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・実在の人物、団体とは一切関係のない創作フィクションです。
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・本文は作者の妄想に基づいており、事実ではありません。
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・閲覧はすべて自己責任でお願いします。
紫×桃
「ねえ、いるま、今日さ……少しだけ、一緒に帰れない?」
雨が降る放課後、
教室の前で傘を持って待っていた俺に、らんが声をかけてきた。
うっすら笑って、
どこか怯えるように俺を見てるその顔に、
なんか、イラッとした。
「……今日、だりぃから無理」
言った瞬間、
らんの顔が少しだけ、動いた。
でも、やっぱり笑ってる。
「……そっか。ごめんね、急に」
なんでだよ。
なんで、謝るんだよ。
なんで、お前は、
いつも俺の顔色ばっか見てんだよ 。
____________
「なあ、らん」
「ん?」
「お前さ、さっきからウザい。重いんだよ」
自分で言って、すぐに後悔した。
けど、それ以上に、どこかで「スッとした」自分がいた。
やっと言えた、みたいな。
ずっと喉に詰まってた何かが、ようやく吐き出せた気がした。
らんは、一瞬だけ瞬きをして、
それからゆっくり笑った。
「……うん。だよね、ごめん」
謝るなよ。
違ぇんだよ。
俺が欲しかったのは、そんな顔じゃない。
なんで、
お前は、いつもそうやって”俺を許す”んだよ。
____________
「そっちが、寂しいとか言うから、俺だって無理してんのに。
気づけよ。俺、そんなに優しくねーから」
「……うん」
「いつも“いいよ”とか“平気”とか言って、何も言わねぇで、でも勝手に拗ねたり落ち込んだりしてさ。
こっちがどんだけ気ぃ使ってんのか、考えたことあんのかよ」
「……うん。ごめんね」
またそれかよ。
また「ごめん」かよ。
もう、何回目だ。
____________
気づいたら、
俺は傘もささずに、校門を出てた。
振り返ったら、
まだらんはそこに立ってた。
傘の中で、
顔、見えなかった。
____________
夜。
スマホに、らんからの通知が来た。
『今日、嫌な気持ちにさせてごめん。
いるまのこと、大事にしたかったのに、うまくできなかった。
俺、ちょっと距離置くね。
しつこくしたくないから。
いままでありがとう。ほんとに、優しかったよ。』
____________
手が止まった。
なんで「ありがとう」なんだよ。
なんで「優しかった」なんだよ。
まだ何も終わってねえだろ。
まだ、終わってほしくなかったくせに。
俺が言わせたんだ。
俺が、お前を突き放したんだ。
でも今さら、
「ごめん」なんて――
俺の方こそ、言えねえよ……
____________
あれから、二週間。
らんからのLINEは一通も来てない。
「ちょっと距離置くね」ってメッセージが、最後。
本当に“しつこくしてこなかった”。
らんらしいと思った。
でも、クソみたいに寂しかった。
今さら「ごめん」なんて言えなくて、
俺も連絡できないまま、時間ばっかが過ぎていった。
____________
「いるま、最近元気ないね」
教室で声をかけられて、なんとなく笑ってごまかす。
らんのこと、みんな何も聞いてこない。
俺が何をしたか、誰も知らないから。
でも、もし誰かが俺に聞いてきたら、
たぶん俺はこう答える。
「俺が、壊した」って。
____________
あいつがいなくなってから、
気づいたことがある。
らんは、ただ優しいだけじゃなかった。
あいつの「大丈夫」は、俺のために使われてて、
あいつの「ごめん」は、俺の怒りをやわらげるために出てきた言葉で。
ほんとうの気持ちは、
ずっと飲み込まれてたんだ。
そして、気づいた頃には、
俺の手の届かないところまで、
らんは“優しさ”ごと消えてた。
____________
金曜日の放課後。
俺はついに、あいつのクラスの前まで行った。
「……いるま?」
らんの声がした。
前と、変わらなかった。
見た目も、表情も。
ただひとつだけ違ったのは――
俺を見る目が、すごく遠かった。
____________
「ちょっとだけ、話せる?」
俺が聞くと、らんは笑った。
「……いいよ。場所、変えようか」
近くの河川敷まで歩いた。
この道、前に一緒に歩いたことがある。
あのときは、らんが俺の袖を掴んでた。
今日は、俺がずっと手を伸ばしたかった。
でも、掴むにはもう、遠すぎた。
____________
「……元気だった?」
なんとか声を出した俺に、
らんは優しくうなずいた。
「うん。元気だよ。……いるまは?」
「……元気、だったと思ってたけど。お前いなくなってから、全然だった」
「……そうなんだ」
らんの笑顔は、柔らかかった。
でも、何も映してなかった。
