テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
幼稚園
その公園は、俺といるまの
「いつもの場所」だった。
ブランコは少し錆びてて、
滑り台は夏になると触ると熱くて、
砂場の端には、誰が置いたのか分からない
バケツがずっと転がっている。
それでも、放課後になると俺たちは
当たり前みたいにそこに集まっていた。
「なつ、今日なにして遊ぶ?」
そう聞いてくるいるまは、
俺より少しだけ背が高くて、
同い年のくせに、ちょっとだけ
大人びて見えた。
「ブランコ。いるまくん、押して」
「……またそれ?」
そう言いながらも、ちゃんと後ろに回って
押してくれる。
強く押しすぎないところが、
いかにもいるまらしい。
風が顔に当たって、少しだけ怖くて、
でも楽しくて、
俺は何度も何度も前に揺れた。
「ねぇ、いるまくん」
「ん?」
「俺たちさ、大きくなっても
ここ来ると思う?」
なんとなく、聞いてみただけの言葉だった。
でも、いるまはブランコを止めて、
少しだけ考えるみたいに黙り込んだ。
それから俺の前に回ってきて、
いつもより少しだけ真剣な顔で言った。
「……じゃあさ、約束しよう」
その時の空の色とか、風の匂いとか、
なぜかその瞬間だけ、やけにはっきり
覚えてる。
いるまは、俺の手をぎゅっと握って――
「―――― 約束な」
何を言われたのかは、
その時はよく分からなかったのに。
なのに、胸の奥が、
変にあったかくなったことだけは
覚えている。
ーーーー
小学生
なつとは、しょっちゅう喧嘩してた。
本当に、どうでもいいことで。
どっちが先にゲームをやるかとか、
どっちがサッカーのゴールキーパーを
やるかとか、
帰り道をどっちから回るかとか。
「それ、俺が先に言っただろ!」
「は? 絶対俺のほうが先だし!」
気づけば、いつもそんな感じだった。
周りから見たら、たぶん「仲がいい」
って言われるんだろうけど、
正直、俺からしたら
「なんでこんなに合わないんだ」
って思うことの方が多かった。
むかつくし、うるさいし、
すぐ調子に乗るし。すぐケガしてなくし。
だからある日、また喧嘩して、
なつが先にどこかへ行ってしまった時、
俺は一人で帰った。
……その日は、やけに静かだった。
ランドセルが重いとか、
夕焼けが眩しいとか、
そういうのとは違う。
胸の奥が、落ち着かない。
「……別に、あいつじゃなくてもいいだろ」
そう思おうとしたのに、
公園の前を通った瞬間、無意識に足が
止まった。
ブランコも、滑り台も、砂場も、
全部、いつも通りそこにあるのに。
――なつがいない。
それだけで、景色が変に見えた。
「……意味わかんねぇ」
そう呟いた自分の声が、
やけに小さく聞こえた。
次の日、学校でなつは普通に友達と
笑ってて、
それを見た瞬間、なぜか胸の奥が
チクッとした。
別に、俺じゃなくてもいいみたいで。
……いや。
違う。
「……あいつじゃなきゃ、だめだろ」
なんでそう思ったのかは分からない。
理由なんて、うまく言えない。
ただ、
どんなに喧嘩しても、
どんなにむかついても、
なつがいない放課後なんて、
想像できなかった。
放課後、結局俺は公園に行って、
少し遅れて、なつも来た。
「……昨日のこと、まだ怒ってる?」
「別に」
そう言ったら、
なつは少しだけ不満そうな顔をして、
でも、何も言わずに隣に座った。
それだけで、なぜか安心してしまった。
――あの時の約束の意味は、
まだよく分からない。
でも、
「こいつがいなくなるのは嫌だ」
って気持ちだけは、たぶん、
もうその頃からあったんだと思う。
ーーーー
中学生
中学生になって、俺といるまくんは
同じクラスにならなかった。
それだけで、世界が少し変わった気がした。
小学校の頃は、放課後になれば
当たり前みたいに一緒に公園に行って、
喧嘩して、仲直りして、
また次の日も一緒で。
それがずっと続くんだと、
なんとなく思ってた。
でも、中学生になった途端、
「クラス違うから、先帰ってて?」
そう言われる日が増えた。
「……あ、うん」
口ではそう答えるけど、
心のどこかが、少しだけ置いていかれた
みたいな気がしてた。
いるまくんには、俺の知らない友達が
できていく。
バスケ部のやつらとか、
同じクラスのやつとか。
楽しそうに笑ってるのを見るたびに、
胸の奥が、変にざわついた。
「……なんだよ、…、これッ 」
