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タイトル:「雨の中の相合傘」
あたし、前田波瑠。今日も学校が終わって、友達と一緒に帰ろうと思ってた。でも、急に空が暗くなって、ザァァァァっと大きな音を立てて雨が降り始めたんだ。
「あー、やばい!傘持ってない!」
終わった。詰んだわ
友達はすぐに、家が近いからって走り出したけど、あたしはどうしても家まで歩かないといけないし、雨もどんどん強くなる一方。仕方ない、誰かの傘を借りるかと思って周りを見渡したけど、みんな急いでいるから声をかける暇もない。
その時、後ろから声をかけられた。
「波瑠?」
振り向くと、砂原蒼空が立っていた。あたしのクラスメートで、別に仲が良いわけじゃないけど、普通に顔を合わせれば話す程度の関係。でも、なぜかその顔を見た瞬間、心臓が少し早くなる気がした。
「あ、蒼空……!」
蒼空は少し濡れて、髪が顔にかかっていた。見上げると、彼は少し照れたように口元を緩めて、そして言った。
「波瑠、傘持ってる?」
「ううん、持ってないけど……。」
そう言うと、蒼空は手に持っていた大きな黒い傘を差し出してきた。
「なら、これ、一緒に使う?」
「え?でも、いいの?」
「うん、どうせ一緒に帰るんだし、濡れるよりはマシでしょ?」
あたしは思わずドキッとした。だって、あんなに大きな傘なのに、二人が入るにはちょっと窮屈じゃない?しかも、蒼空と二人きりなんて、いつもクラスでは少し遠慮しちゃってるあたしにとってはちょっとドキドキする。
でも、蒼空は全然気にした様子もなく、傘をあたしの方に向けた。…なんで気にしないの…?
「さ、行こう?」
どうしても断ることができなくて、あたしはうなずいて、蒼空の隣に立った。彼の肩と肩が少し触れる距離で、足を踏み出す。ちょっとだけ恥ずかしかったけど、雨の音がそれをかき消してくれる。
二人で歩くその瞬間、あたしの心はまるで雨の中に溶けていくような、そんな不思議な気持ちでいっぱいになった。
「波瑠、普段はどうしてるの?」
蒼空が何気なく話しかけてきた。あたしは少し考えたけど、何となく自分の気持ちを言葉にしてみたくなった。
「普段は……家まで走って帰ったりしてるけど、今日はちょっと…運が悪かったかも。」
「それは大変だね。あ、でも、今日みたいな雨の日も、たまには悪くないかもしれないね。」
蒼空は笑って、空を見上げる。
「どうして?」
「だって、こんなふうに誰かと一緒に帰れるから。」
その言葉を聞いて、あたしの胸はまたドキッとした。あたし、実は蒼空のこと、ちょっと気になってたんだ。でも、彼はいつもクールで、あんまり他の人に心を開いている感じがしなくて、どうしていいのか分からなかった。でも、今のこの瞬間、雨が降っているからこそ、ちょっとだけ二人の距離が縮まった気がした。
「あたしも、蒼空と一緒でよかった。傘も借りれちゃってラッキー!!」
思わず、そんな言葉が口から出てしまった。自分でもびっくりして、顔が赤くなる。
「うん、俺も。」
蒼空は照れたように小さく笑って、その笑顔がなんだかとても優しく見えた。
それから、二人は静かに歩き続けた。雨の中、あたしと蒼空の距離は少しずつ縮んでいく。相合傘をして歩くのがこんなに心地よいなんて、思ってもいなかった。
「また、こうやって帰ろうね。」
蒼空が突然言った。あたしは驚きながらも、うれしくて思わず頷いた。
「うん、いいよ。」
それからしばらく、二人は雨の音に包まれながら、静かに歩き続けた。何も言わなくても、何も必要なくても、この一緒にいる時間がとても大切に感じられた。
あたしの胸が、あたしでも気づかないうちに、少しずつ温かくなっていった気がした。
蒼空の隣にいるのはあたし。蒼空が何と言おうとあたしは隣にいる。
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