____________
「らん」
「ん?」
「……戻ってきてほしい」
沈黙が落ちた。
風が吹いて、葉っぱがカサカサと音を立てる。
らんは、うつむいたまま、
ポツリと小さく言った。
「ねぇ、いるま。ひとつだけ聞いてもいい?」
「……ああ、なんでも」
「俺のどこが、**“めんどくさかった”**の?」
心臓が、ぎゅっと音を立てた気がした。
「……っ、あれは……」
「本音だったんでしょ?」
らんは、笑ってた。
でも、目だけが笑ってなかった。
「俺、全部飲み込んできたよ。
“しつこい”って思われたくなくて、
“重い”って嫌われたくなくて、
何も言えなかった。ずっと、怖くて。」
「……わかってる、今は。
お前のこと、ちゃんと見てなかった。気づいてたのに、何もしなかった」
「そうだね。でも、それって……」
らんは、にっこり笑って言った。
「俺が”壊れてから”気づいたって、遅いんだよ」
____________
沈黙。
それがすべてを語ってた。
ああ、遅かったんだ。
もう、“やり直し”の地点には戻れないんだ。
「……じゃあ、もう無理なの?」
俺が聞いた。
震えてた。情けなかった。
あんなに突き放したくせに、
今になってすがってる自分が、最低だった。
でも、言わずにいられなかった。
らんはしばらく考えてから、
ほんとうに優しい声で言った。
「好きだったよ、いるま。
ほんとに、大好きだった。
でももう……“好きでいること”すら、怖いんだ」
____________
その日から、俺たちは口をきいてない。
同じ校舎にいるのに、話さない。
クラスは違うけど、すれ違うことはある。
けど、お互い、目を合わせない。
俺は、らんに嫌われてない。
でももう、愛されてもいない。
俺が壊したんだ。
あの、優しさを。
____________
今でも夢に見る。
あのとき、
「ごめん」じゃなくて「俺が悪かった」って言えてたら、
まだ手を繋げてたのかなって。
でももう、
その手は、誰にも掴まれてない。
ただ、
俺の知らない誰かに――いつか届くことを願ってる。
俺が届かなかった分まで。
____________
らんが「もう怖い」って言った日。
俺は何も言えなかった。
言葉が浮かばなかったんじゃない。
どんな言葉を言っても、軽くなる気がして言えなかった。
でも、俺は逃げなかった。
その夜、スマホを開いて――
自分のすべてをさらすつもりで、メッセージを送った。
____________
『なあ、ほんとにもう無理か?
俺、たしかにひどいこと言った。
でも、離れるのは違うって今ならわかる。
お前の“優しさ”に甘えて、
俺はちゃんと向き合ってこなかった。
でも、ちゃんとやり直したい。
お前に「ごめん」じゃなくて、「ありがとう」と「ごめん」を言い直したい。
それでもダメなら、俺、ちゃんと諦める。』
____________
既読は、すぐつかなかった。
たぶん、見てないふりをされたのかもしれない。
もしくは、本当に迷ってたのかもしれない。
でも翌日の昼。
教室の扉が開いて、
らんがひょっこり顔を出した。
「ちょっとだけ、時間ある?」
____________
屋上。
人気のない場所に、俺たちは並んで座った。
らんは何も言わない。
俺も、言葉を選びすぎて、何も言えなかった。
けど、逃げたくはなかった。
だから、言った。
「俺、お前のこと……“めんどくさい”とか、“重い”とか、あれ……本心だった」
らんが、一瞬だけ目を伏せた。
「でもな、それは――
お前が俺に全部預けてくれてたのに、
受け止める器が俺になかっただけだ。」
「お前が悪いわけじゃない。
俺が、自分の未熟さをお前のせいにしただけだった」
「……」
らんは、ぽつりとつぶやいた。
「俺ね、嫌われてもよかったんだよ」
「え?」
「本音、ぶつけてくれるなら、それで良かった。
“嫌いだ”って言われても、向き合ってくれるなら、
俺、まだ頑張れた。
でも“めんどくさい”って、価値ごと否定されたみたいで苦しかった」
俺は何も言えなかった。
それが事実だったから。
____________
「でも……まだ、いるまのこと、嫌いになれてない」
「……」
「だから、もう一回くらい、好きでいてもいい?」
喉が詰まった。
涙が出るわけじゃなかった。
でも、心臓が強く打って、息が詰まった。
「俺は……お前に“許してほしい”んじゃない。
もう一回、選んでほしいんだ」
「……うん」
「優しさも、重さも、全部まるごと抱えて、
俺の隣にいてくれるなら、
今度は、俺もお前の重さになりたい」
らんが少しだけ笑って、
小さくうなずいた。
____________
再出発って、劇的なもんじゃない。
その日も、手は繋がなかった。
キスも、なかった。
でも、教室に戻るとき、
らんが俺の袖をちょっとだけ掴んだ。
前みたいに、怖がるみたいな力じゃなくて、
ほんの少し、安心を求める力だった。
それだけで、
俺はもう一度、
ちゃんと好きになれるって思った。
𝐹𝑖𝑛.