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夜飴です。
なんかpixivで見て感化されちゃったから書きます。
いろいろ慣れてないんで、大目に見てくれると嬉しいです。
本編どうぞ。
※今回一瞬木赤あります。中身はないはずです。
赤葦side.
──最悪だ。
必死に今まで積み上げてきたものが、一瞬で崩れてなくなってしまった。もう何も考えられなくて逃げる俺を、遠くから木葉さんたちが大声で呼んでいる。嫌だった、これまで、必死に、必死に、隠してきたのに。それがいつか綻びる日が、漠然とずっと先のことだと思っていた。俺はsubで、絶対にボロを出さないよう、付け入られないよう、いつもちゃんとしていなければならなかったのに。朝急いでいてうっかり、今日は抑制剤を忘れてきてしまっていた。いつもあるのに、ない。普通の人からしたらそれだけ、でも俺は、“それだけのこと“で全てが狂ってしまう。練習の間も落ち着かなくて、心臓が締め付けられるような不安で泣きたくなった。
俺は高校生になってから急にそれまで鳴りを潜めていたsub性が強くなってきて、薬に頼り切りになるのは流石にまずいかと何度か国のマッチング制度で何人かのdomと簡易的なplayはやった。その度一瞬心が軽くなるけれど、俺のsub性は急激な発現の速度を緩めることはなく、むしろ促進している節すらあってすぐに医師に止められた。どんどん強くなっていく薬の副作用でバレーに支障を出さないようにするので精一杯になっていたから、他のことは一切手につかずにいて、それを相談することも誰にもできなかった。気が付けばほぼ全員の揃った部室で、「誰か抑制剤持ってないですか」と思わず口走っていた。ポカンと口を開けた集団の視線に一瞬遅れて背筋が冷え、頭が真っ白になった。誰かに止められた気がしたけれど、それが誰か確認することもせずに逃げ出して、今のこの状況に至る。
思わず叫び出したくなるような不安と恐怖が全身を支配して、体が上手く動かせなくなる。息ができなくなる。冷たい廊下にへたり込んだ俺を、ある人は怪訝そうにちらりと見て、またある人は嘲笑うようにして、横を通り抜けた。そして、人混みを掻き分けて現れたその人の一際大きな影が俺の俯いた視界に映る。ふわりと温かい体温が俺を包んで、優しい声が俺の耳元で「“relux”…落ち着いて、あかあし」とcommandを囁いた。すると、まるで魔法にかかったように全身の筋肉が弛緩して呼吸が楽になり、あれだけ張り詰めていた緊張が初めからなかったように解けて空気に溶けていく。
「ぼくと、さん。おれ、これはちが、ちがくて」
それでもまだ震える手でその大きな体を押し返そうとすると、「…“relux”、大丈夫、ちゃんとできてるから…」と再び同じcommandを重ねられた。今度こそ体から完全に力が抜けて胸元に顔を突っ込んだ俺を木兎さんは抱き締め、耳元で「Goodboy…上手だよあかあし」と囁きながら周りの視線から俺を隠すようにして部室まで戻る。その途中でも木兎さんはたくさん俺を褒めてくれて、その度に徐々に頭がふわふわして、くらくらしそうなほどの快感が体に染み込んだ。今までに1回も入ったことのないsubspaceは、ガチャ、と音を立てて開いたドアの向こうに誰がいるのかなんてもう分からなくなるくらい、柔らかく甘やかなものだった。あまり頭に入ってこないけど「あ、木兎戻ってきた」「どうだったよ…って、赤葦これどうしたの!?」「マジか木兎手早えな」「え、なんか…酒でも飲んだ…??」「まー確かに、赤葦がsubって言われても違和感はないけど、理解できるかって言われると正直ピンとはこねーよなぁ…」「えっ」「お前気付いてなかったのかよ!」「うるせー!!てか全然わっかんねえししょうがねえだろ!?」と騒ぎ放題で結構うるさい。その好奇の視線から逃げるように木兎さんの胸に顔を埋めると、ん、という甘えた声が無意識に漏れて、少し恥ずかしくなる。木兎さんはそんな俺の頭をするりと撫でて、抱き締めてくれた。しばらくすると騒ぎも落ち着いて、木兎さんは木葉さんに早速自分ができない時のケアを頼みに相談を持ちかける。
「まあ、今回は俺のcommandすんなり聞いてくれたから良かったけど、逃げちゃったりしたらちゃんと優しくできるか怪しいし、それこそ変にglareとか出ちゃったりしたらーとか、何より俺がいないときが怖いからなぁ…だからさー、頼むよ木葉ー」
「他に知り合いとかでdomいねえのかよ」
「だって俺のあかーしだし…黒尾が一応パートナーいるけど、あいつはなんかやだ!詐欺師っぽい!取られちゃう気がする!!」
「選り好みすんな!俺だって忙しいし、素直に頼んどけよ!」
「はーい……」
木兎さんが大人しく黒尾さんに部屋の隅っこで電話をかけ始めると、それと入れ替わるようにして木葉さんが俺の前の椅子に座った。少し好奇心の見える顔で俺を見て、呆れたように笑う。
「ったく…お前も結構繊細だよなぁ……。……おい木兎ー、赤葦寂しそうだから一瞬借りていいかー?」
