‘一人で来たのか?’
「颯ちゃんのお店に行ってから、預けてた自転車に乗って…ふふっ、超短距離なんだけど気持ち良かった」
‘そうか、いい日だな’
「うん。それでね、三岡先生へのお支払いをお父さんがしてくれてたって聞いたの。ありがとう」
‘そんなことか。先生に良子を託す一心だったよ。先生にはお金で表せないような感謝をしている’
もうチーズを入れなきゃ…一旦加熱を切ると、気づいた颯ちゃんがチーズを冷蔵庫から出してくれる。
「私も先生には本当に感謝してる。お金のことはありがとうね。お母さんにも言っておいて」
‘わかった。今もう家か?’
「うん、今から夕食」
‘そうか、じゃあな’
通話を終えた時には、たっぷりのチーズがお米に絡んだこってりリゾットが出来ている。
「これ、なんちゃってか?いつもうまいよな」
颯ちゃんは鍋ごとテーブルの中央に置くつもりのようで、慌ててシリコンの鍋敷を持ってついて行く。
「お米から作っていないから‘なんちゃって’って言ってるんだけど」
「俺が今‘リョウのリゾット’に改名した」
「あははっ…ありがとうございます。たくさん召し上がれ」
フーフーしながら食べ終わったあと
「颯ちゃん、ありがとう」
「どうした?急に………」
冷めたチーズが付いたリゾットの鍋はすぐには洗えない。
シンクで水をはり、明日の朝は颯ちゃんの昼食におにぎりを作ろうと、炊飯器にお米をセットしながら自然に出た
‘ありがとう’
「私の半歩も1歩も、颯ちゃんが居てくれるから安定してると思うの。もし後退しても大丈夫だと思えるのも、颯ちゃんが一緒に居てくれるからだよ。だから、ありがとう」
リビングに行こうとしていた颯ちゃんは、ゆっくりキッチンへ戻ってくると何も言わずそっと私を抱きしめた。
彼はただ、そっと私を抱きしめ頬を擦り寄せる。
私も……そっと彼の背中に腕を回した。
「特別なことはできない。すごい贅沢ができるわけでない。でもリョウの側には…ずっと一緒にいるから…リョウが進んだり後退したり、泣いたり笑ったりするのを一生一番近くで俺に見せてよ、リョウ」
「うん」
「俺の可愛い奥さんになって」
「…可愛い奥さん…かはわからないけど、颯ちゃんの奥さんにしてくれるの?」
「リョウは何やっても可愛いから、可愛い奥さんだろ?」
「じゃあ、颯ちゃんは格好いい旦那様?」
「間違いない」
「ふふっ…そういうところも格好いい」
「忠志くんと同じ日に俺たちも入籍する?」
「チカさんの誕生日だって」
「それは気にしないけど、忠志くんもチカさんもリョウのこと大切にしてくれるからサプライズ。あと、おばちゃんも喜びそうだろ?」
「…うん、颯ちゃん…ありがとう。お母さんとは今の距離感のまま仲良くやっていくつもりだから…」
「それでいい。俺もおばちゃんと仲良くする。‘お母さん’って呼ぶか…おばちゃん泣くかもなぁ」
「そうかも」
颯ちゃんは少し体を離し、私の頬を撫でてから口づけた。
「リョウ…愛しくて…とても愛してる」
[完]
コメント
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大事なこと抜けてしまっていました🙇♀️ ヒューマンドラマ、ランキング1位おめでとうございます🍾🥂🥳
まぁさん😭完結おめでとうございます🍾 なんか、うん、上手く言葉が出てこないのですが、それぞれの心葛藤、価値観、人との交わり、そしてスゴイ裕福ではないけど比べることではないけど、幸福感と充実感を覚えました。 リョウちゃんと颯ちゃんの幸せをずっと願い続けていきたい🍀心に残る作品です˘͈ ᵕ ˘͈ ✨