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しかしそんな紗理奈の新しい挑戦も、ジャンルを変更しようとした当初は、あまり上手く行かず
非道で華麗な殺人事件を書くのが得意な、ミステリー作家の水谷紗理奈が
児童書にジャンルを移行すると言った時は、出版業界にちょっとした騒ぎを起こし、評論家は誰もが売れないだろうと紗理奈を苦評した
しかし直哉だけがこれを面白いと捉え、場合によってはまったく売れず、潰れる可能性もある紗理奈の挑戦を「世の中を驚かせてやれ」と笑って応援した
その結果紗理奈はみごと「ジャンル変更した作家は売れない」という出版業界におけるジンクスを打ち破った
妻の才能を認めてくれて「自分のやりたいことをやれ」と励ましてくれる夫が傍にいることが、これほど自分を強く無敵にするのだと
直哉と結婚したことで、紗理奈は独身の時以上の自由を得たことに、彼には日々感謝せずにはいられなかった
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「それじゃ行ってくる・・・愛してるぞ」
「は~い!いってらっしゃ~い」
直哉が牧場に出かけようとしたが、紗理奈は従業員の洗濯に忙しく、ランドリー室から出勤する直哉に大声で声をかけた
最近ではお福やアリスを手伝って、執筆の合間に牧場の手伝いを進んで買って出ていた
3つあるランドリーを回し、外に干すのは重労働だが、カラッとお天道様の陽射しで乾く、極上の洗濯物は紗理奈のお気に入りになった
タオルも何もかもがとても良い匂いがする、お天道様の光は柔軟剤の、とても良い香りを引き出してくれる
東京にいた頃は24時間乾燥機を使っていたのだが、やはりどんなに良い柔軟剤を使っても、どこか乾燥機の中のステンレスの残り香がするものだった
しかしここへ来て、お天道様の素晴らしさを実感し、毎日洗濯をするのが紗理奈は大好きになっていた
「わぁっ!びっくしたー!」
振り向いた時に出かけたはずだと思っていた直哉が、腕を組んで入口に立っていたので、紗理奈は驚いて思わず、洗濯籠を落としそうになった
「ど・・・どうしたの?ナオ?忘れ物?」
慌てて彼の傍に行って顔を見上げる
ムスッ・・・「(愛してる)って言ったのに(愛してる)って返してくれなかった」
仏頂面の直哉が怒った声で言った、紗理奈は目をパチパチした
二人はじっと立ったまま見つめ合った、外でカラスがカァ~・・・と鳴いた
「え~と・・・出かけにあなたは私に(愛してる)と言ってくれたのに、私が(愛している)と言い返さなかった・・・それが嫌で帰って来たってこと?」
彼はその通りとばかりにコクンッと頷く、まだ顔は不満そうだ
また紗理奈は目をパチパチさせた
「そうね・・・それは私が悪かったわ、あなたが愛してると言えば、私も愛してると返さないといけないのね、これからは気をつけるわ」
「わかってくれればいいんだ」
ごめんなさいと彼にキスをすると、すぐに口を開けられ濃厚なキスを返された、紗理奈が彼の背中を(もうわかった、わかったから)とポンポンと叩く
「愛してる紗理奈」
「私も愛してる」
紗理奈は思った、もしかしたら彼はこれからどんどん、めんどくさい性格になっていくのだろうか?
それとも元からそういう所があって、本来の彼が出てきているのだろうか?
いずれにせよ、今まで愛を知らなかった彼が、一生懸命自分に愛情表現を求めてくるし、自分もそうしようとしている
たとえそれがどんなに幼稚だろうと応えてあげようと、紗理奈は心の中でおかしくなった
彼が可愛いらくて、愛しくてしかたがない
紗理奈は笑った、これから先どんな彼が現れても構わなかった
もう確信がある、この愛は一生続くものと
私は見つけたのだ
このハンサムで、少し性格がややこしくて、素晴らしい男性との愛はきっと死ぬまで続く
死んでさえ尚
まだ続くのだ
未だに愛しいおじいちゃんのお墓参りを欠かさない、私のおばあちゃんの様に・・・
おばあちゃんは紗理奈にいつも語っていた
「そりゃぁおじいちゃんは男前だった、あたしと二人、島一番の美男、美女でね、あたし達はそれはそれはお似合いだった・・・・」
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