今日も朝が来た。うんざりする程の晴天だった。
今日も起きて、顔を洗い、水でコーヒーを淹れる。何故、水なのか?今月、ガスを止められたから水なのだ。(水道が生きているだけ、まだマシだということにしておきたい)コーヒーのような水を胃に流し込みながら、僕はデスクへと向かう。デスクにはくしゃくしゃに丸められた原稿用紙と思われるものが散乱しており、借金の催促状が束になって纏められていた。そんなデスクに、僕は座る。普段通り。何時も通り座る。それが僕の仕事のルーティーンなのだ。皆様ご存じ僕は小説家であり、借金まみれである。これでも、一世を風靡した顔の広い小説家だったのだ。芥川賞だって受賞した。やれ、ネットでは『美男小説家』だの、『期待の新人作家』など、褒め称えられたのだ。そこから僕の人生が転落したのは、何年も前のことだった。まあ、結論から言ってしまえば、『盗作』の疑いが出てしまったのだ。個人サイトに上げられていた小説と『あらすじが似ている』、『登場人物の性格が似ている。』と言ったものだった。…あのとき書いたものは、言ってしまえば何処にだってある普通の青春モノだったし、自分は生まれてこの方ズルをするなどと言う考えに至ったことはなかった。だが、ネットでは叩かれた。『美男小説家盗作か。』そんなネットニュースの記事がいつの間にか出ていて、さらに叩かれた。何も考えず、つらつらと文を書いているだけで、支持される。それが当たり前でないことを知ったのも、その時だった様な気がする。
僕の長ったらしい転落人生については、ここで終わりにしておこう。
さて、今回書くのはミステリーだ。恋人の遺言状によって、物語が展開されていく。新感覚ミステリー。…と言っても、話をどう切り拓いていくか、そんなものは考えていない。なにか良いネタはないか、デスク横の本棚に手を伸ばしたときだった。プルル、プルル。と借金取りが来るとき以外、小説の打ち切りをお知らせするとき以外にはならないはずの固定電話がなった。「仕事の依頼なのではないか」だなんて事を思って、期待しながら受話器を手に取った。電話に出た途端
「南雲さん、お久しぶりです。今、暇ですか?」
懐かしい声だった。名前は、そう。___アルジュナ。アルジュナ君だ。
昔、僕が有名だったころ、サイン会に来てくれた、褐色肌の男の子。馬があって、調子に乗って電話番号を渡していたのを思い出した。
けれど、何故彼が? …もしや、僕が金に困っていることを聞きつけて、なにか依頼が?
「南雲さん。貴方に、私の仕事を手伝って頂きたいのです。…勿論、報酬も出るようなので。」
僕が待ち望んだ、仕事の依頼だった。
仕事の内容も聞かず、「分かった、すぐに行く。」とだけ言って、住所を聞いてその場所へ向かった。
あんなことにはなるとも知らずに。
僕があんな物を見るとは知らずに。
___僕は愚かであると 認識することなく 。
Fin .
コメント
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小説面白いね! 続きが見たいなぁ〜