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「アイは全てにおいて異常だった。
アイは【あのお方】を信じられなかった。
アイは【魔法】を使えなかった。
アイ以外にそんなモノはいなかった。
アイは孤独だ。
だから、家族である俺たちだけは、愛してあげたい。
でも、アイにとってはその愛すらも邪魔なのかもしれない。
家族 であっても、私たちはアイを理解できないし、アイも私たちを理解できない。
アイに本当の意味で、寄り添えるのは【信者】でない君だけなんだ」
「すみません、グアニンさん。少し話が難しくて、よくわからなかったんですけど、、、 」
「あなた、格好をつけて意味深に話すのはやめなさい」
「仕方がない。もう少しゆっくり、わかりやすく話そうか」
「ああ、格好をつけてたんですね、、、」
「アイはこの町の誰とも違うんだ」
「それは悪い意味で、と言う事ですか?」
「ああ、そうだ。この町のモノたちが崇拝しているお方がいるんだが、アイだけは例外でな。どうしても、そのお方を信じられないそうなんだ」
「なるほど、、、」
「だから、アイは俺たちも完全には信頼できず、辛いことを吐き出せずにいるんだ」
「だからね、お願いがあるの」
「メグル君。アイの本音を引き出してくれないか?」
「アイの本音、、、」
「そうだ。アイはこの世に作られてから、一度も自分を外に出した事が無い可哀想な子なんだ。同情ではなく、親として何とかしたいが、俺たちには何も出来ない。君が代わりにしてくれないだろうか」
「でも、、、」
アイの境遇。それは俺と同じと言っていいほど似ている。だからこそ、俺にはわかる。
「アイはそれを望んでいるんでしょうか、、、?」
「どういうことだ?」
「俺を愛が完全に信頼してる事が前提になってしまっているじゃないですか。もし、それが違ったら。本人が信頼できると思っていない相手に辛いことを吐き出させようとするなら、それはただの俺たちの自己満なんじゃないですか」
「メグル君。アイは君を完全に信頼できてるよ」
「そんな訳、、、」
「君は確かこう聞いたよね、『アイが何故自分に拘るのか』って。それはね、、、
いや、これはアイから直接聞いたほうが良い。大丈夫だ、アイは君を信じられてるよ」
「そんな言い方じゃ、わからないですよ」
「メグル君。私からもお願い、、、」
正直に言うとそんな事は面倒だ。したく無い。だが俺は二人に匿ってもらっている。いくらそれを頼んだのがアイとはいえ、その恩返しはするべきだ。
「、、、はい。明日話してみます」
「ありがとう、メグル君」
「本当にありがとう」
話はここで終わった。
俺はアイの事情も知らずに「ホント暇だな」などと言ってしまったことを悔いた。
もし俺が二人の願いを了承したのが、その罪滅ぼしのためなら。それこそ、自己満だな、、、
***
翌日ー
「あ、メグルおふぁよー。朝早いんだねー」
ボサボサの寝癖でアイがリビングにやって来た。せっかくの整った顔が台無しだ。
「アイ、この後話したい事があるんだけど良いかな?」
「うん良いよ。ちょっと髪濡らしてくるから待ってて」
アイはかなり長めに寝ていたので、ハニーさんとグアニルさんは働いている最中だ。
そのため、今この家にいるのは俺とアイだけ。昨日の約束を果たすにはこのタイミングが丁度良いだろう。
「メグル。準備できたけど話って何?」
まだ乾ききっていない髪でアイが言った。
彼女の髪からポタポタと水が垂れ落ちているのが若干気になるが、そういう大雑把なところも含めてのアイなのだろう。こういう事を毎回気にしていたら、きっと彼女と生活は出来ない。
「うん。じゃあ話すから、とりあえず座ってよ」
アイはテーブルを挟んで俺と向かい合わせになる位置に座った。
