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毒蛇の言葉を聞き、アニミダックがムツキの名前に全く聞き覚えがなかったため、本当に誰だそれ、といった不思議そうな顔をする。
「ムツキ? 誰だそれは? 俺の記憶には全くないが、誰かが名前を変えたのか?」
毒蛇はアニミダックの質問に首を横に振った。彼はますます分からないといった表情である。
「ムツキという男は、ユースアウィス様が御自ら新たにつくった人族の男でございます。ユースアウィス様に等しいほどの膨大な魔力、どの男子よりも美しく女神が最も愛している容姿、日々の鍛練もさることながらユースアウィス様直々に綿密な設定をされて鍛え抜かれた美しく躍動的な肉体、そして、その強さを持って誰かを虐げることもなく、驕ることもなく、その優しい心持ちによって他を慈しむことのできる、ユースアウィス様の最高傑作、ということになっております。まあ、端的に言えば、ユースアウィス様の理想を塗り固めた人形です」
毒蛇はムツキのことを持ち上げに持ち上げておいて、造形物にしか過ぎないといった言い方で吐き捨てた。
「最高傑作? ははは……それは冗談としてはたしかに最高の傑作だな。しかし、ユースアウィスがまた創ったのか。まあ、俺が眠っていて相手をしないから、俺に似たようなおもちゃを創ったというわけだな。まあいい。俺を見れば、そのおもちゃも捨てたくなるだろうさ」
アニミダックは自身もまた、ユウの創った最高傑作であるという自負を持っており、毒蛇の説明に少し引っ掛かる部分がありつつも気に留めていないと周りに見せるための雰囲気を匂わせている。
しかし、その姿をあざ笑うかのように毒蛇が首を横に振った。
「それがそうでもございません」
「何? 俺がそいつよりも劣ると言うのか!」
アニミダックが思わず毒蛇の首根っこを掴む。しかし、毒蛇はそれをさほど気にした様子もなく、顔を再び彼の方へと向けると舌をチロチロと出しながら見つめていた。
「……落ち着いてください。話がまだ途中です。しかし、同胞を傷付けるのであれば、この話は終わりです」
アニミダックは苦虫を嚙み潰したような表情になりながら、毒蛇の首から手を離した。
「おぉ……恐ろしい、恐ろしい……私めのような味方でさえも逆上して攻撃するようでは、とても優しい心持ちとは言えますまいな……」
「ふんっ……味方? 面白いことを言うじゃないか、お前……まあ、いい。もう、俺を試すのは終わりだ。もったいぶるな……早く言え」
毒蛇の言葉と会話の流れで、アニミダックは自分が試されていると感じ取り、毒蛇のけしかけるような言葉を聞き流すことにした。毒蛇はその様子に、御しやすいと判断して、ニヤリと笑みを浮かべる。
「……承知しました。ええ、劣るという言葉とは少し異なりますが、アニミダック様がムツキに勝てぬ理由がございます。それは、ユースアウィス様がご自身ですら掛かってしまう強力な魅了をその男に付与したからでございます」
ムツキには確かに友好度上昇のスキルが付いており、魅了の一部に間違いない。
それは彼がハーレムを形成する際に必要だとユウが判断したものであると同時に、彼一人では生きていけないために誰かに世話をしてもらえるためのものでもあった。もちろん、彼女にも多少効果があるし、その影響を彼女自身が取り除こうとも思っていない。
ただし、それは彼が何をしても許されるような強力な魅了ではなく、あくまで彼の優しさや思いやりがあって効果が十二分に発揮されるものである。
つまり、毒蛇は少しの誤解を含ませるようにしながら、ユウ自身がまるでムツキを愛さなければいけないようになった呪いのような言い方をわざとしたことになる。
「つまり、ユウは自らおもちゃを愛しく大切に思うようにした、と?」
アニミダックはその言葉を毒蛇が思うように解釈する。毒蛇は首を大きく縦に振って、彼をおだてている。
「さようでございます。さすが、ご聡明なアニミダック様であらせられる。さて、そのため、たとえ【バリア】を破壊して、アニミダック様がユースアウィス様を仮に手籠めにしたところで、……心変わりはありません。子どもの大好きなおとぎ話と違い、王子のキスで姫が悪夢から目覚めるわけではないのです」
毒蛇の中のニドは、彼のシナリオ通りの展開に満足しつつ、もう少し面白くしようと欲を出す。
「そう、ユースアウィス様の心はムツキという男から離れることがありません。ユースアウィス様の透明で純粋無垢な御心も……その美しい御身体もその男のものでございます」
アニミダックは今日一番の驚愕と絶望したような表情へとみるみるうちに変わっていく。
「か、から、……身体だと!」
毒蛇は心の中で二度目の高笑いを響かせていた。