『貞子!羊水の無くなったお腹の中はその子にとって危険だよ、その子を出さなきゃいけない、次の痛みで教えた通り一度いきんでみな!呼吸法を使うんだよ!』
貞子が静かになり汗だくになって、しゃべる気力もなさそうだ、ハーッハ―ッ言いながらもコクリと頷いた
「ネネお婆さん!貞子さんがわかったと言ってます!」
それからはとんとん拍子に進んだ、アリスの心臓は爆発しそうだ
『さぁ・・・貞子あたしと一緒に・・・フゥ―――――――!フゥ―――――――!』
ネネ婆さんは優しい声であやすように、貞子に呼びかけ、その呼吸法を必死で指導する
部屋はエアコンの温度を30度にまで上げて、ムシムシしている、アリスの額から汗がポタポタ落ちた
貞子のいきみは上手だった、本能で分娩に立ち向かっている今、彼女はまさに母親だった
『痛みはその子が出ようとしてるんだよ、手伝ってあげようね、さぁ!痛みに合わせていきんで』
「お・・・おねが・・い・でてきて・・・!ふうぅぅぅううううううぅううう~~~っっ」
『上手だよ!』
アリスが下は素っ裸の貞子の腹を毛布で包もうとしたが、いるかっこんなもの!と、貞子に勢いよく払いのけられた
今は触らない方がいいかもしれない
「つっ・・・掴まるもの・・・」
アリスが何かないかと考え、ダイニングテーブルの椅子を、貞子の両脇に置いてあげた、椅子の脚を掴まえさせたら少しはいきみやすくなったようだ
陣痛がひいてぐったりした貞子の汗まみれの、額をガーゼで拭いてやる、お産の場に女の慎みは入り込む余地はない
不思議だが会ったばかりなのに、実の姉のように感じる、涙がじわりと溢れる、なんとか無事に産まれてほしい
途端に貞子が不憫になった
本当なら病院の清潔な分娩室でベテランの、産婆さん達に囲まれて安心して産みたいだろうに・・・
アリスは貞子の額にかかる濡れた髪を、撫であげ額に流れる汗を拭いた
「貞子さん・・・ごめんね・・・ごめんね私で・・・ 」
アリスは情けなくてポロポロ涙を流した
「なにを言ってるの!あなたがいてくれるから・・・ふうぅうううううぅううぅうう~~~~ 」
いよいよだ!貞子の脚の間にアリスは移動した
貞子の体からは羊水と血液の匂いがした。アリスも脇腹から汗が流れ落ちるのを感じた
「ネネおばあさんっっ!頭が見えましたーーーー!」
でもすぐに頭は奥にひっこんだ
「ああっっ!また中に戻りました! 」
お願いっ!出てきて!みんな待ってるのよ・・・
アリスは心の中で叫んだ、涙で前がかすむ
泣くなっっ!!貞子さんだって頑張ってるんだ、ぐいっと手の甲で涙を拭き歯をくしばった
『貞子!きばりな!!きばれ!出すんだよっっ』
「ふぅーううぅぅううぅうぐぅうううう~~~」
貞子が髪の生え際まで真っ赤になって、歯を食いしばる、椅子の脚を掴まえているその手の指は力を入れ過ぎて真っ白になっている
次の瞬間、ポンっと紫色した頭が出た
「出たわ!頭が出ましたっーーーーーー!!」
アリスが叫んだ、ぬるぬるした小さな頭を両手で支えた、なんて温かいの
『貞子にいきむのをやめさせなっっ!』
スピーカーからネネばあさんが叫ぶ、おばあさんも興奮している
「貞子さん!いきむのをやめてください!いきまないでっっ!!」
『貞子!呼吸法だよ!教えただろ!頭が出たらっ!ハッ!ハッ!ハッ!力を抜いて!』
「ハッ!ハッ!ハッ!」
貞子が目をひん剥いて宙に向かって、必死で息を吐く、アリスも必死で貞子と呼吸法をする
『今は赤ん坊の肩が横になってるだろ』
「なってます!」
『今いきんだら会陰が裂けるからね、その子に生きる力があったら自然と回り出すよ、首に臍の尾が巻いていないか確認して!!』
アリスは必死で首の周りを触って確認した、今の所臍の尾らしきものは見当たらない
「大丈夫です!!」
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