ルビーが話した内容は以下の通りだ。
16世紀くらいの中世後期のヨーロッパでは、まだ殺人が貴族の娯楽として扱われていたという。警察と似たものは存在していたが、まだ制度は確立していない。警察の役割は、貴族や地方の領主が担っていることが多かった。だから、名誉から外れるのを恐れた貴族自身を裁くことが難しかった。
バートリ・エリザベートという名門貴族のお姫様が、ルーマニアの丘の上にある城に住んでいた。彼女が幼い頃。父は戦へ行って帰ることはなく、母だけが残り母はバートリに厳しい躾をした。彼女の心は歪み、母が死んで鞭打ち。血が顔にかかり、血を浴びた快感から殺人を行うようになった。
彼女は名門貴族であったせいか、誰も止めることができない。今では考えられないほどの娘を殺していく。その数600人以上。女吸血鬼の元になった人物だ。
警察の体制が整い始めたのは、近代に入ってから。しかし、人の急激な増加・貧困が加速して飢饉が起きたり警察の怠慢が蔓延していたりすると警察が機能しなくなることもある。犯罪が起きやすいのは、そのような時だという。
現在監視カメラの導入で犯罪は減っているが、やはり家庭内の環境や学校における環境により子供の心が左右されるのは今も昔も変わらない。
アルマの住んでいた街も貧困が蔓延っていて、周りで暴動が起きている状態だった。父と母の間に産まれた彼。お金がないので育てることができず、捨てられたという。孤児院で育ったアルマは他の子供達と馴染むことができず、動物を殺すことで心が安らいでいた。大抵の殺人犯は動物殺しから人間殺しに展開することが多く、彼もその一人。
殺人に走ったきっかけは、19歳の頃。アルマがお金をケースで持っていた男をナイフで惨殺したのが始まり。お金を手に入れる手っ取り早い手段を理解したものの、たくさん殺人を犯せば警察に捕まるのは目に見えている。ならば仕事をしてお金を手に入れようと心を切り替え、お菓子会社に就職。メキメキと働きながら自分が良い人に見えるにはどうするばいいか試行錯誤しながら、24歳になった頃。社長にまで上り詰めた。彼が社長になってからお菓子がたくさん売れて、大企業になっていった。そんなもの、アルマにとっては計算済みだったんだろうな。
彼は頭がいいやつだからね。社長という地位を維持しながら、殺人をしていたんだ。社長がそんなことしても、誰も信じないはずさ。
青年時はお金を奪うためだったが、社長になってから自分の気に入らない社員を呼び寄せて暗殺。アルマは自分の性欲を満たすために、かなりムゴい殺し方をした。警察が「これは人間がしたことなのか?」と驚くほどのな……。これについては、気絶するほどムゴいから質問するなよ。
社長に上り詰めたのも、自分が良い人に見せるために根回ししていたから。そんな奴は自分のことしか考えていないだろう。あいつに慈悲を求めても無駄だ。あいつが使えると思えば使うが、使えないと思ったらキッパリと仲間だとしても切る。
今は君のことを使える奴だと思っているんだろう。理由は知らないけどさ。でもいつか使えない奴だと思われたら、汚い言葉で罵られるかもしれない。だから、そういうやつからは距離をおいたほうがいいということだ。
ルビーの話を一通り聞き終え、納得してしまった自分がいる。とはいえ、信用されている内ならまだ大丈夫だからこのままでいいと思った。裏切られたり使えないと思われたりした場合、考えよう。
自分の意志を彼女に伝えると、「お人よしだな。君みたいな奴は食い物にされるだけだよ」と言われた。そのことについてハテナマークしか浮かばないので、とりあえず食事をとることにする。スプーンを握りしめて、スープを飲んだ。ほんのりとミルクの味と香りがして、心休まる。
「そういや、ルビーは詳しいんだな。今考えた話か?」
ダニエルがそう尋ねてきて、彼女は首を振る。
「いや、アルマから聞いた話さ。あいつは物知りなんだ。話すと普通に面白いよ、あたしもそこに惹かれたんだよね。今考えればバカだった」
ため息をついた後座る姿勢を整え、彼女も食事をとり始めダニエルも食事を始めた。僕は二人の話に耳を傾けながら、ゆっくりと食事を進める。
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