別に、俺のものじゃないのに。
なのに、
俺の知らない場所で笑ってるのを見るのが、妙に気に食わなかった。
それでも、放課後になれば、
結局俺たちは公園で会った。
「今日、遅かったな」
「部活の見学、付き合わされて」
「ふーん」
なんでもない会話。
小学校の頃と変わらないはずなのに。
でも、どこか噛み合わない。
いるまくんの話の中に、
俺の知らない名前が増えていくたび、
胸の奥が、少しずつ冷えていく気がした。
ある日、俺はわざと聞いてみた。
「……なあ、最近さ、あのバスケ部の
やつらとばっか一緒にいるよな」
「まあ、同じクラスだし」
「……ふーん」
それだけ。
それだけなのに、
なんでこんなに、むかつくんだろう。
「別にいいじゃん」
いるまくんは、そう言って、
少しだけ困った顔をした。
「なつとも、こうして会ってるだろ」
――それが、余計に嫌だった。
“こうして会ってる”って言い方が、
なんだか、義務みたいに聞こえたから。
「……じゃあさ」
気づいたら、口が勝手に動いていた。
「そのうち、俺と会うのやめるの?」
いるまくんは、少しだけ目を見開いて、
それから黙り込んだ。
「……なんで、そんなこと言うんだよ」
「別に」
嘘だ。
本当は、
“そのうちいなくなるんじゃないか”って、
ずっと怖かった。
公園に一人で座って、
ブランコを見て、
「来ないな」って思う日が来るん
じゃないかって。
「……俺は、そんなつもりない」
いるまくんは、そう言った。
でも、その言葉は、
なぜかあまり安心できなかった。
だって、
「今は」
って、聞こえた気がしたから。
その日から、俺は少しだけ、
いるまくんを意識するようになった。
誰と話してるか。
誰と帰ってるか。
誰と笑ってるか。
気づいたら、目で追ってた。
「……気持ち悪」
自分で思う。
でも、やめられなかった。
ある日、
俺が先に公園に着いて待っていると、
知らないやつと一緒に来た、
いるまくんを見た。
同じクラスの、バスケ部のやつ。
「……あ」
向こうも俺に気づいて、
少しだけ気まずそうにした。
「こいつ、なつ。小学校からの……」
「幼馴染」
勝手に、そう言葉が出た。
相手は「へー」と笑って、
「じゃあ、邪魔かな」
って、軽く言って去っていった。
その背中を見送りながら、
胸の奥が、ちくちくと痛んだ。
――邪魔?
俺は、邪魔な存在なのか?
「……ごめん」
いるまくんが、小さく言った。
「なにが」
「……待たせた」
それだけ。
それだけなのに、
なぜか、無性に腹が立った。
「……もう、いい」
「なつ?」
「別に、俺いなくてもいいだろ」
言ってから、後悔した。
でも、止められなかった。
「どうせ、そのうち来なくなるんだろ」
いるまくんは、
はっきりと戸惑った顔をした。
「……なんで、そんなこと言うんだよ」
「だって、最近――ッ」
そこで、言葉が詰まった。
“俺より、そっちのほうが楽しそうだから”
なんて、言えるわけがなかった。
少しの沈黙のあと、
いるまくんは、少し強い声で言った。
「……俺は、ずっとなつに会いたいよ」
その目は、妙に真剣だった。
「約束……」
そこまで言って、口を止めた。
――約束。
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「……それ、まだ覚えてるの?」
俺が聞くと、
いるまくんは、少しだけ目を伏せてから、
頷いた。
「忘れるわけないだろ」
その言い方が、
あまりにも当たり前みたいで。
それだけで、
さっきまでの不安が、少しだけ静まった。
……でも。
それと同時に、
別の気持ちが、はっきり形を持ち
始めているのを、俺は自覚してしまった。
――取られたくない。
――いなくなられたくない。
――俺の、だ。
「……俺さ」
気づいたら、そう呟いていた。
「いるまくんが、他のやつとばっか
一緒にいるの、嫌なんだけど」
言ってから、心臓がうるさくなった。
いるまくんは、少し驚いた顔をして、
それから、困ったみたいに笑った。
「……ははw独占欲強すぎ」
「うるさい」
でも、否定はできなかった。
その日、二人でブランコに
並んで座りながら、
俺は空を見上げて思った。
小さい頃にした、あの約束。
中身は、もうはっきり覚えてないのに。
――あれがある限り、
いるまくんは、俺のそばにいる。
そう、どこかで信じきっている
自分がいた。
そして同時に、
――もし、あれがなかったら?
