※やっとcp要素出てきます
署内での注意喚起が功を奏し、つぼ浦の退勤に皆がいち早く気づいた
青井はその中でも率先してヘリを出し、ロスサントス全域、特に市外をサーマルでくまなく捜査していた
つぼ浦が見つかったのは北の外れだった
丁度車から小屋に移動しているところを青井は確認し、応援の要請をして待機していた
だが、如何せん最北部ともなると応援に時間がかかる
つぼ浦に近づき口元にハンカチを当てた所をサーマルで確認し、ヘリを降りて小屋の前で中の様子を伺いながら待機していたのだった
実銃を使いたいくらいだったが、それでは犯人への事情聴取や身元の確認が出来ない
テーザー銃を用いて確保したタイミングで応援のサイレンが聞こえ、無事事態は収束した
つぼ浦はと言うと、犯人の前では虚勢を張っていたようで保護したあと直ぐに高めの熱が出た
発情期特有のフェロモンこそ出なかったものの、強制的な薬の使用はかなり体に負担がかかったようで、本人の拒否も虚しく入院
そこから体調が回復し病院から出られたのは3日後だった
キャップに迎えに来てもらい警察署に着くと、心配していた署員はつぼ浦を囲み普段通りの彼に皆が安堵した
一通り話し終わるとつぼ浦は思い出したようにきょろきょろと辺りを見渡し、屋上でお目当てを見つけたようで、すまん!と一言残し去っていってしまった
「えー、つぼちゃんセンパイもう行くのー?」
「まぁ、今回は功労者に譲ってやるか」
惜しみながらもつぼ浦の目的地を知っているひのらんと成瀬は消えていく背中を見送った
つぼ浦が屋上の重い扉を開けるといつもの定位置、駐車場が見える端の方でタバコを吸っている青井の姿があった
「アオセン」
「よぉ、つぼ浦。もう体はいいの?」
「お陰様で。病室のベットが退屈すぎて素振りしてたら追い出されちまいました」
「ハハハッ、みんなまだ話したそうだったけど?」
「どうせ毎日イヤでも見るからなぁ、うんざりだぜ」
これは彼なりの照れ隠しだ
派手な存在のつぼ浦だが、実は大人数に囲まれ注目を浴びるのが恥ずかしいのを青井は知っている
「アオセン。まぁ一応…ありがとうございました。探してもらったみたいで」
つぼ浦は首元を触りながら目線を外して言う
こうやってわざわざお礼に来るところから、つぼ浦の根が真面目なところが垣間見える
「全然いいけど。たまたま直ぐに見つかってよかった」
こんなことを言っているが、捜索中は人でも殺すのかという勢いで血眼になって探している
「犯人から電話で呼び出されて向かったんだって?次からは気をつけなよ」
「気をつけるっつっても無視はできないしなぁ」
「無視しなくても情報共有くらいは出来るでしょ」
「そんないちいち共有なんかしてたら犯人取り逃がしちまうぜ」
「………。」
こいつまじか、青井は呆れて何も言えなくなった
あんなことが起きたのだ。さすがのつぼ浦も反省するだろうと
他のみんなにもたっぷり説教されただろうからと自分は少しの小言で済ませようと
色々言いたいことを飲み込んで「気をつけろよ」とだけ言うつもりだった
だが、当の本人は反省どころかきっと次も同じことをする
青井の気持ちも知らずに
「あのさぁ。つぼ浦は知らないかもだけど、オメガってのは事件に巻き込まれやすいんだよ。今度はもっと危険なことに巻き込まれたらどうすんの?」
「あぁ゛?そのオメガがどうとかもう聞き飽きたぜ。オメガだろうが、なんだろうが今までなんにもなかったんだから、これからもどうにかなるだろ」
「実際今回どうにもならなかっただろ。俺が助けに来なったらあのままどうしてたんだよ」
「殴られてたかもなぁ?でも犯人に殴られてダウンするなんていつもの事だぜ?」
青井は短くなったタバコを落とすと靴底で潰してつぼ浦に向き直った
「…オメガが受ける被害は暴力だけじゃないし、相手も恨みを買ってるヤツだけじゃない。オメガの性を使って無理やり言うこと聞かせようとするやつだっている」
「あ〜よくわかんねぇな。何が言いたい」
つぼ浦は知らない
どれだけアルファを前にしたオメガが無力なのか
どれだけオメガの性被害が酷いものか
どれだけ、今回の事件でつぼ浦のオメガバレの確率が上がったか
どれだけ、このロスサントスで穢れのないつぼ浦という存在を自分の手で汚したいと思う人間がいるのか
「ねぇ、つぼ浦」
「なんすか?」
つぼ浦の胸ぐらを掴むと、近くにあった貯水タンクの壁に思いっきり打ち付ける
「イ゛っ!」
「アルファはね、やろうと思えば簡単にオメガに膝まづかせることが出来るんだよ?」
アルファのフェロモンが辺り一帯に放たれ、つぼ浦の体に纏わりつく
それは発情期を促すような甘ったるいものではなく
オメガを屈服させるためのものだった
「うぅ゛…はッ、なにすんだよ…アオセッ」
喋るのもやっとのはずだ
「つぼ浦、俺は実はアルファなんだ。そしてお前はオメガなんだよ」
青井は初めて人にアルファであることを告白した
