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あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。
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「ったま痛ぇ…」
鈍い痛みの頭痛にこめかみを揉んでいれば、ゲーミングチェアにいたはずのニキくんがいつの間にか隣でじっとこちらを見てきた。
「なぁ、大丈夫…?」
「大丈夫だよ」
「でも、頭痛いって」
いつもは気にもしないくせに、熱を出した俺が異常なほど心配らしい。メンタルがグズグズになるモードに入ると、全ての事象を受け流せなくなるのは最近気づいたニキくんの習性だ。
大丈夫とは言ったが、もちろん大丈夫じゃない。頭は痛いし、目眩と耳鳴りは酷くなる一方で、熱も39℃から下がらない。
早く良くならなくちゃなぁと思う。そんな不安気な顔をされたらしんどいのはこっちなのに可哀想に思えて仕方がない。
「本当に大丈夫だよ。ありがとね、心配してくれて」
「顔真っ青なのに?すっげぇ体熱いのに?ほんとに大丈夫なん?」
「平気平気。さっきより良くなってきてるよ」
多分、とは口が裂けても言えない。それよりニキくんの方が心配だ。ずっと落ち着きなくソワソワしてるし、エキゾチックな顔立ちを印象付ける切長な目は、不安にグラグラ揺れて泣きそうにも見える。普段なら不安も不満もぱちっと瞬き一つで隠してしまえる人だからこそ、何か大きな不安があると想像に難くなかった。
「お茶でも飲もうか」
なんだか見ていられなくて、リラックス出来るハーブティーでも淹れようかと立ち上がれば凄い勢いでソファに戻された。
「いやいや、何やってんの。俺がやるからじっとしとけ」
「ふはは、ごめんごめん。ありがとう」
「んで、何飲むの」
「じゅうはっちーがくれたハーブティーあったでしょ。一緒にあれ飲もうよ」
「ああ、あの草とか花とか入っとったやつ」
「草って」
最近18号がハマっているらしいハーブティーはプレゼントという名の布教で半ば強引に渡されたものだ。ニキくんはあの通り色気のない感想しか持っていないが、りぃちょくんは「わぁハーブティーだ!」と18号とキャッキャしていたのも記憶に新しい。
キッチンではニキくんが不慣れな様子で説明書きを見ながらせっせと準備している。男どもはティーポットなんて持ってないでしょうと、わざわざティーバッグタイプをくれたので流石の彼でも作る事が出来たらしい。
ゴポゴポと凄い勢いでお湯を沸かすケトルをぼんやり見つめるニキくんの表情からは何も読み取れなかった。強いて言えば疲れてるんだろうなと分かるくらい。
そうだよね、疲れたよね。
最近は仕事も増えたし、寝る時間を削って編集したり会議をしていた。お互い忙しすぎて全然顔を合わせるタイミングがなかったから、プライベートな話は知らない。俺の知らない所で何かがあったんだろうと予想はしているけれど、無理に聞き出す事はしたくなかった。
仕事以外の会話が出来ていなかったから、聞いて欲しい話は山のようにある。ニキくんが淹れてくれたハーブティーを飲みながらポツポツと近況を話した。相変わらず体調は最悪なのでテンポ良くとはいがなかったが。
「最近、どう?」
隣に座っていたニキくんの肩の力が抜けたタイミングで問うてみた。
「別に。特に変わらんよ」
「そう?忙しそうじゃん。寝ないで編集もしてるし」
「そりゃ、まあ」
「充実してる感じ?」
「あー、そうね」
「楽しい?最近の活動」
「っ、」
中々ハッキリした言葉が出てこないので、少しだけ深く突っ込んでみた。
「……なんか、自由がない」
長い長い沈黙の後、溢れた言葉は簡潔すぎた。
そして何より、切実だった。
「外部の人と関わる事が多いと自分でスケジュール組み立てられないもんね」
「時間に追われるのは平気なんだけど、自分で決められないのが嫌でさぁ。でも仕事貰ってる立場だから文句も言えないし。…やだなぁ、全然ダメ。もーダメだ、おれ」
軽い口調とは裏腹に、自虐的な言葉が飛び出してくるもんだから驚いてしまった。能力の高さやストイックさは目を見張るものがあるが、それ以上に自由を望む彼には今の現状が相当息苦しいのだろう。
「ダメじゃないよ」
「なにが?」
「ニキくんは全然ダメじゃない。君はきっちりしてるからね、相手に合わせて自分を押し込めるから疲れるんだよ」
「きっちりって。全然寝坊も遅刻もしてますけど」
「人間性の話だってば。失礼がないようにとか、空気を悪くしないようにとか常に考えてるでしょ」
「いやまぁ、そうだけど…。そんなん当たり前じゃん」
「当たり前に出来ることじゃないよ。そんなの疲れるに決まってる。それがニキくんの良いところでもあるんだけどね」
褒め言葉を一切飲み込めないニキくんの心を解すように言葉を投げ続ける。
暫く褒め言葉で攻撃していたら、視線をウロウロさせてポツリと一言。
「僕、まだ大丈夫かな」
「きっと大丈夫だよ。でも、無理したらいけないからね。程々に」
「ありがと…」
やっと素直になってくれたらしい。これで少しは落ち着いたかな。
「ところでキャメ、体平気なん?…いや、俺の話聞いてもらっといて言うのも変だけど……」
「それは俺がやりたくてやった事だから。さっき薬も飲んだし平気。ほら、熱下がったんじゃない?」
彼の手で俺の首筋を触らせてみた。
「んや、全然」
「あれ、残念。じゃあ早く寝なきゃ」
「寝る?」
「うん。ニキくんも」
うつしたらいけないし一人で寝ようと思っていたけれど、寂しそうな顔を見せたからニキくんも誘った。もしこれで君が風邪を引いたら責任持って看病するからねと、心の中で宣言しておく。彼は何も言わず頷いて、俺の手を取り寝室へ歩き出した。熱すぎる手がひんやりしたニキくんの手の温度と溶け合う。もう少し混ざり合えたらいいなと願って、繋いだ手を強く握り直した。