そんなことを考えてしまうくらいには、
俺はもう、いるまくんを「特別」に
思ってしまっていたんだと思う。
ーーーー
高校生
高校でも、俺となつは同じ学校に進んだ。
それだけで、正直、少し安心していた。
クラスはまた別だったけど、
もう中学生の時みたいに、不安で仕方ない、ってほどじゃない。
だって、
「いるま、今日一緒に帰れる?」
放課後、当たり前みたいに
そう言ってくるのは、
今も変わらずなつだったし、
「先に行ってるぞ」
って言えば、
「待って、すぐ行く!」
って、ちゃんと追いかけてくる。
それだけで、十分だった。
公園に行く頻度は減ったけど、
その代わり、帰り道はずっと一緒に
帰るようになった。
コンビニに寄ったり、
新しくできた店の話をしたり、
本当に、どうでもいい話ばっかり。
でも、不思議と飽きなかった。
なつは、少し背が伸びて、
声も前より落ち着いて、
笑い方も、どこか大人っぽくなった。
……たまに、妙にドキッとする。
「……なつ、ちょっと黙れ」
「は? なんで」
「なんでもない」
心臓がうるさいのを、誤魔化しただけだ。
中学生の頃より、なつはあまり
俺に絡まなくなった。
他の友達とも普通に話すし、
部活のやつらとも楽しそうにしてる。
それを見て、
前みたいに不安になることは、
もうほとんどなくなった。
……でも。
代わりに、別の感情が増えた。
その日は、なつと駅前で少し時間を
潰してから帰る予定だった。
ゲーセンに寄って、
なつがクレーンゲームで無駄に
お金を使って、
俺が横から「やめとけって」って言う。
いつもの流れ。
「なつ、ほら、また落ちた」
「うるさい、次で取れるし」
「それ、さっきも言ってた」
そんなやり取りをしていた、その時だった。
「なつじゃん」
後ろから、声をかけられた。
振り向くと、
なつのクラスのやつらが二人、立っていた。
「なにしてんの?」
「え、いるまと帰るとこ」
なつは、いつも通りの調子で答える。
「相変わらず仲いいなー」
そう言って、相手は笑った。
……別に、それだけだ。
それだけのはずなのに。
「なつ、今日このあと暇?
