「……私一人くらい落ちなくても、別にもういいじゃないですか……」
さっき話していたように女性関係には困っていないんだろうから、いつまでも私になど構う必要もないのにと思った。
「そうですね……私は、あなたを落とせないことに、なぜここまで固執してきたのか……」
自分でも釈然としない様子で、そう呟く彼に、
「……私に固執する理由が、何かあるとでも……?」
ワインを飲んで、ふと尋ね返した。
「……理由……そんなことは考えもしませんでしたが……しかし私は、なぜか君を……」
そこまで言うと、彼は口を閉ざして、それっきり黙り込んだ。
何を言いかけたのかもわからないまま、だけど聞いてもたぶんもう答えてはくれない気がして、
互いに押し黙り、ただワインを口に運ぶ時間だけが過ぎる。
部屋の中は静かすぎて、時計が時を刻む音が耳について響く程だった──。
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