木兎さんは一瞬すごく嫌そうな顔をして、俺に目配せした後微かに頷くような動作を見せた。
「……ほんとは、やだけど…でも、あかーしがいいって言ったら、いいよ」
「よっしゃきた!赤葦、ちょっとだけcommand使っていいか?」
木葉さんも木兎さん同様部活ではdomだと公言していて、そこまで欲求が強い訳ではないとは言っていたけれど、病院で処方された薬がどれも合わなくて定期的にplayしないと不調になってしまうらしい。俺なんかでよければ、と応じると、ありがと、と囁かれて、“kneel”のcommandが下りる。足を開きぺたりと床に座ると、すぐに「Goodboy、赤葦」と褒められて、指先がじんと熱くなって震えた。この人は案外甘やかしたがりなのかもしれないな、なんて思うと自然と笑みが零れる。
「“come”、こっち来て」
kneelの体勢から少しだけ腰を浮かせて四つん這いのような姿勢で木葉さんの足元まで近付いた後、その腕に抱き寄せられて太腿に頭を乗せるとゆっくりと耳の辺りを撫でられた。
「Good.上手にできて偉いな」
「っ、いえ、木葉さんがcommand、くれるから」
たくさんrewardをくれる木葉さんに対して口ではそう言っておきながら、俺の意識はcommandを熟す快感で徐々に蕩けていく。
「……かわいい…」
耳元で囁かれて軽く肩が跳ねるとさらに声が近付いて、ねえ赤葦、とdomの目をした木葉さんの顔が目の前に来た。
「ちょ、木葉さ、「木葉?お前、何やってんの?」
木兎さんのglare。体が震えて、怖くて、不安で、床にへたり込むようにして自然と俺はkneelの姿勢で木兎さんの足元に跪く。そうしていないと捨てられるかもしれないという最悪の予想が頭から離れなくなった。歯の根が合わず、奥歯がかちかちと鳴る。首筋に氷を押し当てられたような冷たさと緊張感でまともに息ができなくなる。今にもdropしてしまいそうなのに、それでもどこか心地良くて、支配されたい、お仕置きされたい、と本能が頭の中で滅茶苦茶に暴れ回っていた。俺のぐちゃぐちゃの意識では猛禽類のような金色の目を探すのが精一杯で、何も声を発することはできなかったけれど、縋り付けば少しだけ安心して、大丈夫、木兎さんはここにいる、と微かに残った理性で自分を落ち着ける。
「っは、…木兎、それやめろっ…!」
鋭く、それでいて恐ろしいほどの重圧を持つglareに、木葉さんですらも膝を折っているのが視界の端に見えた。ぐらり、と傾いた視界に映ったのはやっぱりあの人で、ああ俺はちゃんとできなかったんだなと自分が心底恨めしくなる。
「! あかーし!!」
意識が冷たく凍りついていって、俺には電池の切れたおもちゃのように転がることしかできなかった。ごめんなさい。木兎さん、俺が悪かったです。だから、何回だって謝るから、どうか、俺を許して。
もう一度目を開いた時に最初に目に入ったのはさっきまで全身に突き刺さるようなglareを放っていた金色の瞳で、今は柔らかい蜂蜜色に変わっていたけれど、少しだけ体が震えた。
「……木兎、さん。俺…ちゃんと、できなくて…」
大丈夫、と言ってくしゃりと俺の頭を撫でた木兎さんはやっぱり気の所為ではなく柔らかな雰囲気を放っていて、それは意図的なものだと気付き、とても申し訳ない気持ちになる。こんなに気を遣わせてしまった俺はやっぱり木兎さんに捨てられるのかもな、なんて自嘲気味に思いながら、「ありがとうございます…ご迷惑をおかけしました。もう二度とこんなことは起こさないので、忘れてください」と、すっかり冷静さを取り戻した理性で嘘を吐いた。本当は忘れて欲しくない。あの強制的で感覚が麻痺するようなcommandと、それを熟した後の甘く柔らかいreward、木葉さんに抗えなかった俺に対する鋭く重いglareの後では、この人以外のdomなんてびっくりするほど霞んでしまう。木兎さんというdomを、俺だけのものにしたい。俺を、木兎さんだけのsubにしてほしい。
「…あかあし、“say”」
突然のcommandに、びくんと肩が跳ねる。「……ぁ」と情けない声しか出せない俺に、木兎さんはもう一度「…“say”、言いたいこと全部教えて」と囁いた。本当、この人は変なところで勘がいい。
「…俺、木兎さんの…木兎さんのsubに、なりたい…です」
木兎さんが微かに目を見開き、その心底嬉しそうな顔につられるように自然と口元が緩んだ。俺も、と呟いた木兎さんに抱き締められて少し息苦しくなったけれど、温かくて大きな体が少し震えているのを感じて、この人にも恐怖を覚えることがあるのかと驚く。
「ねぇ、あかーし。俺の、俺だけのsubになって。誰にも従わないで。俺だけに跪いて」
耳元で甘く低い声がして、喜びで小さく身体が震えた。
「…はい、木兎さん」
俺は、あなたのsubになります。
長くなりました。
次は黒研になる予定です。
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それじゃ、お疲れ様です。