ちょっと寄りたいとこあるんだけど」
「えー……」
なつは、ちらっと俺の方を見る。
「……どうする?」
その一言で、
胸の奥が、妙にざわっとした。
“どうする?”って、なんだ。
俺に聞くなよ、って思うくせに、
同時に、「断れ」って思ってる
自分がいて、
そのことに自分で少し驚いた。
「今日はいるまと帰る日だし」
なつは、そう言ってくれた。
それだけで、
正直、ほっとしてしまった。
「えー、たまにはいいじゃん」
「また今度な」
そう言って、なつは俺の方に戻ってくる。
……それで終わりのはずだった。
でも、
「幼馴染だっけ? へー」
相手が、俺の方を見て、
そんなことを言った。
「ずっと一緒なんだ、すげーな」
軽いノリ。
悪気なんて、たぶんない。
……なのに。
「……別に、すごくない」
気づいたら、少しだけ、
声が硬くなっていた。
「そう?」
相手は首をかしげて、
なつの方を見て笑う。
「でもさ、なつ、最近クラスでも
人気あるし。取られないようにしないと」
――取られる。
その言葉が、やけに耳に残った。
「……は?」
なつは、少し困った顔で、
「なに言ってんだよ」
って笑ったけど。
胸の奥が、妙にざわついて、
そのあと、しばらく、何を話したのか
よく覚えていない。
二人と別れて、
俺となつは、また並んで歩き始めた。
「……さっきのやつら、うるさかったな」
俺がそう言うと、
なつは少しだけ不思議そうな顔をした。
「そう? 普通じゃない?」
「……そうかよ」
……普通なわけないだろ。
勝手に話に入ってきて、
勝手に「取られる」とか言って。
意味わかんねぇ。
「いるま、なんか機嫌悪くない?」
「……別に」
嘘だ。
むしょうに、腹が立っていた。
理由なんて、ちゃんと説明できないけど。
「……なつ」
「ん?」
「さっきのやつらと、よく一緒にいるのか」
「まあ、クラス同じだし」
それだけの答え。
それだけなのに、
胸の奥が、また少しだけ重くなる。
「……ふーん」
「なに、その反応」
なつは、少し笑いながら言った。
「もしかして、妬いてる?」
「は? なんで」
即座に否定したけど、
なつは、少しだけ楽しそうに目を細めた。
「へー」
「……違う」
たぶん、顔に出てたんだと思う。
なつは、少しだけ笑ってから、
急に真面目な声で言った。
「俺は、ちゃんと、いるまくんと帰るって
言っただろ」
「……知ってる」
「なら、いいじゃん」
そう言って、
少しだけ、俺との距離を詰めて歩く。
肩が、軽く触れる。
それだけで、
さっきまでの苛立ちが、少しだけ静まった。
……単純すぎる。
「……なつ」
「んー?」
「変なやつに、ついてくなよ」
「なにそれ、過保護」
そう言いながらも、
なつは、どこか嬉しそうに笑った。
「大丈夫だって。いるまいるし」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
――帰る場所。
それが、俺のことだって、
勝手に思ってしまう自分がいる。
……たぶん。
俺が思ってる以上に、
なつは、俺の中で、もう「特別」
なんだと思う。
肩がぶつかりそうになる距離とか、
自販機の前で、どっちが先に押すかで
小さく言い合うとか、
そういう、どうでもいい一瞬が、
やけに大事に思えてしまう。
「なあ、いるま」
「ん?」
「今日さ、もうこんな時間だけど
たまには公園寄らない?」
その一言で、胸の奥が少しだけ熱くなった。
「……久しぶりだな」
「たまには、いいじゃん」
ブランコは相変わらず古くて、
滑り台も、相変わらずで。
でも、二人で来ると、
ちゃんと「いつもの場所」だった。
「……懐かしいな」
なつがそう言って笑う。
その横顔を見て、
俺は一瞬、言葉に詰まった。
――ずっと、こうしていられたらいいのに。
でも、それと同時に、
――いつかは、変わるんだろうな。
そんなことも、分かっていた。
「……なつ」
「なに?」
「俺さ」
名前を呼んだだけなのに、
なつは少しだけ、不思議そうな顔で
こっちを見る。
……言えるわけがなかった。
あの約束のことも、
今の気持ちのことも。
「……いや、なんでもない」
「なにそれ」
なつは不満そうに言いながらも、
ブランコを軽く蹴って、また揺れ始めた。
夕方の風の中で、
鎖の音が、規則正しく鳴る。
「……なつ」
「んー?」
「俺、ちゃんと、そばにいるから」
なつは一瞬きょとんとして、