つぼ浦がオメガと知った時もアルファとしてどうこうするつもりはなかった
それは先輩として青井を頼るつぼ浦を裏切る行為に当たるから
だが、当の本人は狼がこんなに身近にいるとも知らず、無防備な羊だ
自覚の足りない相手に自分のような恐ろしい存在もいるのだと知らしめるのに、今まであまり好きではなかった自分の性を使うにはちょうど良かった
「この間の犯人はベータだったらしいよ?でも次の犯人がアルファだったら?つぼ浦は自分で逃げられる?」
つぼ浦の胸を押えつけたまま鬼のヘルメットを脱いだ
普段は眠そうにも見える穏やかな瞳が、ランランと青い光を宿し見開かれている
床に落とされたヘルメットの固く弾ける音につぼ浦の肩がビクッと揺れた
「みんな言わないだけでこの街もアルファは結構いるんだよ?そんな奴らにこんな風に押さえつけられたらどうするの?」
「あおせっ」
胸を抑えた手に力が入る
つぼ浦の抵抗するように青井腕を掴むがその力もこんなに弱い
「殴られるだけじゃすまなかったら!?アルファとオメガなら暴行だけじゃない、その先だってある!」
どんどんと強くなるフェロモンの圧につぼ浦は膝をつく寸前だった
「アオセン」
「犯行が…恨みじゃない可能性だってあるんだよ。お前は知らないかもしれないけど、邪な気持ちを持ってる奴も少なくない」
どんなに言ったってきっとつぼ浦には伝わらない
人の恋路にも知らぬ存ぜぬを貫く彼が自分の向けられた恋情に気づくわけが無いのだ
青井は空いた手でつぼ浦のサングラスをそっととった
本人の意志とは裏腹に、目元は赤く染まり瞳は潤んでいる
その目尻だけは抵抗の証にキッとつり上がっているが、なおのこと支配欲を煽るだけだ
こんな表情で、力の入らない手足で、一体どう抵抗するつもりなのだろうか
青井は立つのがやっとのつぼ浦の顔の高さに合わせて少し屈みながらそっと唇に口付けた
そのまま肩口に顔を埋める
「…こういうことをしてくる奴が、俺以外にもいるってこと」
あんだけ真面目に説教して、普段はあらわにしない怒りの感情をぶつけておいて、青井の中で渦巻く感情は思いやりでも心配でもなく独占欲だった
自分以外に襲われ、めちゃくちゃにされる可能性があるのに危機感を全く持たないつぼ浦への焦りと怒りだった
そしてその後にとった自分の行動が分からせたい、思い知らせたいという、なんとも身勝手な感情だという所が情けなさに拍車をかける
「この先だってアルファならできる…」
「………アオセンは…俺の事が好きってことか?」
鈍感なつぼ浦でも流石に気づいたようだ
想いを伝えたところで理解できないだろうし、戸惑わせるだけだろうと奥底に押し込んでいた感情
もし許されるなら…と青井は小さく深呼吸して口を開いた
「好き…だよ。ずっと前から」
「………。」
「……。」
「………。」
「あの、なんか言ってもらってもいいですか」
痺れを切らし青井は顔を上げてつぼ浦の顔を見る
嫌悪を浮かべてるか、戸惑いを浮かべているか、いや、多分驚きだろうな
そう選択肢を浮かべながら見た表情は予想に反し真っ赤に染っていた
「えっ」
大きく見開かれた瞳
困ったように曲げられたハの字眉
手の甲で隠されて口元は見えないが、首から耳に至るまでその顔は真っ赤に染っていた
「えぇ?」
「エッ?……すき…アオセンが?おれのこと?」
そう口にした瞬間
ブワッと辺りに吹き出る甘ったるい匂い
レモンのはちみつ漬けのような爽やかさもありながらも、つい齧り付きたくなるような魅惑的な香り
正真正銘、オメガの発情期特有のアルファを惑わすフェロモンだ
発生源は疑うまでもなく青井の目の前、つぼ浦だった
「「え?」」
お互いが戸惑いの声をあげるが23年間一度も来なかったオメガの初、発情期という事実は変わらない
そしてここは警察署の屋上
「やばい!!ちょっ、つぼ浦何してんの!?それ引っこめて!」
「はっ?引っ込めるって…無理だ!!どうしたらいい!?」
「えぇ?ちょっと匂いが、匂いが舞い散る!!」
咄嗟に抱きしめて匂いの発生源を閉じ込めようと躍起になる青井だが逆効果のようだ
さらに辺りにブワッと香りが膨れ上がる
「アオセン!ダメだ、逆効果だ!!アオセンのにおいでますますおかしくなっちまう!」
「なにそれ、めっちゃかわい、じゃない!!どうすんのこれ!つぼ浦の匂いをみんなが嗅いじゃう!」
その後は何とか正気に戻った青井がつぼ浦をヘリに押しこみ、ヘリ内に充満する香りに必死に理性を繋ぎ止めながら警察署のヘリポートを飛び立った
屋上の風上から流れてくる2人の甘ったるい匂いに鼻をつまみながら警察署員、全員で空の彼方へと消えていくヘリを見送ったのだった
今R18の付き合ったあとの話も考えているので、いい感じになったら続編書きます
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