テーブルにも水が落ちている。この調子なら話し終わる頃には水溜りが出来ているかもしれない。
「メグル、、、 実は私も言わなくちゃいけない事があって。先に良いかな?」
「ああ、良いよ」
アイの言わなくちゃいけない事というものに全く見当がつかない。
俺はアイについて正直よく知らない。彼女の俺に対する態度は基本的に冷たく、話す機会もそこまで多くは無かった。
言わなくちゃいけない事、、、
俺は何か彼女に無礼を働いてしまっただろうか。
「メグル、ごめん! 私、私のためにあなたを助けた。あなたを報告せずに匿ったのも全部私のためだ」
アイは額をテーブルに当てながら言った。
今までずっと疑問だった。なぜアイが、あそこまでして俺を匿ってくれたのか。だがそうか、アイ自身のためだったのか。
「アイ、顔を上げてよ」
アイは顔を少し上げて、上目遣いで俺を見た。
その目には許しを乞うようなものでは無く、償いはするといった覚悟が籠っているように感じた。
「話してくれてありがとう。でも俺は別にアイを悪いとは思わないよ」
「本当、、、?」
「当たり前だろ。理由がどうであれ、俺がアイに救われた事実は変わらないし、自分の利益を考えずに助けたって言方が信用出来ないよ」
それを聞いてアイの表情が少し緩む。
「良かった。安心した、、、」
「ところでアイ。俺を匿うメリットって、何なんだ? 俺には思いつかなくてさ」
「ああ、それはね。私がこの町の変わり者って事は知ってるでしょ?」
「、、、! もしかして昨日の話、聞こえてたか?」
「うん。バッチリね。だから、父さんと母さんにお願いされてる事も知ってるよ」
「そうか。。。」
「話を戻すけどさ、私はこの町で酷い扱いを受けて来たよ。だから、正直ここから出たいの。それであなたに、元いた場所まで案内してもらいたかったのよ。まあ、場所もわからなければ、あなたに戻る意思もないみたいだけどさ」
「なるほど。じゃあアイ、俺の話したい事もそろそろ良いか?」
「え? だってそれは父さんと母さんに言われた内容じゃないの?」
「まあ、それも含まれてはいるんだけどさ。俺がこの町に来た理由ついて聞いてくれないか?」
「勿論良いよ」
「よし、絶対に他言無用だからな。俺の元いた場所でもさ、変なのが崇拝されてて俺は変人扱い。それで復讐してやろうって、とある人に言われて一度体制を整えるためにここに来たんだ」
「何それ凄い。というかメグル君もそういう扱いされてきたんだ」
「ああ、使えないと判断された奴の首が刎ねられたりさ。本当に意味がわかんないよ」
「それ、この村にもあるよ」
「本当?」
「うん。規則破ったら記憶消されたり、色々あるよ」
「規則破ったらなら、アイは危ないんじゃないか?」
「そうだね。死んじゃうね」
「それ大丈夫なのか?」
「うんうん、大丈夫じゃないよ。だから、私が死にそうになったらちゃんと守ってね」
「可愛く言っても無駄だぞ」
「、、、言った! 今可愛いって言った!」
「違う! いや違くは無いんだけどさ、、、 というかお前、急に明るくなったな!?」
「うん。なんかこういう扱い受けてきたのが私だけじゃ無いって、わかったら凄い安心してさ」
そうか、アイは俺とは違って家族も異常に見えた。俺なんかよりもきっと辛い思いを沢山してきたのだろう。
「でも、変だな、お前はやっぱり」
「そういうメグルだって、変だよ」
「まあ俺たち、同じ変人だもんな」
『ぷっ、、、 はははははーー!!』
俺たちは一緒に笑った。
この時間は俺の今までの人生で最も幸せな時間だろう。
だから、もっとしっかりと噛み締めるべきだった。
俺は初めての幸せで知らなかったのだ。
幸せが崩れるのはあっという間だという事を。
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