それから、少しだけ照れたみたいに
目を逸らした。
「……今さらなに言ってんの」
「今さら、だけど」
そう言いながら、俺も少しだけ笑った。
言葉にできないものは、まだ多い。
でも、
帰る場所が同じで、
並んで歩く道が同じで、
笑うタイミングも、だいたい同じで。
それだけで、今は十分だった。
――18歳になる、その日までは。
たぶん、
この関係は、まだ、壊さなくていい。
ーーーー
18歳
その公園は、驚くほど何も変わって
いなかった。
ブランコは相変わらず少し錆びていて、
滑り台も、相変わらず古くて、
砂場の端には、相変わらず誰のものか
分からないバケツが転がっている。
「……懐かしいな」
なつがそう言うと、
いるまは小さく頷いた。
「ここ、久しぶりだな」
高校を卒業して、
進路の話とか、バイトの話とか、
そういう「大人の話」が増えた最近。
気づけば、二人でここに来ることは、
ほとんどなくなっていた。
ブランコに並んで座る。
鎖が、きい、と小さく鳴った。
しばらく、沈黙。
夕方の風は、昔より少しだけ冷たく感じる。
「……なあ、いるま」
なつが、ぽつりと切り出した。
「俺たちさ、もう18だな」
「……ああ」
「大人、だってさ」
そう言って、なつは少し笑った。
でも、その笑い方は、
どこか緊張しているみたいだった。
「……覚えてる?」
「なにを」
分かっているくせに、
いるまは、あえて聞き返した。
なつは、少しだけ視線を逸らしてから、
言った。
「……ここでさ、昔、約束しただろ」
風が、少し強く吹いた。
ブランコが、きぃ……と揺れる。
「忘れるわけないだろ」
いるまは、そう答えた。
その声は、思っていたより、
ずっとはっきりしていた。
「……俺が、言い出したんだから」
なつは、少し驚いたように、いるまを見る。
「覚えてるよ」
いるまは、ゆっくりと言った。
「『大人になっても、ずっといっしょに
いような』って」
なつの指先が、少しだけ震えた。
「それで……」
いるまは、少しだけ息を吸って、続ける。
「『大人になったら、
付き合ってください。』って」
なつは、思わず息を止めた。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「……ガキみたいな約束だろ」
そう言いながら、
いるまは、でも、少しも笑っていなかった。
「でも、俺は……一回も、
忘れたことなかった」
なつは、しばらく何も言えなかった。
小学生の頃。
中学生の頃。
高校生の頃。
喧嘩して、すれ違って、
不安になって、嫉妬して、
それでも、離れなかった理由。
「……俺さ」
なつは、ようやく口を開いた。
「正直、あの約束の中身、
はっきり思い出せない時もあった」
いるまは、黙って聞いている。
「でも」
なつは、ぎゅっと、ブランコの鎖を握った。
「“約束がある”ってことだけは、
ずっと覚えてた」
「それがあるから、
いるまはいなくならないって、
勝手に信じてた」
少しだけ、笑う。
「……ずるいよな」
「……ずるいな」
いるまも、同じように小さく笑った。
沈黙。
でも、今度の沈黙は、嫌じゃなかった。
「……なあ、なつ」
いるまは、なつの方をちゃんと見て言った。
「今なら、ちゃんと聞ける」
「……なにを」
「返事」
なつの心臓が、大きく跳ねた。
「俺、あの約束……今でも、本気だから」
子供の頃の約束。
でも、今はもう、子供じゃない。
「……もう一回、言う」
いるまは、少しだけ、緊張した顔で言った。
「俺と……付き合ってほしい」
なつは、一瞬だけ目を見開いて、
それから、ふっと笑った。
「……遅い」
「え」
「どんだけ待たせるんだよ
バーカ」
そう言いながら、
なつは少しだけ照れたように視線を逸らす。
「……俺の答えなんて、決まってるだろ」
それから、ちゃんと、いるまを見て言った。
「……よろしくお願いします」
夕方の風が、二人の間を通り抜ける。
ブランコが、静かに揺れた。
子供の頃の約束は、
18歳になって、ようやく、
本当の意味を持った。
「……なあ」
「ん?」
「大人になっても、ずうっといっしょ……
だからな」
「当たり前だろ」
そう言って、
二人は少しだけ、ぎこちなく笑った。
――ここから先は、もう「約束」
じゃない。ちゃんと、選んだ、未来だ。
コメント
2件
もうほんとに刺さりまくりました…ッ! お互いがお互いに執着してる感じ…好き過ぎます✨️✨️