団に入る。部屋の灯りを消すと、障子越しに差し込む月光が元貴の横顔をぼんやりと照らした。
静寂の中、元貴がごそごそと布団の中で動いたかと思うと、滉斗の腕の中にすっぽりと収まってぎゅっとしがみついてきた。
「……あったかぁ」
元貴の吐息が胸元に触れる。反射的に元貴の背中に手を回そうとして、必死に自分を制した。
(大切にしたいし、変なことしちゃダメだ……)
玲司が現れたあの時、自分の中に芽生えたドロドロとした独占欲。
「この人を誰にも渡したくない」、「俺だけがこの顔を知っていたい」。その情熱が、元貴の無防備な体温に触れるたび、理性の蓋を今にも弾き飛ばしそうになる。
「滉斗……? 腕、回してくれないの?」
元貴が、少し不満げに顔を上げる。その瞳は潤んでいて、まるで拒絶されるのを怖がっている子供のようだった。
「…!あっ、ご、ごめん」
滉斗は観念したように、元貴の細い体を抱き寄せた。すると、元貴は満足そうに滉斗の胸に顔を埋める。
しばらくして、元貴の規則正しい寝息が聞こえ始めた。
(……寝たのか)
滉斗はそっと元貴の顔を覗き込んだ。昼間の凛とした若頭の面影はない。ただ、愛しくて守りたくて触れたくてたまらない。
滉斗の指先が、元貴の頬にそっと触れる。俺だけが見ているこの顔。誰にも触れさせたくない。
滉斗は自分に言い聞かせるように、切なく掠れた声で呟いた。
「……こんなに無防備だと、…いつか本当に止まらなくなっちゃうよ…。」
そう言って、元貴の額にそっと羽が触れるような優しいキスをした。滉斗がふぅ、と小さくため息をつき、目を閉じて眠ろうとしたその時。
腕の中にいる元貴の口角が、暗闇の中で「くすっ」と、ほんのわずかに上がった。
そして、滉斗の服を掴んでいた元貴の指が、確信犯的に、ぎゅーっと力を込めて引き寄せられた。
滉斗は気づいていない。
元貴がその「必死の我慢」を全部聞いていて、楽しんでいるということに。
コメント
5件
やだ見逃しちゃってた😖😖 もうやだぁ尊いって!!! へへっへへへってなります。🙃 最高です。🫰🏻(?)
やばーい最高すぎるぅ
今回も最高でした! 更新楽しみにしてましたー!次のも楽しみに待ってますっ!