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一燐まじでいいですよね 素敵な作品ありがとうございます
_チク、タク。
深夜1時。鳴る時計の音と共に流れ落ちていく汗。
「…またか、」
そう独り言を呟くと、立ち上がり水を飲みに行く。このような生活をし始めたのはいつ頃だろう。ある日突然、俺の弟に抱かれるという夢を見てしまった。それからずっと、その夢を見ている。弟くんに抱かれるのが嫌、という訳ではないのだが、弟くんが好きすぎてこのような事が起きていると知られたら嫌われるのではないかという不安が押し寄せてきて、いつも体調が悪くなる。今日はなぜだか、いつもより体調が悪かった。
「…大丈夫?」
水を飲みに冷蔵庫へ向かうと丁度日和が帰ってきた。心配するのも当然だろう。顔色も悪いし、汗も沢山かいている。そして、気づかぬうちに涙を流している。この涙はどこからきたものなのか、いつから流し始めたのかなんてわからない。
「…大丈夫。水を飲みにきただけだからァ、」
と誤魔化し、自分のペースで飲もうと思ってた水を一気にゴクッ、と流し込む。
「…ぁっ、、おぇっ、ごほ、ひゅ、っ、」
少しあった吐き気が今の水によって本気で吐きそうになって地面に蹲って、吐いてしまう。それと同時に過呼吸までも引き起こしてしまう。
「わ、大丈夫じゃないじゃん、ちょっと待っててね、」
手慣れたような対応で洗面器やら体温計やらを取りに行こうとしている日和がいた。
「おいて、っ、いかないで……、」
その日和に対してなにしてんだろ俺は。俺のために色々持ってきてくれようとしているのになんで止めるんだ。
「…ぼくは置いていったりしないね。」
その一言だけ残して小走りで物を取りに行ってくれた。
「ぁ、ぁ、いゃ、っまって…」
涙の落ちる数が多くなっていった気がした。それと同時に頭痛も強くなって、頭を誰かにハンマーでドンドンと強く叩かれている感覚に陥った。
「ぅ、ごぽっ、ぉぇ、うぁ、」
その頭痛のせいもあって、夜にニキが作ってくれた料理を消化途中に吐き出してしまう。
「あ…少し間に合わなかったね、離れてしまって申し訳ないね、」
日和が帰ってきて優しく背中をさすってくれる。
「き、き、らい…に、っ、ならないで…っ、」
その言葉はどこから出てきたのだろう。
「…ニキくん呼ぶ?それとも弟?」
弟と聞いた瞬間に落ち着きかけていた呼吸がまた荒くなっていく。
「はぁ、はっ、ひゅ、ぅ、ぁ、」
「…鼻から吸って口で出すんだよ。わかる?一緒にやろっか。」
背中をさすってくれて、さらには呼吸の手伝いまでしてくれるなんて、対応に慣れすぎてないか、と疑問を持つも今はそれどころではない。
「ふ、ふぅ、」
少し呼吸が落ち着いてきた頃、俺は汚い状態なのに、日和に抱きついてしまう。
「…ひよりちゃ、、」
「いい子、よく頑張ったね。」
赤ちゃんのように撫でてくれる。
「…落ち着いた?今日は同じベッドで寝ようか、」
「…ぅ、」
最初は拒否しようとしたが、またあの夢を見たらどうしようという気持ちが勝って、無言で頷く。
「今日はめいっぱいあまえていいからね。あ、その前に体温、測ろっか。」
そうして脇に体温計を入れた。数分後、ピピピ、と共に数字が体温計に表示される。
「37.5…少し熱があるね、ゆっくり休もうね、」
そうして俺たちは同じベッドで寝た。
「ぅぁ、っ、ぁ」
「…凄い魘されてるね、やっぱり夢が原因なのかな。」
そうして日和は燐音の頭を撫でる。
「ぅ、っ…ぁぁ、」
目が覚めた頃には10時。仕事には絶対遅れている。休みの処分をしてくれたのだろう。
「…………!!!兄さんっ!!!!」
昨日の夜体調を崩したことしか覚えていない俺の前に、俺が兄弟としても、恋愛としても愛している人がいた。
「一回熱を測ろう兄さん!」
いつも通りの元気。それを目にして、兄がこんな卑猥な夢を見てるなんて弟くんが可哀想だと思って涙が滴り落ちてくる。
「兄さん……!?」
悲しいのかと思ったのか、すぐに抱き付いてくる。
「…一彩、ごめんな、」
弱々しく、不安そうな声でそう囁く。
「…なんで謝るんだい?というか、…
兄さん、辛いことがあるなら僕にすぐ相談して欲しいよ、仕事中でも、朝でも夜でも昼でも、24時間いつでも駆けつけるから!」
悩みの根源がお前なんだよとかは言えるわけがないし、言いたくもない。
「…兄さん、なにがあっても僕は兄さんの事を嫌いにならない、約束するから。僕に、あったことを話してくれないかい?」
すごく真剣な眼差しで俺の事を見てくる。
「…本当?」
「僕が嘘をついたことなんて一度もないだろう?」
そうだ。その通りだ。一彩が嘘をつく時は滅茶苦茶わかりやすいからすぐにわかる。あからさまに目が泳ぐし、声が震えている。言い訳も可愛らしいほど幼稚園生だ。ぷ、プリンは妖精さんが持っていってしまったよ、、なんて言い訳もした日があったからな。信じれないことはないだろう。
「…あのなァ、俺っち、最近変な夢を見るんだ。」
うんうん、と頷きながら話を聞いてくれる弟くん。
「その夢は弟くんにその…抱かれる夢。」
「えっ、」
困惑する一彩に対して俺は話を続ける。
「ぶっちゃけ言って俺は一彩のこと、兄弟としても恋愛としても好きなんだ。」
「……うん、」
「こうして、元気に挨拶してくる一彩を見て、卑猥な夢を見てる俺が嫌になってきて、いつかバレたら弟くんに嫌われるんじゃないかって、不安になったんだ。」
「…そっか、話してくれてありがとう。」
「こんな奴が兄って、嫌だよな、ごめん…一彩。」
「…まず、兄さんと同じ気持ちで嬉しかった。」
「へ?」
自分から出た声なのかわからないくらい驚いた声だった。
「僕も兄さんの事、兄弟としても恋愛としても好き。そして夢を見る程、僕の事を愛してくれていたということがとにかく嬉しかった。」
「……お、おう、」
さっきまで泣いていたとは思えない照れた反応をしてしまう。一彩が俺の事好きだなんて誰が想像したことか。
「兄さん、兄弟としての結婚は難しいかもしれないけど…一度兄さんと、交際…をしてみてもいいだろうか。」
その問いに、目を逸らしながらも、
「…勿論、」
と返事をする俺がいた。