第7話:「死のカウントダウン」
配信画面は依然として赤く染まったまま。
“LIVE”のマークは点滅し、視聴者数は百万を超えていた。
《#告白ノ間》
《#渡辺凛》
《#死の配信》
SNSのトレンドは、この話題一色に染まっていく。
一方、画面の中――椅子に座った渡辺凛の顔は蒼白だった。指がわずかに震え、椅子の肘掛けを掴む手に力が入る。
「……蓮さん、どういう意味ですか、それ」
凛の声はかすれていたが、かろうじて冷静を保っていた。
蓮は、配信のメイン画面へと姿を現した。
相変わらずの柔らかな笑顔。しかしその目の奥には、何の感情も宿っていなかった。
「僕が何度も言ってきたでしょう。“真相”には、代償が伴うと。
それを視聴者も、あなたも望んだんですよ」
蓮の指が、スイッチを押す。
――その瞬間、凛の部屋の照明がパチンと切れた。
「!?」
凛が立ち上がり、部屋を見回す。
「電気が……?なんで……」
続いて、玄関のドアが“カチャン”と内側からロックされる音が響いた。
蒼が、警備室のモニターの前で椅子から立ち上がった。
配信はまだ続いている。彼の部屋でも、今まさに「何か」が起きようとしていることが伝わっていた。
「これは……ただの配信じゃない……!」
蒼は、蓮の言葉を思い返す。
「投げ銭なんかじゃんじゃんきますよ。蒼さんの話、すごいから」
「次のスピーカーは僕です」
「実験のスポンサーたちは、ある決断をしました」
まるで、すべてが伏線だったかのように、蒼の中で繋がっていく。
蓮はただの“謎の男”ではなかった。
彼は、このチャンネルの中核だった。
「これは……仕組まれていた」
蒼は警備室を飛び出し、凛の住むマンションの住所をモニターから抜き出すと、必死に走り出した。
一方、凛の部屋では――
スマホが一斉に鳴り出す。
通知。着信。SNSのDM。
すべてが、凛の“命”に関するものだった。
「君は何人の視聴者に価値を与えたか」
「もう少しで1000万投げ銭です」
「君の“死”を見届けたい」
「逃げても、カメラは止まらない」
「やめて……やめてよ……!」
凛が叫ぶ。しかし、それを聞く誰もいない。
そのとき。
画面に映し出されたのは――かつての友人、小林悠斗の顔だった。
「凛、聞こえるか? お前、今どこにいる?」
凛は画面に食い入るように見つめる。
「悠斗……?」
悠斗はスマホを持ちながら、走っていた。
汗だくで、何かを探すように。
「俺さ、お前に言わなきゃいけないことがある。
……ずっと前、お前を“チャンネル”に推薦したの、俺なんだ」
「……え?」
凛の目が見開かれる。
「大学の奨学金が足りなくて、金が必要だった。
“身近なゴシップや暴露ネタ、知ってる奴を紹介すれば金が出る”って言われて、
……俺、迷わずお前の名前を出した」
「なんで……なんでそんなこと……!」
「俺、バカだった。お前の話、金になるって思った。
でも――まさか、こんな形になるなんて思ってなかったんだ!」
凛は言葉を失う。
だが、その瞬間。
部屋のスピーカーから蓮の声が、再び流れた。
「では、ここでカウントダウンを開始します。
凛さんの命の価値、皆さんで計りましょう。
“10分後”、扉が開きます。そのとき、何が起きるかは――お楽しみ」
画面にタイマーが表示された。
00:09:59
視聴者は恐怖と興奮の入り混じった感情に揺れながら、投げ銭が止まらない。
《こいつら頭おかしい……!》
《誰か止めろよマジで……》
《これもう事件だろ……》
《でも見てしまう……》
《#死のカウントダウン》が世界トレンド1位になる。
そのとき、画面が切り替わる。
――田中蒼が現れた。
「この配信は、終わりだ」
彼の目に、かつてのような虚無はなかった。
蒼は“ある映像”を差し込んだ。それは、蓮がかつて同じような方法で別の犠牲者を追い詰めていた映像だった。
「蓮、お前がやってるのはただの娯楽でも、正義でもない。“殺人”だ」
「……そう思うなら、止めてみますか?」
蓮が不敵に笑った。
00:04:12
残り時間は、あと4分。
蒼は走る。命のタイムリミットが迫る中、すべての“真相”を止めるために。
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