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夢を見ていた。遠い記憶の夢を。
───最後に母を見た記憶。母に捨てられた記憶。
その記憶は私がまだ5歳の頃の記憶だった───。
「咲幸、いい?ここで待っててね。お母さんはすぐに戻ってくるから。」
「······うん!分かった。待ってる!」
誰よりも優しくて、大好きな母。
生まれた時から父親の存在を知らない私にとって、母は唯一の家族で大事な人だった。
だからあの時の私の返事とは反対に心の中では不安でたまらなかった。
(私も一緒に行きたい······!)
この頃の私は一人になるのが嫌だった。
けれどここで我儘を言ってしまったら、母は困ってしまう。
これ以上、母が困らせないように私は我慢をした。
母の方を見た時は、既に街灯がある暗い道に走って行ってしまった。
母の後ろ姿を見てもなんとか泣くのを我慢して、母が戻ってくるのをずっと待っていた。何分経っても、何時間たっても······。
けれど母が戻ってくる事はなかった······───。
───そこで夢は途切れた。
目が覚めた時に視界に映っていたのはオレンジ色の天井だった。
「ハァハァ······『また』だ。」
(······『また』あの夢だ。)
私は布団から起き上がりながら溜息をついた。
時計を見ると短い針は2時に指していた。寝てから4時間は経っていた。
「······あと3時間。」
早く起きて、みんなの朝ご飯とお弁当を作らないと······。
私はもう一度目を閉じ、眠りについた。